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気になるあの子のTRICK

「トリックオアトリート!お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!(物理)」
「……」
「……」
「……」
「ちょ、せめて何か言って。視線が痛い」

部室に入るなりそう言ったものの、部室内にいた木手くん平古場くん甲斐くんは何も返してくれなった。
元気よく発言してわずか10秒。
言ったことをすでに後悔しつつあるよ!

「…ああ、すみません。いきなり突拍子も無い戯言を言い出したので気でも狂ったのかと思いましたよ」

追い打ちをかけるように冷めた目の木手くんに言われる。

「狂っ…狂ってないし!狂ってないし!?」
「ぬーんち2回も同じくとぅあびる(言う)んばぁ…」
「大事な事は二回言います!」

キリッと言い返すと平古場くんは「あっそう」とでも言いたそうな顔になる。

「とにかく季節はハロウィンでしょう!」
「あー、そーいやちゅー(今日)ハロウィンだったなぁ。朝テレビかなんかで見た気がするさぁ」
「そう!だからその波に乗ったまで!あと今金欠だからタダでお菓子が手に入れば万々歳!という訳でトリックオアトリート!」
「…考えが稚拙で貴女らしいと言えばらしいですね」
「どうもありがとう」
褒めてないですけど

木手くんにピシャリと言われる。
分かってたけどね、むしろ貶してたことくらい!

「ほらほら、だからトリックオアトリート!まずほら木手くん!」
「……」

べしん

「あいた!」

ずいっと木手くんの方に手を出したら結構強めにはたかれた。
地味に痛い!

「俺に物を強請るなんて100年は早いんですよ」
「せめて言葉で否定して…」

ふんと木手くんに鼻を鳴らされる。
というか拒否が早いよ!
少しは探すとか思慮しろよ!

「考える時間すら無駄です」
「分かったからもうそれ以上言わなくていいです」

ナチュラルに心読まないで欲しいよね。
もはや心は折れそうだ。

「あんしー(そんなに)落ち込むなよ涼音。うり、これやるさぁ」

慰めるかのようにうちの肩に手を置いた甲斐くんが何かを手渡してくれた。
見るとハロウィン仕様のたけのこの●(パンプキン味)だった。

「えっ、いいの?」
「おう。ちぬー(昨日)クラスの女子に貰ったやしが」
「え、女子に貰った……って、それうちが貰っていいの?」

甲斐くん、中身はぱっぱらぱーだけど顔はイケメンだから女子に人気がある。
このお菓子だって気を引くためにあげたやつかもしんないし。
それをうちが貰ってもいいのだろうか。

「ぬーがら問題あるか?わんが貰ったやつだから何しようが勝手やし」
「お……おおう……あ、ありがとね」

屈託のない笑顔でなかなかに酷いことを言う甲斐くん。
本人は悪気はないんだろうけど、それがなお悪い。
一応はくれたんだから礼を言ってカバンにしまい込む。
甲斐くんにお菓子をあげた女子に見付かったらひとたまりも無いからな。
家で食べよう、うん。

「…んで、最後の平古場くん。あんたも女の子侍らしてるんだからお菓子とか持ってんじゃないの?」

矛先を変えて聞いてみる。
まあそうは言ったけど女子からの貰い物が欲しい訳じゃないからなぁ。
むしろ避けて頂きたいところだけど。

「侍らせてるってなー……持ってねーっつの」
「なんだよシケてんなー!」

ベシ

「いって!」

ちょっと調子に乗って上から言ったらはたかれた。
暴力は反対ですよ!

「貰えねーんなら悪戯すりゃいいだろ?それがハロウィンやし」
「そりゃそうだ、ナイス甲斐くん。じゃあ平古場くん観念するのだな!お菓子持ってない貴様が悪いのだよ!」

え、お菓子くれずにうちの手をはたいた木手くんはどうなるのかって?
あの木手くんに悪戯が出来る人が果たしているのだろうか。いやいるはずが無い(反語)。
でも平古場くんぐらいならね、なんとかなりそうだしね。

「あー、じゃあ勝手にしとけー」
「軽っ」

平古場くんはあっけらかんと返してきやがった。

「ちょ、同意の上じゃ悪戯の意味無いし!」
「はっ、神矢の悪戯なんか高が知れてるさぁ」

鼻で笑いよった!

