話してみれば打ち解けられるものなんです
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…あ、あのさ」
「かしましい。黙らさんけー」
「…すんません」
なにこれ。
気まずい。
04 話してみれば打ち解けられるものなんです
なんか知らないが、うちは金髪野郎こと平古場くんと帰路についている。
なんか知らないが、ってこともないか。
理由は分かってる。
オカンのせいだ。
それはついさっき、挨拶し終わった時だった。
「それでは神矢クンには早速仕事をして貰いましょうか」
「げ、いきなり…」
「…と言いたいところですが、彼女はまだ比嘉中生でもない。それに今日は監督も居ない自主練のようなものですから。学校が始まり実際にマネージャーに申請してから仕事を頼みましょうか」
「あ…そう」
「なんですかその反応は。何か不満でも?」
「いいえ!!それで大賛成です!!」
「でしょうね。…では平古場クン、彼女を送り届けて来てください」
「はあっ!?」
「何ですその驚いた顔は。さっき言いましたよね、貴方に後で謝らせると。それも兼ねてです。…嫌なんですか?」
「…分かったさー」
「え、や、いいよいいよ」
むしろこれ以上めんどいことにしたくないからいいよいいよ。
「あらん。…永四郎がこうあびてんだから行かねーと駄目なんやっし」
なんで。
そうか、オカンの言ったことは絶対か。
絶対王政ならぬ絶対オカン制度なのか。
「めんど…」
「なにか?」
「何でもないYO!!!」
こえーこえー!!
聞こえてたのか!
「とにかく、平古場クンは神矢クンを送り届けてから、他は今すぐ自主練に戻る。分かりましたね」
「「おー」」
「…」
平古場くん、すっげー不満そうなんですけど。
まったく、自分が蒔いた種なのにな!
…で、今に至る。
オカンに逆らえない(絶対オカン制度の)せいか、ちゃんと送ってってくれるみたいだけど…顔はなんかすごい不満丸出し。
うちを拾ってマネージャーにした元凶、こいつなのに。
こいつが学校でうちを捕まえずにスルーしときゃ、うちもマネージャーにならなくて済んだし平古場くん本人もこうイラつかなくても済んだろうに。
あ、思い出したらだんだんムカついてきた。
「…平古場くん」
「……ぬーがよ(何だよ)」
「ばかやろう。」
「ばっ…!?いきなりぬーがよ!?」
「あんたがうちを勝手に担いで行かなきゃこんなややこしいことならなかったんだからね。マネージャーとか、オカンとかオカンとかオカンとか。どうしてくれんの」
「うっ…!や、やーもマネージャーやりたいって言っただろ!」
「オカンの圧力で言わされてただけだし!オカンもはっきり言ったけどぶっちゃけ雑用係なんだよね。なんで沖縄に来てまでわざわざ雑用しなきゃなんないの!返せようちの幸せ沖縄ライフ!」
「…マネージャーしなかったところで、幸せに過ごせるとは言えないけどな」
ぐっさ。
このやろう、痛いとこ突きやがって。
「…幸せに決まってるじゃん。雑用しなくていいんだし」
「やーの幸せの基準は雑用があるかないかなのかよ」
めんどくさいことは嫌いなんです。
「…少なくともマネージャーするって決めて得はあるさぁ」
「は?得?」
下っ端心が付くとか言ったらぶっ飛ばしてやる。
「転校する前から知ってる奴がたくさん出来たさぁ。…分からんことあったらわったーに聞けばいい」
「え…」
そこはあえての『知ってる奴』なんだ。
友達とか言ってくれないんだ。
別に構わんけど。
「ぬ…ぬーやが(何だよ)、うぬ呆れたちら(顔)は」
睨まれた。
「あ、呆れてなんかないよ。いや…でもまあ、なんか嬉しい。そう言ってくれると。ありがとう」
事実、丸腰で転校すんのは怖かったしね。(※決して戦争に行くのではありません)
先にこうして話せる人が出来たのはマジでありがたいことなのかも。
うち人見知りだし。
「お…おう」
「でも雑用になったことはやっぱ気に食わない」
「根に持ち過ぎだろ…」
引きずる子なんです。
「てかさ、平古場くんはなんで機嫌悪かったのさ?」
「は?」
「いや、さっき。話しかけるだけで怒られたし」
良い迷惑だ。
「…別に、機嫌悪くなんかないさぁ」
「怒ってんじゃんよ。あんた元凶なんですけど。むしろキレる要素がどこにある」
「元凶って………」
「なんかもう、謝る謝らないとかはどうでも良いんだけどね。怒ってる理由あんなら気になるし」
「…何でやーに話さねーといけねーんだよ」
「え―?…暇だから?」
ただ黙って気まずい中歩くよりかは何か話して欲しいし。
無言で炎天下を歩くなんか地獄だしね。
「暇ってな…」
