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夏祭り 後日談

今日も今日とて暑い太陽の下で練習がある。
それでもサボらず学校へ向かう自分、偉い。
まあ今日はしなきゃなんない事があるからサボらないんだけどさ!
…あとサボったらサボったで木手くんが怖いからっていうのもあるけれども。

「はぁー…あぁあ〜あ」

ベシッ

「あいだっ!」

心の底から思いっきりでっかい溜息をついたら急に背後から叩かれた。
叩かれたっつーか殴られた。

「朝っぱらからシケた面してんじゃねーらん。見てるこっちがわじわじ(イライラ)するやっさー」

やっぱり殴って来るのはこいつしか居ないんだよね。
平古場コノヤロウ。
くそっ、なんでこいつは朝からこうも生意気なんだ。

「溜息吐こうが吐かまいがうちの勝手だろうに!あんたはあんたで朝っぱらから人を殴んな!」
「やーが人のテンション下げるようなちら(顔)してんのが悪いんやっし」
「なんでだ!面倒くさい練習に行かなきゃなんないんだからそりゃ溜息を出るしテンションも下がるだろうに!ぶっちゃけ帰りたい!
「帰っ…だ、だからって考えてるくとぅそのままあびるな(言うな)っつーの!」
「素直でごめんね!」

まったく、相も変わらず朝から一緒に登校しなきゃなんないんだから(木手くんの命令※14話参照)朝から人を苛立たせないで貰いたい!

「まあまあ、凛も涼音も落ち着けって。文句言いながらも涼音はちゃんとサボらないで来てんだからゆたさんだばぁ(良いだろ)?わんだったらフツーにサボってるさぁ」

他人事のように笑う甲斐くん。
でも知ってるんだからな。
こないだ練習を無断欠席して国際通りで遊び呆けてたのを木手くんに見つかって、ドが付くほど説教された時以来、サボるにサボれなくなってる事を。
終始鬼と般若を織り交ぜたような形相の木手くんにキレられて泣きそうだったって事、知ってるんだからな。

「…うちいい子だからサボらないし。…まあ、今日は学校に行かなきゃなんない用あるからだけど」
「…用無きゃ来ねーのかよ」
「そりゃあね」

平古場くんに呆れた顔された。
でも気にしない。
…そうこうしてるうちに学校についた。
朝からまったく騒がしいんだから。
ガチャ、と何の躊躇いもなく部室のドアを開ける。
中で誰が着替えていようが気にしない。
知念くんと慧くんが着替えてたら即座に謝って退室するけど!

「あ、知念くん」

部室にはすでに着替え終わってた知念くんが居た。
早いなぁ、さすが知念くん!

「…よー」
「はえーな知念。…他ぬ奴らはまだなんばぁ?」
「…木手はもうコート行って自主練してる」
「げっ、しんけんか」

はっや。木手くん行動はっや。
こっわ。

「…ならさっさと着替えてコート行った方が良さそうだなー…」
「やんやー…」

溜息半分に平古場くんと甲斐くんは自分のロッカーの方に行った。
時間はまだ早い方なのに、木手くんが早ければそれに合わせなければならないという。
末恐ろしい日常である。

「…あ、そうだ知念くん。忘れる前に」
「…ぬー?」

ラケット持って部室を出ようとしていた知念くんを呼び止める。

「これ、こないだの」

それだけ言って鞄から包みを出して、知念くんに突き出す。

「…こないだ?」

知念くんが思い出せないのか首を傾げる。

「うん。ほら。お祭りの時の」
「祭?」

それでも思い出せないらしい知念くん。

「やったー、ぬーぬ(何の)話してるんだばぁ?」

いきなり甲斐くんが割り込んできた。
なんだなんだ、甲斐くんは呼んでないぞ。

「祭って聞こえたんやしが」
こういう話は耳聡いな。ちょっと知念くんに借りが出来てたもので、そのお返しだよお返し。ほら」

包みから小さい箱を出して見せる。
シンプルイズベストなハンカチさんが入っています。

「ハンカチ?」
「ハンカチ…って、まさか鼻緒切った時の?」

知念くんが驚いて目を丸くさせた。

「そう」

頷いてまた包みに戻し、そのまま渡す。

「うちのためにハンカチ駄目にさせちゃったんだからさ。同じ物とはいかないけど、出来るだけ似た感じの探してね。良かったらどうぞ」
「…気にするくとぅなかったんだけど……手間かけさせたみたいで悪かったなぁ」
「気にしてないよ。全体通してうちのが迷惑かけちゃってたんだから、せめてものお返しって事で」
「…せっかくやーが買ってくれたからなぁ、有り難く使わせてもらうんどー。にふぇーどな、神矢」
「お…おぅふ…い、良いって事よ!」

なんだろう、これがハイスペックとカスとの違いだろうか。
親切にされたら素直に笑顔で「ありがとう」と礼を言うのがハイスペック、「そんな」「悪いよ」と否定ばかりするのがカス。
カスな女でごめんね!

