それからフランスに渡り、ずっと暗かった気分をリフレッシュした。
フランスだけでなくヨーロッパを回り、色んな世界を感じ、視野が広く持てた気がした。
そして学校が9月の頭から始まることから、お父様より先に日本に帰ることにした。
フランスで過ごす最後の晩に家族全員で食事をした。
「最近はどうだ。学校生活は楽しいか?」
『はい、お父様。夏休みの間も研究に没頭することが出来ました。ヨーロッパで感じた世界観を論文にしたいと思っております。』
「そうか。...最近、三井くんは元気なのか?」
『...はい。先日も三井君が所属するバスケットボール部の試合も上崎と観戦し、彼の心身ともに成長を感じました。』
「ふむ。それはよかった。そうだなまえ。誕生は来週だな?その日に合わせては日本に帰る。今年は盛大に祝賀をする予定だ。楽しみにしていてくれ。」
『はい。そのような祝賀会を開いてもらえてうれしいです。』
その後、ホテルの自分の部屋に戻り、寝る準備をしベッドにもぐりこんだ。
『はぁ...何よ。盛大に祝賀って。何する気?上崎、知っているんでしょ?』
ベッドの傍で椅子に座り、本を読む上崎に問いただした。
「どうですかね。」
『しらじらしいなー。にしてもそんなに祝ってくれなくていいのに。気をつかうだけじゃん...。』
「ですがドレスのデザインを見るときっと少しでも気分が上がりますよ?」
『ドレスまでもう手配してるの?』
「ええ、お嬢様がお好きなブランドのデザイナーがお嬢様のためにだけデザインしたも一点ものですよ。」
『う...。』
「お嬢様、あまり夜更かししては体を壊してしまいますよ?」
『分かったわ。もう寝る。..おやすみなさい。』
「おやすみなさいませ。」
そして次の日、飛行機にのり日本に3週間ぶりに戻った。
早速しばらく放置していたゲームを握り、大画面のスクリーンに映し、ゲームをし始めた。
お母さまは許してくれるが、お父様の前でゲームをするのは自殺行為なのでこうして、お父様がいないときにしか出来ない。
画面の中に彼氏にため息をつく。
そう、なまえは乙女ゲームをしていて、現実では三井に片思いしかしたことがなく恋愛経験はゼロだった。
ノックがしたので通すと上崎が現れた。
『どうしたの?上崎。』
「お嬢様...またゲームを...。晩餐の用意が出来ました。奥様が待っております。」
広間に着くと長い机の端に座るお母さまに会釈をし、向かいの離れたところに座ろうとするが、用意されているお皿はお母様の傍に有るので、そこに座った。
「体調はどう?ヨーロッパでもあまり元気がないのが見えましたから心配していたのですよ。」
『もう大丈夫です。日本に帰ってきて、少し体調を取り戻せました。』
「それならよかったわ。...お父様には口止めされていますがね、今あなたに言わなければならないことがあるの。」
『?何でしょうか?』
「あなたが体調がすぐれないときにこれをいうのは少し躊躇しますが...当日に言うのを酷だと思うので。..一週間後に控えている誕生日の祝賀会で、あなたの婚約発表をする予定です。」
『こ、こんや、く?』
「はい。まだ婚約なので結婚は先ですが...。」
『私がですか?』
「ええ。相手の方はお父様の古くから仲の良いご友人のご子息みたいです。」
『今まで一度もそのような素振りは...。』
「これはあなたが生まれた時から決めていた事なのです。16の誕生日に婚約を発表し、23になるころに結婚、と。」
『そんな....。』
「...分かっています。私はあなたが三井くんの事を好いているという事を。勿論、つらいことも分かりますが...。」
『....失礼します。』
だけ言い、広間を出た。
月明かりに照らされた長い廊下を歩き、庭に出た。
初めて寿と出会ったのもここだった。
『...だれ?』
「あっやべ!お前、ここの家の子なのか?」
『うん。』
「そっか。わりぃ、ボールが中に入ったから探してたんだ。」
『ボール?どんなの?』
「スーパーボールなんだけど...俺にとっては大切な物なんだ。」
『すーぱーぼうるって何?』
「は?!お前祭りとか行ったことあるだろ?屋台に出てるボールすくいのやつだよ。」
『やたい?祭りは行ったことあるけど...ボールすくいなんてなかったよ?』
「あ、そっか。おじょーさまとやらは祭りに行かないのか?」
『....。』
「あ!俺は三井 寿だ!お前は?」
『あたし?北大路 なまえだよ。』
「なまえな!よし、俺が外のこと教えてやる。まずはボール探しだ!」
目を閉じると小さい頃の記憶が鮮明と流れる。
あれから月日はたったがなまえの心の中にはいつまでも残っている。
「お嬢様。冷えますよ。」
上崎が背中にブランケットをかけてくれた。
『....ありがとう。』
「いえ、」
fin