クリスマスデートの約束12月も下旬となった今日。
学校帰り、いつものように甲斐くんの買い食いに付き合っていた。
テイクアウトしたファストフードのドリンクを片手に、海岸の堤防沿いに2人で腰掛ける。
「いやー、つくづく思うけど沖縄ってスゴイね」
「ぬーやが?」
「いや、12月だってのに寒くならないから。寒がりなうちなとっては幸せだよ」
沖縄は本土と違って、冬でも気温が下がらない。
毎日凍えるくらい寒かった本土にいた頃に比べればこの沖縄の気候は幸せこの上ない。
その代わり海から吹く風は強いけど、寒さに比べたらどうってことない。
「そんなに寒いんばぁ?本土って」
「正気の沙汰じゃないくらいね」
「どんくらいだよソレ」
甲斐くんが呆れたように笑う。
だってそのくらい深刻な寒さだったんだから、うちにとっては。
「…てーかさぁ」
ずずーっと飲み物(ちなみにマンゴージュース)をすすって、呟く。
「今日ってクリスマスって知ってた?」
「クリスマス?ちゅー(今日)が?」
「そう。25日ですよ今日。…知らなかったんだね」
「…だってぬーもイベントとかねーし」
「知念くんとか慧くんは家族で出掛けるらしいけどね。いーなぁ、クリスマスディナーですか。…それなのにうちらは何いつもと変わらない海に来てるの」
駅方面に行けばイルミネーション一色で、街中もこれでもかってくらいのクリスマスカラーなのに。
綺麗な海はいつもと何も変わらない。
クリスマスっていう特別な日なのに、この場所だけ普段と何ら変わらない空間になってる感じだ。
「こーいう方がわったーらしいだろ?」
「…んまあ…そーだけどねえ」
むしろ甲斐くんとクリスマスやー!って言ってイルミネーションとか見に行くイメージはあんまりない。
そういうムードとか持ち合わせて無さそうだしなあ。
「ふー…」
「……」
「?……えっ、な、なに?」
甲斐くんが急に黙ったなったな、と思って横を向くと目が合った。
び、びっくりした。
まさかこっち見てるとは思わかった。
「ん?あー…涼音、そーいうとこ行きてーのかなーって思って」
「そーいうって、なに?…クリスマスのイベントとか、イルミネーションとか見に行くこと?」
「おー」
「うー…ん。そりゃあ、まあ」
「ふーん」
ちょ、おま。
聞いといて「ふーん」は無いだろう。
「……じゃ、今度行くか?」
「えっ?どこに?」
「涼音が行きたいとこ」
「うぇっ?…な、なんで急に?」
「なんかでーじ行きたそうなちら(顔)してたからな」
「まじか」
そんな顔に出てたのか。
それは恥ずかしい。
「行きたくないんなら別にいいんどー」
「え、や、行きたい!うち、駅前通りのイルミネーション見たい!」
「あー、そーいやあそこもやってたなぁ…あんなとこでいいんばぁ?」
「うん。クラスの子が話してたの聞いたんだよ。あそこなかなか良いって。…でも1人で行くには気が引けてさぁ」
「涼音、いなぐ(女)の友達とかいねーもんな」
「うるっせ!」
自分でも死活問題だと思ってるよ!
「まあわんが行ってやるから気にすんなって!」
「…なんか複雑な言い方だなぁまったく…」
甲斐くんの無駄な笑顔が余計複雑な気分にされる。
馬鹿にしてるのかそれは。
「…でも、なんでいきなり?」
「ん?別に大した理由なんかねーらん。やーが行きたそうだったから」
「お…おぉ…」
なにその発言。
女殺しか。
これがモテる男のセリフですか。
「…なんかありがとうね」
「礼なんかいらねーって。せっかくのクリスマスなんだし、なんか思い出作んねーとつまんねーだろ?」
「今日行かなかったらクリスマスじゃないけど…いいか。てか、なんかクリスマスにそーいうとこ行くとかデートっぽいね。あはは」
冗談のつもりで言ったら、甲斐くんが目を丸くさせた。
「…だーるなぁ。デートやっさー」
驚いた顔してたと思ったらまたいつものように笑った。
というか、納得するんか。
冗談のつもりだけど……いやまあ、甲斐くんも分かってるだろうしいいか。
「…んじゃー楽しみにしてるから。当日はエスコートお願いね」
「おー、任しとけ」
そう言って笑った甲斐くんにときめいたのは内緒にしておこう。
おわり