「…なあ、話がよく分かんねーんだけど。祭って、こないだの花火があったヤツ?やったー、その祭に行ったんばぁ?」
「別に甲斐くんが話分かる必要ないと思うんだけれどね。…まぁ、そうだけど」

…やっべ、甲斐くんも平古場くんも祭の事話してないし、まず第一誘おうとも思ってなかったもんな。
これは知念くんと行った事がバレたらやばいパターンだ。

「……いやまあ、別に甲斐くんが気にする事ないs「2人で行ったんやっさー」ちょ、知念くんッ!?」

「え?」
「はあ!?」

知念くんが物の見事にバラしてくれた。
た、確かに口止めとかしてなかったけど!
つーかなんで話をしてた甲斐くんじゃなく、後ろで我関せずといった感じで着替えてた平古場くんが驚いてんだ。

「ひでー抜け駆けかよー!なんでわん誘ってくれなかったんばぁ!?」
「ぬ、ぬーよ2人で行ったって!」
「ちょ、ごめ、色々と訳があっt……あばばばばばば!

うちが言い訳するよりも先に、凄い勢いで平古場くんが詰め寄って来た。
不満丸出しな甲斐くんを横目に、平古場くんはうちの肩をわし掴むや否や前後に揺さぶりかけてきた。
脳がシャッフル!シャッフルしてまっする!

「…凛、落ち着けって……神矢が白目剥きかけてるんどー」
「はぁ!?……あ」

知念くんに言われて我に返ったのかようやくシャッフルタイムが終わった。
やべぇ、世界が廻ってるヨー!

「…で」
「……は?」

ぐわんぐわんしてる頭を手で抑えてると、たいそう不機嫌な声をした平古場くんが口を開いた。

「は?じゃねーらん!さっきの答え聞いてねーだろ!」

めっちゃ怒鳴られた。
なにこの人こわっ。

「答……あっ」

なんで2人で祭行ったかっつーアレか。

「ちょ…ていうか知念くん、なんで普通に言っちゃうのさ!」
「あー…わっさん。別に隠すくとぅもねーらんとうむって…」
「…い、いや、まあ確かにそうだよね。うちが内緒とか何も言って無いのが悪かったし…」
「内緒…って、やー知念が黙ってたらわったーに言うつもりもなかったってくとぅかよ!?」

うちが知念くんと話してたら平古場くんが割って入って来た。
ごめん、存在忘れてた。

「いや、それは……ちょッ、平古場くん近いし怖い!!

脳を揺さぶられる事はされなかったものの、めっちゃ詰め寄られる。
身長差だってあるんだから止めて頂きたい!

「わったー誘わなかった訳、わんも知りたいんどー」

膨れっ面で甲斐くんが言って来た。
いや膨れてる暇あったらこの金髪をどかしてほしい。
髪の毛がメデューサの如く逆立ってるよ。
そのうち石になるかもしれない、うちが。

「い、いや…その。話すと長くなるけど…。こ、こないだの祭で使える屋台の無料券貰ったから、誰か誘おうと思って。でもその券、枚数少なかったからみんなでは行けないかなーとか思っちゃって…それで最初に知念くんに声かけたら、オッケー貰えて…それで満足して一緒に行っただけです…。誘わなくてごめんなさい…」

本当は優しい知念くんと行きたかったから狙いを定めて声かけたんだけど。
話がややこしくなるから今は言わない。

「ぬーがよ、そんな理由で2人で行ったんだばぁ?別に無料券無くても祭ならみんなで回れるだろー?」
「そうだけど…そこまで考えてなくてさ…。だからホントにごめんなさい…」

なんだよ、こんな面倒な事になるんならはじめっから声だけはかけとけばよかった。
チックショウ。

「……じゃあ別に知念じゃなくても良かっただろ」
「え?いや…」

平古場くんも何故か不貞腐れた顔で言って来た。
いやその、知念くんか慧くんと行きたかったのが本心です。

ちらっと知念くんに目配せしたら、呆れたような苦笑を返してきた。

「……最初に声掛けたのがわんだっただけで、それが凛だったら誘われてたのは凛だったはずさぁ」
「………」

知念くんが上手く言葉を繋げてくれたおかげで、平古場くんの表情がだいぶ怖くなくなった。
てーか、なんでコイツはここまでキレてんだ。
自分ではなく知念くんが誘われた事がそんなに苦痛だったのか。
お前はなんだ、彼氏気取りか。
頭大丈夫か。

