いっぽ。 | ナノ



少年と甘味屋。




火黒は困っていた。

よろしくと言ってからすでに1時間。

自分の用事が終わっていなかったので冬獅郎にもついて来てもらうことにした。
だが、いまだに二人の距離は1m間隔開いていて
わざと自分が遅めに歩いてみると、冬獅郎もそれに気づききちんと間を空けなおす。

「・・・はぁ。」

火黒はため息をついた。

自慢ではないが自分は子供から嫌われたことはなかった。
今まで一度も。

子供が嫌いかと言われると、どちらかといえば・・・いや、かなり好きなほうに
なるだろうと思う。

あの笑顔をみればどんなに汚れた心でも
清くなる。

しかしこの子供は・・・何と言うか子供らしさというものがない。

元々、そういう子供なのかそれとも…。

「ぁ…。」

その時、子供の小さな声が聞こえた。
何だ、と火黒は振り向く。

冬獅郎は横の店を見ていた。
火黒は冬獅郎の惹かれたものが気になって、視線を店に向ける。

店は甘味屋だった。
そして最近、自分が仲間とよく通う休憩の場でもあった。
知らない子供の笑い声がする。
無意識にそちらを見た。

そこでは、冬獅郎と同じ歳くらいの子供が
父親と思われる優しそうな男と一緒に餡蜜を食べていた。

それを見て火黒はもう一度、視線を冬獅郎に移した。

「…入るか。」

無意識だった。
何も考えずに、気づくと話かけていた。
しかし、それは決して不快なものではない。
それは、わかる。

冬獅郎もまさかこんなことを言われるとは
思わなかったのだろう。
ただでさえこぼれ落ちそうな瞳を
もっと開いてじっと、様子を伺っている。

10秒ほどたっただろうか。
冬獅郎がそっと口を開いた。

「…いいのか?」

それが何だか可笑しくて、はたまた可愛くて
火黒は思わず、笑って言った。

「当たり前だろう?
さ、入るぞ。早くしないと晩飯が入らなくなるからな。」


その日、俺が注文してやった内のひとつ、
甘納豆を冬獅郎が気に入り、暫くしてから
毎週買いに行くようになるのは
また、別の話だ。




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