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助け合うことが大事なんです


「どうしたんですか、神矢クン。顔に生気がありませんね。それに昼の時に比べてだいぶやつれているようですが」
「ハハハ…」
「ふん」

木手くんの質問にうちが乾いた笑いを返すと、やつれさせた元凶である金髪野郎はそっぽを向く。
マジでなんなんだコイツ…!
あの後隣のクラスの先生が止めに入ってくれなかったら、バーサーカーと化したこの金髪野郎の手によってうちはあのままあの世に召されていたに違いない。
明確な殺意持った目というものを生まれて初めて見た気がするぜ☆


23 助け合うことが大事なんです


「てかさぁ、木手くん?」
「何です」
「なんでみんな揃って部室に居るわけ?今日、部活ないよね」
「居残って考査対策をすると言ったじゃないですか」
「そうだけども…」

だからって何で木手くんがいるんだ。
正式にはうち、木手くん、甲斐くん、平古場くん、知念くん、慧くんという、普段と変わらないメンバー。
当初は3人のはずだったのに、なぜ増えた。
知念くんと慧くんは喜んで!なんだけどね。
でもなんで木手くんまでも居るのかな…。
これじゃ集中したくても出来ないじゃんよ!

「貴方達3人は放置したら何をしでかすか分かりませんからね」
「しでかすとか、うちはそんな問題児じゃ…」
何か文句でも?
「なんでもナイデース…」

恐ろしい顔の木手くん(※通常運行)に凄まれたから言い返すのを止める。

「勉強をするのなら教え合う方が効率的でしょう」
「まあ…そうかも知れないけどさぁ」
「分からないところを頭を抱えて悩んでいるだけでは非効率的です。他の誰かから教わった方が何倍も効率的です」
「…教えてもらうとか性に合わないさぁ」
「性に合う合わないという問題じゃないんですよ、平古場クン。貴方は1人で勉強すれば全てが解けるようになるんですか?ならないですよね。ちっぽけなプライドで点数を取れなくなっても良いと言うんですか。別に貴方が如何ほど馬鹿になろうとも俺には関係ないのですが、俺が率いているテニス部に泥を塗るような行動はしてほしくないんですよ。分かりますよね。俺に迷惑を掛けるなと言っているんです
「うっ…」

こ、こえぇー!
何かめっちゃ木手くん怖ぇよ!
平古場くんを力付くで黙らせましたね!さっすが!

「わざわざこの考査対策に来たのは以上の理由からです。顔に泥を塗られる位なら直々に指導した方が良いと思いましてね」
「どんだけ自分大切なのさ…」
何か?
「サーセン」

やっべぇ、心の中だけじゃ収まりきらずつい口に出しちゃったよ!

「神矢クンのように不本意に思っている人もいるかと思いますが、俺の決定は絶対ですので。分かりましたね?」
「…おー」
「…分かったさぁ」
「へーい…」

みんなで渋々頷く。
そこまで言われて誰が拒否出来るってんだ。
絶対なんて言われたら誰も文句言えないよな!

「まずは苦手科目の把握からしましょうか。苦手科目の補助をしない限りは点を稼ぐことは出来ませんからね」
「木手くんて苦手科目あるの?」
「そんなものありませんよ」

おおぅ、即答。
木手くん苦手科目ないのか。
確かに勉強はめっちゃ出来そうな顔してるもんな。

「では神矢クン」
「エッ、うちから?」
「他のメンバーは既に把握済みですので。貴方の苦手科目は?そうですか、全科目ですか
「なんでや!」

平古場くんが黙ってると思いきや今日は木手くんが事細かに文句をつけてきやがるんだけど!

「冗談ですよ」
「真顔で冗談言うのやめてくれないかな…まあ…そうだなぁ、昼にも言ったけど歴史が苦手だね。暗記が苦手だから」
「神矢クンは歴史ですか。平古場クンは英語、甲斐クンは数学、知念クンは地理、田仁志クンは暗記物、現代文と社会ですから…」

木手くんが悩むことなくそらでペラペラ話す。
部員の苦手科目まで完璧に覚えてるとか、その暗記力分けて欲しいわ。

「それを上手く組み合わせてやるとしましょう」
「組み合わせ?」
「自分の苦手科目が得意だという人に教わるというだけです。そうですね、分かりやすく言えば知念クン、貴方は英語は得意でしたね」
「…まあ、それなりには」
「その彼を英語が壊滅的な平古場クンに付ける、ということです」
「壊滅的…」