「…あの、いや……こ、今度は平古場くんに声かけるし。色々ゴメン」
「……おー」

そう言って頷いて、ようやく離れてくれた。
本当になんだこいつは。
何様なんだ。

「涼音―、わんにも声掛けんの忘れんなよ?」
「は、はいはい、分かってる分かってる」

うーわ、今度遊びに行く時は大変騒がしくなりそうだなぁ…。
いつになるか分からない先の事を考えて息を吐いた。

「そう言えば、来週末には別の所で祭が開かれるらしいですよ」
「へえ、そうなん……えっ、木手くんいつからそこに!?」

急に違う声が入って来たと思って振り返ると、いつから居たのやらユニフォーム姿の木手くんが腕を組んで立っていた。
すげーすんなりと会話に入ってきやがったこいつ。
うちのみならず平古場くんも甲斐くんも知念くんもびっくりしてる。

「だいぶ前からです。キミ達は騒いでいると自分達の世界に入り込んで周りが見えなくなりますから気付かないのも仕方ないでしょうが」

た、確かに一切気付かなかった。
後半、色々な意味で平古場くんしか見えなかった。

「…というか、また祭あるんだ」
「この地域はそういう行事は盛んですからね。…で、どうするんです、神矢クン。話の流れからしてキミがする事は分かってますね?」
「え?…………あ?……あ、あぁ…」

あぶねぇ、一瞬何の事だか分からなかった。
ここで「何が?」とか言ったらたぶん木手くんと平古場くんから袋叩きだっただろうな、危ない危ない。

「えーと。…今度の祭、みんなで行こうか?」

とりあえず、平古場くんと甲斐くんの方を見て提案してみる。

「おー!」
「…やーがどうしても行きたいって言うんなら、付き合わないくとぅもねーらん」

笑顔で頷いてくれた甲斐くんに反し、平古場くん大変可愛くない。
置いて行ってやろうか。
この2人とだけで行くと色々と精神的に不安だから、勿論知念くんにも聞く。

「知念くんも行く?」
「んー…部活メンバーで行くのも楽しそうやっさー」
「よし、じゃあ参加ね!あとはー、えー、慧くんとか新垣くんとかにも声かけてー…」
「……涼音、涼音」
「え?なに、甲斐くん」

呼ばれて見ると、何も言わずに甲斐くんが指さす。

「え?…あ」

その指の先には眼鏡を恐ろしく光らせた木手くん。
やべぇ、忘れてた。

「…き、木手くんも…良かったら行く?」
当たり前でしょ。誰がこの情報を持って来たと思ってるんですか」
「デスヨネー。ゴメンナサーイ」

即座に謝る。
…でもそういう情報持ってきたって事は、木手くんも祭に行きたかったって事か。
そうか、あんな顔しときながら木手くんも中学生だもんね。
遊びたいんだよね!

何か文句でも?
「……ナンデモナイデース☆」

ガシッと頭を掴まれた。
握力が恐ろしい。
ひとしきりうちの頭に圧力をかけたのち、木手くんは手を離して部室の中を見渡した。

「……とにかく、来週末は部員揃って出掛ける事になりましたが、羽目を外さないようにしてくださいよ。比嘉中テニス部の名に泥を塗るような真似をしたら許しませんからね」
「へいへい」
「分かってるさー」
「やてぃん楽しみやっさー!わん、絶対屋台制覇するんどー!」
「全部って…やー、金欠とかあびてなかったか?」
「あー…忘れてた…。まあ、その時は…」
貸さねーからな。

平古場くんにズビシっと言い返され、甲斐くんはショボン顔。
それを見ていた木手くんも、呆れ顔ながらもどこか楽しそうだし。
…あっという間にみんなで出かける予定が出来たのには少々予定外だったけど。

「………まあ、これはこれで楽しそう……かなぁ?」
「…騒がしいのも、わったーらしくて良いだろ?」

ぼそ、とうちが呟くと、知念くんが笑って返してくれた。





うるさくて面倒くさくて疲れそうだけど、これはこれでうちららしいのかな。


少し来週が楽しみになって来た。






おわり

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