微妙に世界の蚊帳の外



空が近い広間にはへたり込む私、弓を持つコスプレ青年、銃を持つ一般青年。
喚ぶとか喚ばないとか何が起こっているのか全くわからない。ただひとつわかるのは、私はこの弓を持っているタクミという人に命を助けられたらしいという事。

「大丈夫か?そこの人。襲われてたけど、怪我とかなかったか?」
「大丈夫…だと思う」
「なら良かった。いきなり大英雄とか撃てとか言われて訳分かんなかったんだけど、なんとかなったっぽいな。ええと……ありがとう、タクミ」
「あんたが僕を召喚したの?こっちじゃなくて?」
「たぶん……そうだと思う」
「なんだよ、はっきりしないなあ」

ラフな格好の青年は銃を持ってない手で頬を掻く。表情は困惑していて、彼も事態をうまく読み込めてないようだ。

「助けが間に合って良かったわ。あなた、大丈夫?」

彼の後ろから赤い髪の女性が現れて、ラフ青年の隣に立つ。彼女の服装と手にした斧。見比べて、思わず呟いた。

「ファンタジー……」






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「アンナ隊長!無事で良かった」

暗い色の髪を基調として、毛先が金色に染まっている風変わりな青年が慌てた様子で駆けてきて“アンナ隊長”に呼び掛けた。腰には剣を提げている。ファンタジーその三。
ラフな青年が持っている銃を見、その整った顔に驚愕を浮かべた。

「…?その人は…まさか!」
「ええ、例の儀式を試したら現れたの。エクラというのよ。
いにしえの伝承とおり…神器ブレイザブリクを撃ち放ち、英雄を召喚する力を持つわ」
「はじめましてエクラ。君が異界の大英雄か。お目にかかれて光栄だよ」
「大英雄だなんて、そんな…俺はただ必死だっただけで」
「いいや、君こそが伝承に伝わる召喚師だよ。そこに召喚された英雄が何よりの証。…僕はアルフォンス。特務機関の一員……そして、このアスク王国の王子だ。
さっそくで悪いけれど、君の力を貸してくれるかい?」
「俺にしか出来ないなら…出来るかはわからないけど、精一杯やってみるよ。よろしく、アルフォンス」
「ああ、頼むよ。エクラ」
「タクミも、一緒に戦ってくれるか?」
「あんたは戦えないの?」
「いやまったく」
「……なら、しょうがないな。力を貸してあげるよ」
「ありがとう!助かるよ」

……以上が、私を無視して続けられた会話だった。
すごい!びっくりするほど蚊帳の外!ある種の感動すら覚える。
八割理解できない会話が一段落つくと、一同は私の存在を思い出したらしい。「それで、君は…」と、剣を携えた青年――アルフォンスが怪訝そうに窺ってくる。

「アルフォンス。彼女は多分、俺と同じ世界からやって来たんだ」
「ええっ!?確かに伝承には召喚師はひとりとは書かれていなかったけど…」
「けど彼女は今さっき危険な目に遭ったばっかりなんだ。アンナさん、彼女を元の世界に送り返すことって出来ないかな」
「えっ!?え、えーと……。でももしかしたら彼女も伝承に伝わる大英雄で、召喚師なのかもしれないわ!」
「でも俺がいるし」
「どのみち、エクラも彼女ももう特務機関の一員よ!さあ、王城へ帰還しましょ!」

あ、ごまかされた。