彼の彼女
次の日の朝、私服で行こうかと思ったが一応練習試合なので、学校の制服を着て試合を観に行くことにした。

『上崎』

「はい、お車の用意は出来ました。」

『ありがとう。』

「...お嬢様、」

『?』

「いつになったら綺麗にリボンを結えるのですか。」
と上崎がなまえのリボンを結いなおす。

『だって...』

「まったく、北大路家の子女がそのようでは...」

『はいはい。もう行こう。』

家の前のリムジンに乗り、会場に向かうが近くで止め、体育館までは歩くことにした。

『何で上崎も来るかなぁ。』

「お言葉ですがお嬢様がお一人でそのような場所に行かれますと、こちらにも被害がこうむるんです。旦那様とか旦那様とか。」

来るのはいいけど服装がもろ執事な格好なわけで、いつもお金持ち扱いされるなまえにとっては嫌だったが、ここまで来てはしょうがなかった。
早速、車を降り、ぞろぞろと歩いている人たちに紛れるが、視線を多く感じた。
時計を見ると、試合1時間前だったがそれでもこの人の多さには驚いた。

「お嬢様、心配してなくとも席はご用意しております。」

『いーよ、そういうの。上崎が一番わかってるでしょ?特別扱いが嫌いなの。』

「ですが人の入りが多いと聞いていたので...。」


「わ、あの人桜蘭高校の制服....」
「隣にいる人も執事?」
「何者?」
「お金持ちー?」


様々な声を聞いたなまえは私服で来た方がよかったか、と頭を悩ませた。
会場に付き、体育館に入ると歓声に包まれていた。
寿の所属する湘北高校ではなく、そのひとつ前の試合が始まっているらしい。
一般の席もまだ空いていたのでそちらに座ることにした。
隣はどうやら、今やっている試合の応援席みたいで、賑わっている。

「お嬢様、本当にこのようなところでよかったのですか?」

『特等席じゃない。一番前だし。』

そしてその試合は圧倒的な試合で海南という高校が勝ったらしい。
試合が終わり、コート整備をしにモップなどをかけること20分、湘北高校のメンバーがコートに入ってきた。

「彼も大きくなりましたね。」

『.....。』

「そんなにお慕いしておられるのなら、早く想いをお伝えしたらどうですか。」

『そんな簡単にできたらとっくにしてるわよ...。』

すると階段を開けて、隣の応援席から「お疲れ様でした!」と大きな声が聞こえ、目を向けると先ほどの試合の高校の選手たちが帰ってきたらしい。
一人と目があったが、すぐに逸らし、再びコートに目を向けた。

「わ、桜蘭高校の制服初めて見たなぁ。」
「ほんとっすね!なんでたそんなお嬢様がこんなところに...。」
「お前ら、さっさと座らんか。」
「はいはい。」
一番前に座り、湘北高校の試合を待つ牧の隣にレギュラー勢は着席した。


寿にこっち見ないかなぁと見つめると、寿はこちらに顔を上げ、私を見つけてくれた。
するとすぐに私が座っているところの下にまで来てくれ、会話ができる距離になった。

「いい席座ってんじゃねーか。上崎も久しぶりだな。」

「ええ。お久しぶりです。三井さん。」

『すごい人だね。頑張って!』

「おう!」
彼の背中を見送ると、以前の中学生の時の寿と同じで少し安心した。
すると隣の席から話しかけられた。

「三井の友達なのか?」

『?はい。友人です。』

「へー、意外。」

意外って何だ意外って。

「こらこらノブ、初対面の人にどんな口を聞いるの。」
と人のよさそうな好青年が話しかけてきた。

「お嬢様、試合が始まるみたいですよ。」
上崎の声に顔をコートに向けるが隣の男の子はまだ話す気があるみたいで自己紹介をしてきた。

「俺、海南高校一年の清田信長!よろしくな!」

『私は桜蘭高校二年の北大路なまえです。』

「やっべ、年上だった!つーか北大路って聞いたことあるぞ...何だっけな、」
試合の始まる音が聞こえ、再びコートに目を戻す。
なまえの目には三井寿しか映っていなかった。