そう言われた平古場くんは不満そうな顔してるけど、違うと言い返さないってことは間違ってはないんだろうな。

「考査まで時間はありますが、だからと言って気を抜くことがないよう、真剣に取り組むように。では始めますか」

そう言って木手くんはテキパキと指示を出し始めた。
それぞれの得意科目、苦手科目を上手いこと組み合わせて、どんどん割り振られてく。
英語が壊滅的な平古場くんには、知念くんが。
現代文が苦手な慧くんには、一応国語を得意としてるうちが。
社会が苦手なうちと慧くんと、地理が苦手が知念くんと、数学が苦手な甲斐くんには木手くんが教える事になった。
木手くんの働きぶり半端ねえワロタ。
だけど本人曰く「俺が直々に教えた方が確実ですから」らしい。
とんでもない奴だよホント。



とまあ、そんなこんなで席を分かれて考査対策が始まった。
最初にうちは慧くんに現代文を教えることになったんだけど…ぶっちゃけ現代文って教えること無くね?
教えるも何も漢字とかは覚えるだけだし、文章読解だって教えようがないし。
だから自然と雑談タイムになるよね☆

「慧くんも暗記物が苦手なの?」
「おー…暗記は覚えるだけだとかあびる(言う)けど、そんな簡単に出来たら苦労ないさぁ…」

口を尖らせる慧くん。
え、なにその顔可愛い。

「それ超同感ー!歴史とかの提出物なんかはさ、全部腕の運動だよね!ただ書いてるだけになるってアレ」
「分かるんどー。いくらやってもちぶる(頭)に入らないさぁ。しかも勉強してるとなんか腹減るしなぁ」
それは慧くんだけかもしれないけどね!てかさぁ、国語とか暗記物って勉強方法無くない?」
「だーるやー…どーやって点取るんだばぁ…」
「なんかもう実力問題だよね!それか元々の脳の作りの問題?うちだって国語教えろって言われたけど、何をどう教えたらいいか分かんないし…もうね、その時間でご飯食べて体力付ける方が良いと思うな!」
「お!やーもそう思うんばぁ?ならなんか食いにいちゅんどー!」
「おぉー!いいねいいね!でも時間帯的に学食は閉まっちゃってるだろうし…うーん、ならコンビニとかでもいっか!もう放課後なんだし。一緒に行こうよ慧くん!」
「いいなそれ!あ、やしがそんな金持ってないさぁ…」
「おっとそれは死活問題。そう言ううちも手持ちほぼゼロだけども。まぁ…そこは部費でなんとか…
「馬鹿なんですか」

がつん!
ごん!

「あぶっ!?」

は、背後から木手くんにおもっくそ殴られた!
しかもその勢いで顔面を机で強打したぞ!?
一応だけども女子であるうちに対する扱いがこれ!?
まずなぜ男の子な慧くんを殴らずに女のうちだけ殴ってんだ!
いや慧くんも殴っちゃダメだけれども!

「な、何すんの!?痛いんだけど!超絶痛かったんだけど!?」
「殴られるようなことをしている方が悪いんでしょう。何が部費でですか。馬鹿なんですか?なに勉強もせずに食事しようとしてるんです。本ッ当に救えませんね」
「うぅ…!」

ザ☆言われたい放題!
最近どんどん木手くんの口が悪くなってる気がする!

「わ…わっさん(ごめん)って永四郎…ちゃんとやるさぁ」
「当たり前でしょ。むしろちゃんとやらない意味が解りませんよ。もし次ふざけている所を見付けたら許しませんからね」
「おー…」
「…スンマセン…」

ふん、と鼻息も荒く木手くんは戻って行った。
わざわざうちを張り倒しに来たのか、あのメガネは…こわ。

「…ごめんね慧くん、変な話して…」
「いや…わんも悪かったさー…」

一気に空気が淀んだ気がするぜ…。
木手くんの空気を乱す力(別名・人の気持ちを乱す力)は半端ない。
仕方ない、真面目に勉強をしよう…。



「神矢、ここはどうなるんばぁ?」
「え?えーっと…んん…?」

あれからうちも慧くんもちゃんと勉強を始めた。
ボコボコにはされたくないからね!
でもまじで国語って教え方難しい…。
慧くんに示されたとこには『下線部aでの花子さんの気持ちを20字以内でまとめなさい』っていう問題があるけど、そんなもん分かりっこなくない!?
強いて言うなら「何を思おうが彼女の自由であり、むしろその考えに第三者が介入しようとするのはプライバシーの侵害になるため、この問題に答えることは出来ない。」じゃね?
うん、20字を軽くオーバーするね!
あー、教えるって難し過ぎるわ!
遠回しに頭良い自慢してくる木手くんが教えりゃいいのによぉ!

