第五章 人識「教室は嫌だ」 そう言うと人識は私を連れて屋上に来た。 確かに私も教室は嫌だ。 黒雛を名乗ってから教室の空気が痛いし、嫌な雰囲気なのだ。 刹識「なぁ、人識」 人識「あ?なんだ?」 刹識「――悔しい、悔しいよ。」 人識「……。」 自分の手で守れなかったことが、悔しかった。 彼女達家賊をこんな目に遭わせることになってしまったのは、自分の浅はかな考えと愚かな自分の注意不足だった。 そして心の奥底から混みあがってくるのは復讐の黒い焔。 沸き上がるのはふがいない自分への紛れもない怒りの炎。 それだけがあった。 刹識「こんな自分が愚かに見える。」 人識「刹識」 刹識「大切な弟妹一人守れなくて、何が人類最上だ…こんな自分に笑えてくる。」 人識「刹識っ!!」 人識は私を怒鳴りつけて怒った。 私が何か人識を怒らせるようなことを言っただろうか。 ふと気づくと彼の手は震えていた。 怒りで震えているのかと最初は考えた でも、彼の顔を見て驚いてしまった。 彼は怒っている、でも泣いている。 泣きながら怒った。 震える声を振り絞り精一杯私を――怒った。 人識「馬鹿やろうっ!!そんなこと言ってんじゃねぇよ…!!」 刹識「人、識…?」 人識「こんな事があって、確かに一番不安定なのは刹識だって、俺だって知ってる!!でも、この事件が起きたのは、刹識のせいじゃない!!刹識は、黎織や輝識の事を考えて並盛に行って良いって言ったんじゃないのかっ!?」 刹識「そうだけどっ…」 人識「そうだけど何だよっ!!自分で判断した訳じゃないんだろっ!!大将に相談して、判断したんだろ!?だったら良いじゃねぇかよっ!!」 刹識「でもっ!!そこで引き留めていれば!!」 そんな目に遭うことも無かったのに、と言おうとして詰まった。 人識の瞳があまりにも真っ直ぐ私を見ていたから、言うにも言えなかった。 人識は私の肩から手を離し私に背を向けて出入口に向かっていった。 人識「そんな刹識、大っ嫌いだ」 そう吐いて、私を独りにしてどこかに行ってしまった。 刹識「っ……!!うぅっ…」 ただそこで泣くしかない私が誰よりも一番無力だと感じた。 萌太「刹識…」 言ってしまった。 そんなこと、思ってねぇ。 本当は今にも支えてやりてぇ、でも…今の刹識じゃ、支えようがねぇんだよ。 人識「どうすりゃあ、いいんだよ…輝識…」 頼むからもう、それ以上自分を責めるな。 責めて喜ぶ奴なんか一人もいねぇ。 寧ろあいつ等が悲しむから、だから。 だから――― 人識「もう、自分を責めるなよ…」 そんな言葉も、今じゃ誰もいない階段通路に虚しく響き渡るだけだ。 本当は誰よりも、 人識「アイツが好きなんだけどなぁ…」 俺は何もない壁を見た。 柄にもねぇ、そう言いたかった。 心の虚は広がるばかり。 俺は仕方なく教室に戻ることにした。 今は独りにしよう、散々泣かせておこう。 それが俺の考えた結論であった。 <<|back|>> |