「別に話したくないならいいよ?プライバシーを侵害する気はないし、めんどいから」
「…やー、変わってんな」
うん、褒め言葉としてとっておこうか。
「……」
あ、だんまり。
くっそ、無言で炎天下ご帰宅パターンですか。
「わん、さっきみたいに指図されんのは好きじゃないあんに」
「え?」
平古場くんがぼそっと答えてくれた。
「やしが永四郎に逆らうわけにはいかねーしよー…。あぁ、それに謝ることも気に食わねー」
「へ、へえ…」
なんか話してくれた。
「やーに謝るって、別にわん悪くないだろ?」
いやあんたが100パー悪いんだろう。
「…だからわじわじぃーしてただけさぁ」
わじわじぃーって何。
「…イライラしてたんだっつの」
「すんません」
ナチュラルに心読まれたよ。
こいつら読心術の心得でもあるのか。
でも、これで平古場くんが機嫌悪い理由分かった。
「…平古場くんてさ、ずっとカッコよく見られたい人じゃない?」
「…は?」
平古場くん、驚いたのか目を丸くさせた。
「なんかさ、あれじゃん。指図されたくなくて謝りたくもなくて。下手なところとか、弱いとこ見せたくない人?」
「べ…別にわんは…」
「いや、事実キミはイケメンだもんね。見られたくても良いかもだけど」
誰がどう見られようがうちには関係ないんだけどね。
「そんなつまんねー強がりばっかりだと、人生損するかもよ?」
「……」
「まあ、マネージャー業を請け負ってる時点でうちは既に人生損してるけどねぇ」
平古場くんに絡まれた時点で損だったのかもしれないね。
「……」
「…あ?あ、いや、その」
返事がない、まるで屍のようだ。
じゃなく。
やっべー怒らせた?
偉そうに物言ったから怒らせた?
「ご…ごめ、」
「っぷ、ハハッ!」
え?
「面白ぇー奴だなぁ、やー」
「は?っあばばばば!」
髪ぐしゃぐしゃにされた!!
これは何!?
新手のイヤがらせ!?
「ちょっ、やめっ!髪!」
「おー、悪ぃ悪ぃ」
こいつぜってぇ悪いと思ってねぇ。
あーあー、髪がボンバイエーですよ。
「ふらーそうに見えてなかなか鋭いこと言えるんだな、やー。あきさみよー(驚いたぜ)」
「ふらーって前にも聞いたけど。…なんかバカにしたような言葉だったりする?」
「お。もううちなーぐち理解してきたんばぁ?ふらーってのはバカって意味さぁ。まあ、やーのこと言い表すに丁度良い言葉さぁ」
こんちくしょう。
「ま、ふらーは置いといてよ。やーみたいな奴がそこまで見抜いてくるとはあきさみよー…驚いたぜ―」
「あ、いや、ね。…なんかごめん、勝手なこと言って」
「謝るなっての。まあ最初はムカついたけどな」
まじか。
「勝手に連れてきてマネージャーにしたのは謝るさー。…悪かったな」
「え?…はは、別にいーよ。もう腹括ったし」
どう足掻いても逃げられないんだろうしね。
オカンからは。
「そりゃ心強いさー。…ゆたしくな…よろしくな、神矢」
「あ、ああ……よろしくね、平古場くん」
なんやかんやで、平古場くんは良い奴…なのかも。
沖縄の方言が理解出来ないって分かってから、うちにも分かるような言葉で話してくれるようになってる。
謝ってもくれたし。
不満ばっかだけど…比嘉中じゃ仲良くやってけるかもね。
「…んじゃ、さっさとやーの家に行くさぁ。で、場所はどこなんばぁ?」
「いや…知らん」
「…は?」
「いやいや、うち引っ越してきたばっかだし。地理は一切分からんて」
「はぁ!?でもやーの家までの帰り方くらい分かるだろ!?」
「地図見ながらなら、だよ」
「地図は!?」
「最初に平古場くんに担がれた時に落としました」
「ふらー!!んなもん落とすなよ!!」
「ふっ…!?急に担がれて落とさない方が難しいわ!!」
「あー!もーやってられんや―!いったん学校戻ればやーも分かるだろ!!」
「…たぶん」
「まったく、世話が焼ける…ここどこなんばぁ?」
は?
「ちょ、なんか目的あって歩いてたんじゃないの?勝手に歩いてっちゃうからついて来ちゃってたんだけど」
「わんが知るか。気の向くまま歩いてただけやっし」
「え……平古場くん、迷子…」
「うっせ!!とにかく歩いてればなんとかなるさぁ!」
なんとアバウトな。
…それから約2時間、うちらはずーっと迷子でした。
「ね、ねえ平古場くん。うちもう疲れた」
「休みたかったら勝手に休んでろ。でも置いてくからな」
「平古場コノヤロウ」
迷子になって気付いた。
こいつは優しくなんかないと。
良い奴なんかじゃないと。
やっぱり不満しかないよ、これからの学校生活…。
転校する日が不安でたまりません。
つづく
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