「涼音〜…」
「ぅおっ!?」

木手くんに対する苛立ちを募らせていたら急に背中に重みを感じた!
な、なんだなんだ?

「って甲斐くん?えっ…ちょっ、重い重い!」

重みの正体は甲斐くんだったわ!
後ろからしなだれ掛かるように全体重を掛けられてるせいか尋常じゃなく重いぞ!?
それに何だか甲斐くんのわさわさ髪も当たるからくすぐったい!

「な、なんだどうした!?」
「ちぶる(頭)が…破裂しそうやっさー…」
「破裂って…あれ、そういや甲斐くんて今は木手くんに教えて貰ってたんじゃ」
「とりあえず一通りは教え終わりましたよ」

うわっ、また木手くんが来おった!

「え?と言うかもう終わったの?」
「とりあえず一通りはね。ですが甲斐クンは記憶力もやる気も無さ過ぎるんです。いくら俺が教えても教えても、その頭は穴の開いた袋の如く知識が抜けていくんですから困ったものですよ」
「うぅ…」
「か、甲斐くん…」

木手くんの口撃には誰も太刀打ちできないよな…。
甲斐くん見るからにゲッソリしてるし。
1時間もしないうちに人間ってこんなにも人相変わるものなんだね!

「ほ、ほら甲斐くんヨシヨシ。頑張った頑張った」
「涼音〜…」

モサモサな頭を撫でると、甲斐くんはふにゃーっとした弱々しい声を出した。
かっ、可愛いだなんて思ってないんだからねっ!

「それで、貴方達は終わったんですか?」
「へっ!?い、いやまだ終わってはないけど、そこそこは…」
「そうですか。それでもし田仁志クンが点を取れないものなら吊るしますからね。神矢クンを」
「吊るすの!?」

なんでだよ!
なんで怒るだとか説教とかじゃなく吊るすんだ!
何時代の罰なんだよそれは!

「だっ、大丈夫だよね慧くん?」
「ん…たぶん大丈夫さー、神矢が教えてくれたんだしよ、何とかなると思うさぁ」
「けっ、慧くん…!君って子は…!」

なんと心強いことを言ってくるのか!
人を殴ったり脅迫してくるどこかのコロネ野郎とは大違いじゃないか!
いい子に大きく育ってくれておばちゃん嬉しいよ!
同い年だけど!

「言いましたね。もしもそれで点を取れないようなものなら、吊るした上で1か月間神矢クンには俺達と同じ練習メニューをこなして貰いますからね」
「なぬっ!?」

お、同じ練習メニューだとぅ!?
泳いだりなんかの武術したり、テニスとは関係ないようなあの理不尽スパルタ練習をうちにもしろと言うのか!
ムリに決まってるやろがい!

「…というか!なんで罰則が慧くんでなくうちばっかりなわけ!?慧くんに罰与えろってわけじゃないけど、それなんか不公平じゃ…!」
「それよりも次の科目に移りますよ。1教科にそんなに時間を割いていたら永遠に終わりませんからね」

わぁお、無視!!
無視か!
木手くんは清々しいほどにうちの言葉をスルーして、甲斐くんの首根っこを掴んで引っぺがす。
そして雑にべしゃ!と机に放った。

「次は社会ですよ。さあとっとと問題集を出してください」

机に突っ伏したままの甲斐くんをまるで無いもののように扱って、木手くんは話を進めている。
スルースキル半端ねぇな!

「永四郎…わったー現代文やったばっかでちぶるパンパンやし…だから少し休憩」
「ダメです」

慧くんのお願いを一蹴する木手くん。
鬼か。鬼教官か。
「オ(ニキョウ)カン」略してオカンか。

「てかさー…木手くん」
「なんです」
「さっきも慧くんと話してたんだけど、うちら暗記物が苦手ってわけだから、特に教えてもらうとか必要ない気が…」
「何を言ってるんです。暗記と言っても根本を理解していれば頭に入るはずですよ。俺なりに的を絞って徹底的に教え込みますから、死ぬ気で覚えなさいよ」
「「…ハイ…」」

慧くんとうちは揃って力無い返事をした。
木手くんには「待った」も「タイム」も効かないんだよね。
うん、知ってた。

それからしばらく、無言の勉強タイムが続いた。
目の前に木手くんがいるってだけで尋常じゃないプレッシャーを感じるZE。
甲斐くんもこんなのに耐えたんだと思うと同情せざるを得ないわ…。
だけどその恐ろしいプレッシャーのおかげ(せい?)で、うちのなけなしの集中力がフルパワーで働いている気がする。
ものっすごい勢いで知識が頭に詰め込まれてる感じがするし。
その分命もすり減ってるんだろうけどな!

