▼  死は最も身近な友人である






(堅琴の節)




各学級それぞれが節末に課される課題。金鹿学級の課題は時期を迎えた野菜の収穫手伝いという実に平穏なものであった。
主に力のあるラファエルが採れた野菜を運び、
ローレンツは「貴族たる僕がなぜ…」などと文句を言いながらもクロードと張り合った結果人一倍働き、
収穫経験のあるレオニーがコツを教えて周り、
教わったマリアンヌ、イグナーツ、レイネがぎこちないながらも野菜を引き抜いていく。
ちゃっかりヒルダが木陰で休んでいたものの、体力の無いリシテアが無理をして倒れたためにその面倒を任されたりと、それらはクロードの指揮のもと進められていった。

とっぷりと日が暮れ、全員がくたくたになるころには入学時の気まずさなどはさっぱり消え、全員で課題をこなしたという一体感が僅かながらも確かに芽生えていた。



――



節が変わり、金鹿学級は平和だが決して楽ではない労働から解放された。一方で黒鷲学級に課されたのは山沿いの国境の見張り。こちらは騎士団付きのただ立っていればいい簡単なものであったらしく、帰ってきた黒鷲学級の生徒たちはヒューベルトをはじめみな涼しい顔をしており、ヒルダとレイネは「羨ましい、ずるい」と意見を共有した。

青獅子学級だけは数日遅れで遠征から帰還した。
いつも通りのベレトを除いて、彼らの表情や雰囲気は遠征前とは違う覚悟を宿しておりレイネは不思議に思う。
青獅子学級に課された課題は「盗賊の征伐」だと聞いていた。不穏な響きではあったが、征伐という単語の上辺だけ酌み取って、それより深くは考えないまま。




――




節始めの週末。校内を散策するベレトが学生寮の屋根上に足を踏み入れると、読書に耽るレイネの姿があった。
他に誰もここを訪れない此処は、どうやら彼女のお気に入りの場所らしい。足音に気付いたレイネが顔を上げる。

「ああ、お疲れ様。盗賊の……征伐?に行ってたんだっけ」
「レイネは?」
「野菜の収穫。全部手作業だから疲れたよ……早く機械化が進めばいいのに。青獅子学級も疲れているみたいだけど大丈夫?」
「皆実戦は初めてだったから、疲れたらしい」

実戦。ベレトからさらりと告げられた言葉の重みに息を呑む。
盗賊。征伐。実戦。青獅子学級のどこか腹を括ったような表情。想像を超えて重たい現実である事を初めて実感する。
タロム港の輸出入業者に護衛がつく理由も、山を越える荷馬車が賊に襲われた話も、他人事のつもりはなかった。それでも同じ生徒が戦いを経験したという事実に胃は沈む。

「盗賊と戦ったの?」
「ああ」
「そっか。…それなら疲れるのは当たり前だね」

人を殺したのか。その問いは何か決定付けるもののような気がして、口には出来なかった。
平然としているベレトは物心ついての傭兵だ。それは、つまり今までも。

「……みんな、無事で良かったよ」

安堵の言葉とは裏腹な沈んだ声音で返されて、ベレトは首を傾げた。

フォドラには警察も裁判も存在しない。ガルグ=マクの支配下であれば、罪状は大司教の一存で決定する。
それがどういう意味を持つのか、何を持って征伐と為るのか。それは、後に痛みを伴って思い知る事となる。