ひとまず進め






何が起こっているのか全くわからないままに、紋章の世界とやらに敵対する国の兵が攻めてきた!と言うことで一同は戦場へ向かった。……私を除いて。




特務機関とやらの本部らしい城で居残りを言い渡されてかれこれ数時間。一階の広間で待ちぼうけて、ようやっと一同が帰還したと思ったらファンタジー要員が一人増えていた。
ブロンドの髪に緑の瞳、そして背中には重そうな槍を背負っている女性だ。
彼女は私を見つけるなり、ぱあっと表情を輝かせて私へ向かって駆け寄ってきた。ちょっと待って、勢い良すぎでは――。突進してきた彼女は私の手を両手で掴んで顔をぐいと近づける。瞳がきらきらしている。めちゃくちゃきらっきらしている。まるで憧れの芸能人に出会えたファンのような反応である。

「あなたがもう一人の異界の大英雄さんですね!?私、シャロンです!アルフォンスお兄様の妹で、一応このアスク王国の王女です!」
「そ、そうなんだ」
「そうなんです!異界からの救世主が二人も!きゃー!感激です!握手してもいいですか!?」
「……シャロン、もう握手しているだろう。それに彼女も困ってる」
「わわっお兄様!すみません、えっと……お名前訊いても良いですか?」
「李依、です」
「李依さん!李依さんですね!これからよろしくお願いします!」

放置されっぱなしだったのが、いきなりの超至近距離スキンシップ。ジェットコースター並みの落差に気圧されつつも、放置されてやさぐれていた私の心にシャロンの歓迎はちょっと嬉しい。シャロンは繋いだ手を上下にぶんぶん振っている。

「李依と言うのね。もう知ってるだろうけど私はアンナ。ここ特務機関“ヴァイス・ブレイヴ”の長よ。よろしくね、李依」
「僕はアルフォンス。挨拶が遅れてすまない」
「俺は絵倉。絵倉航輝。なんか、凄いことに巻き込まれてるけど……同じ出身同士頑張ろう、李依」

アンナさんには元の世界への帰し方が分からないと謝罪された。戦いに巻き込まれた絵倉君が笑って許しているのだから、私はただ頷くしかない。

唐突に命を奪われかけて、そこから数時間。どうやら“異世界”に来てしまったことを本格的に認めざるを得ないようだ。
ようやく自己紹介と状況の把握を終えて、ながいながいこれからが始まる。そんな気がした。