「…神矢クン」
「…うん?」

薩長同盟とやらと向き合っていると、急に木手くんに呼ばれた。

「え、なになに?また何か違った?やめて怒らないで、うちのガラスのハートがブロークンする。オブラート80枚くらいに包んで指摘して

木手くんのプレッシャー授業始まってから何回手を止められたことか!
止められて怒られたことか!
間違えてるうちが悪いんだろうけど、だからと言って一々ネチネチ嫌味言われたり怒られたら点数より先にこっちのメンタルが死ぬっつーの!

「別に怒るとは言ってませんよ。まぁその設問は間違ってますがね」
「まじか」

結局間違ってるんかい!
もー、どんだけ間違えれば済むんだ自分!
頭にどんどん知識が叩き込まれていっても、それが正しい知識とは限らないからやんなっちゃうよね!

「それより、貴方はまた平古場クンと喧嘩したんですか?」
「あ、あー…まあ…そっスね」

喧嘩したのは事実だし、ここで変に誤魔化したとこで木手くんにはバレるだろうから素直に認めることにする。

「全く…貴方達は何度喧嘩すれば気が済むんですか」
「…サーセン」

木手くん達を巻き込むとかそんな迷惑かけてたつもりはない…と思うけど、確かに喧嘩し過ぎな気がするわ。
マジでうち、平古場くんと会ってから何回喧嘩したんだ?
数えるのも億劫になるくらいしてるよな!

「うちだって喧嘩したくてしたいわけじゃないんですけどねぇ…」

気付いたら何故か喧嘩に発展してるんだよなぁ。
なんでこうも喧嘩ばっかなんだろうか。
普通に考えればあの金髪野郎の性格がね、悪いせいですよね!
うちは決して悪くない。

「…てゆーかさ、今は平古場くんのことなんてどーでも良いじゃん?今は勉強のが重要でしょうよ!」
「貴方からそんな言葉を聞くとは思いませんでしたよ」
「べ、別に何を言おうがうちの勝手じゃん!?」

あの金髪の話をしたくないってのが本音だけども!

「永四郎ー…ここ、どうなるばぁ?」
「どこです?…まだ全然進んでないじゃないですか。それにそこは2年生の内容ですよ」
「わっさん…」

身体が大きい慧くんも、木手くんを前にするととても小さく見えるのはうちだけだろうか。
なんにせよ、木手くんの意識が金髪野郎の話から逸れたことは有り難い。
慧くんありがとう。

「(…ん?)」

内心で慧くんに頭を下げてたら、その慧くん越しに平古場くんが見えるのに気付いた。
知念くんに教わりながら英語をやってるみたいだけど、だいぶ苦戦してんのか表情が悪すぎる。
ははっ、うちと話してる時と変わらない顔してるな!
…あれ?
それはつまり、うちとの会話は苦手科目を勉強してる時と同じくらいの苦痛な時間ってことなのか?
え、なんかそれムカつく。
そうやってぼんやりとその光景を眺めてたら、平古場くんとバチッと視線が合った。

「(あ、やべっ)」

目が合ってしまった!気まずい!…とうちが思うより早く、平古場くんは顔をこれでもかってくらい顰めて露骨に目を逸らしやがった。

「(…え?)」

何あれ。
何か反応して欲しかったわけじゃないけども…いや、だからってあんなあからさまな顔しなくても良くない!?
うちが何したって言うんだよ!
た、確かに今日は勢い余ってデカい地図ぶん投げて当てちゃったけどさー!
だけどこれでお互い様☆ってなるくらい平古場くんにはボコられたんだから、それはもう無かったことになるよね!?
なのに!アイツはなんで!いつまでも態度が悪いんだ!
あーもー意味わっかんね!
知らんし!あんな奴なんてもう知らんし!

「…チッ!」
何舌打ちしてるんです。さっさと問題解きなさいよ」

ばしっ

「あでぇ!?」

また木手くんに殴られた!
なっ、なんだよもー!どいつもこいつもぉ!
もういい、腹いせに勉強してやる!
勉強しまくってうちはテストの神になってやる!

「木手くん!今からうち超真剣にやるから、木手くんも超真面目に教えて!?」

全科目で満点を取って、平古場くんどころか木手くんだってひれ伏させてやるんだからな!
うちの目の前で土下座させて「ははーっ!」って言わせてやるんだからな!

俺は最初から真面目にやっていますが
「サーセン」

…やっぱり木手くんの方は無理かもね☆



つづく



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