「確かに神矢クンの考えつくような事は大したものではなさそうですね」
「気をつけろよー凛」
「ま、返り討ちにしてやるさぁ」

何こいつら。
どこまでもうちを見下す気なのか!
悪戯どころか直に殴ってやりたい衝動にかられます!
でもそれだと平古場くんの言う通りに返り討ちに合う可能性がヒッジョーに高い。
靴を隠すか埋めるか燃やすかしてやりたいけど、そりゃ悪戯っていうかイジメだし。
いじめ、かっこ悪いし。
じゃあどうしたものか!
仕返しされない程度で悪戯、といったら……?

「精々ちばれよー」

頭でぐるぐる考えていると平古場くんにそう言われる。
「精々」は要らないよ偉そうに!
減らず口なんだからまったく!少しは黙れよもう!

「……あ」

そこでふと思いつく。

「……平古場くん!」
「ぬーよ。……っ!?」

ぶに。

平古場くんが振り返ると同時に両方のほっぺたを引っ張ってやった。
ふと思いついた、低レベルかつ仕返しが来ない程度の悪戯!

「……」
「……」
「……」
「……」

ぶ、部室内の空気がしーんとする。
やっべ、再び滑った。
でもやってしまったからには後戻りがもうできない!

「え、えーと…その………お、お菓子くれないから……悪戯だゾ!」
「……」

苦し紛れに言うものの反応がない。
平古場くん、ノー反応。
急なことに目を丸くさせたまま、されるがままほっぺた引っ張られてる。
せ、せめてなんか言ってええ!

「な……なんちゃって……」

今更「冗談でした☆」なんて言えないくらいスベったけど、誰も何も言わないからことが進まない!
とんでもない後悔の念に心が追いやられながらもそう言う。

……と、そこで平古場くんがようやく動いた。
動いたというか、停止していたところから我に返ったように瞬きをする。

「……っ!」

瞬きから数秒、うちが平古場くんは大袈裟なと言いたくなるくらいの勢いで飛びすさりうちから離れた。

「えっ」

うちが驚く間もなく平古場くんが声を荒らげた。

「ふっ……ふらー!ぬーおかしなくとぅしてるんばぁよ!?」
「え!?あ、いやその……す、すいません」

めっちゃ叱られた!
勢いで謝っちゃったじゃないの!

「な、何がトリックオアトリートさぁ!ハロウィンだとか浮かれてる暇あったらさっさと練習準備して来い!」
「えっ、あっ、す、すんませんでしたー!」

キレ混じりでドアを指さされ、言い返すことも出来ず従う。
た、確かに浮かれて調子乗ったうちも悪いけどさ!
何もあんな切れなくてもいいじゃんよ!
ちくしょー、もっとお菓子貰えると思ったのに!
なんて日だ!




ばたん、と涼音がドアを締める音を聞き木手はため息をついた。

「まったく……何がしたかったんでしょうかね彼女は」
「凛の言う通りに浮かれてただけじゃねーの?ま、よかったなー。あれっくらいの低レベルなやつで済ん、で……」

甲斐がそう言い、視線を平古場に移すと。

「〜〜っ」

そこには口元を手で覆い顔を背けている平古場がいた。
顔は他所を向いているけれど、耳まで真っ赤になっているのが見て取れた。

「……」
「……」

それを見て木手も甲斐も呆れたような半ば感心したような顔になった。

「……低レベル、じゃなかったみたいだな」
「……見事に悪戯されたみたいですね。彼女にしては上手くやりましたね」

二人の言葉に言い返すことも出来ず、平古場は暴れる心臓を落ち着かせようとするだけだった。


おわり


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