三年前に見た彼とは同じようで全然違っていた。
チームの仲間の事を考え動いているし、何より前よりも上手になっていた気がした。

そして寿がシュートを決めると歓声が沸いた。
寿は私の方を見て拳をつくったので、私も寿に同じポーズを返した。

試合は接戦だった。
そして寿の体の限界を遠くで見ていたなまえも感じていた。
とうとう、退場してしまった。

思わず立ち上がると上崎に腕を掴まれた。

『上崎っ...!』

「お嬢様、」
と彼の目は私から視線を外しある一点を向けるので、その視線を追った。

そこにはマネージャーにはいなかった可愛らしい女の子が寿の肩を抱いて裏に連れていく姿だった。
それを見て、大人しく座ったというより、ショックで座り込んだ。

「帰りましょうか。試合が終了しては道が混んで帰れなくなりますよ。」

『大丈、夫。』
それに上崎は何も言わず、コートの試合を再び見つめる。
なまえもコートに目を向けているが頭の中には寿と先ほどの女の子の姿だった。
そして試合終了の合図がなり、湘北高校は勝ったみたいだ。

「....今は混んでいますし、もう少ししてから出ましょうか。」

『...うん。』
未だに頭がついていけてないなまえを見て、小さな気遣いをしてくれた上崎に感謝をした。
そして人が少なくなってきたのを感じ、#nmame1#は立ち上がった。

「お、帰んのか。」
先ほどの清田君が話しかけてきた。
団体でいる海南高校も人が少なくなってから出るようだった。

『はい。』

「三井の友達ならよかったな。あいつらも全国大会だし。」

『そうみたいですね。』

「お嬢様、行きますよ。」
そして軽く会釈をし、その場をあとにした。

体育館の前に着くと人が多くいた。
「お嬢様、ただ今当主様から連絡がありまして、少し離れますがここにいて下さいね。」

『うん。』
上崎が離れ、周りの人たちを見ると孤独を感じた。
そこに聞きなれた声が聞こえた。

「なまえ!」
恐る恐る振り返ると寿と湘北のメンバーの方たちがいた。
寿の横には先ほどの女の子がいた。
とりやえず無理矢理笑顔をつくった。

『寿、おめでとう。全国大会だってねー。すごいね。』

「っても俺はこの通りだし、」
寿はフラッと倒れるふりをして彼女らしき女の子にもたれかかる。

「ちょ、寿!重いよー。」

“寿”

初めて私以外の人間が“寿”と呼ぶのを聞いた気がして、ショックはさらに重くなった。

「紹介してなかったか?俺の彼女。」
と肩を抱き、彼女は顔を赤らめながら「はじめまして」と言う。


「三井サン!桜蘭に知り合いなんていたんスか?!しかも美人...。」
「む、おうらんって何だ?」
「ばっか、花道。お前そんなんも知らねーのかよ。全国一の金持ち高校だっつーの。」
「...どあほう。」
「何?!どーせテメェも知らなかっただろ!ルカワ!」
「へぇ、桜蘭高校の女の子とは。」

『...初めまして。北大路なまえと申します。』

「え?!北大路って日本四代名家の一つじゃないか!」メガネをかけた男の子が言った。

「へぇ...そんなすごいお方が...。どうしてこんな所に。」

「俺の応援だ!」
偉そうに胸をはる三井に元気じゃないか、と心の中でつっこんだ。

「いつも寿がお世話になってます。話はよく聞いてるよ?あ、私は優子。仲良くしてね。」
腕を寿に組む彼女はきっと私が寿の事を好いていることを感づいているのだろう。
ちょうどいいタイミングに上崎がやってきた。

「お嬢様、急用ができたのですぐに帰宅して空港に向かいます。」

『どうしたの?』

「旦那様が事業のために急遽、フランスに1ヶ月向かう事になりましたのでお嬢様も奥様と夏休みの間、ご一緒することになりました。」

『また急ね...。じゃあ寿、また次会う時は夏休み明けかな。全国大会、頑張ってね。』

「ああ...。楽しんで来いよ。お土産楽しみにしてるからな。」

『うん。...それから皆様も頑張ってくださいね。』

「お嬢様、お車を待たせておろますので行きますよ?」
そしてその場を去り、車まで向かう途中に後ろから「待って!」と声がした。
振り向くと見たことのない男の子が走ってきた。

「あなた様は....」と上崎が呟いたので知り合いだろうか。

「これ、落としましたよ。」
白いイニシャルが入ったハンカチを渡されたので、ポケットを探ると確かになかった。

『わざわざありがとうございます。』

「ううん....。名前は?」

『北大路なまえです。』

「そう、なまえちゃん。僕は藤真 健司。またどこかで会うと思うからよろしくね。」
それだけ言い、彼はその場を去って行った。

『..どういう事?』

「いずれ分かります。」
としか言わない上崎に首をかしげ、車に乗り込んだ。

fin





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