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許してくれるまで追いかけてみるんです


「平古場くん、ほんとごめんってば」
「…」
「さすがに塩染めは言い過ぎました。ほら、涼音反省☆」
「…」
「いやもー、マジで平古場くんの髪輝かしい。輝かしい通り過ぎて神々しい。むしろ神!髪の神!なんちゃって!」
「…」
「みんなが平古場くんのこと尊敬の目で見てるよ!ヨッ!この比嘉中テニス部の大番狂わせ!」
「…」

めっちゃ無視されるんですけど。



20 許してくれるまで追いかけてみるんです



「さっきから何してるんですか」
ぎゃあっ!

び、びびった!
必死に平古場くんの気分を上げてやろうと思ってついて回ってたら、思いがけず木手くんに話し掛けられたよ!
いきなり話し掛けんなよ心臓止まるかと思ったわ!

「うるさいよ。人の鼓膜を破ろうとしないでくださいよ」
「ご、ごめんて。ちょっと必死になってたもんだから声がデカくなってたわ」
「確かに必死でしたね。何を金魚の糞のように平古場クンの後を追い掛けてたんです」

き、金魚の糞だと!?
確かに必死だったけど、女子を糞扱いすんなや!

「ちょっと平古場くんと喧嘩をしてしまいまして…」
「またですか」

またて。
そんなに喧嘩してるかな。
してるか。

「貴方達は毎日喧嘩してますからね。周りにいる俺たちの身にもなって欲しいですよ」
「す…すんません」
「それより神矢クン、だいぶ暇そうですね」
「え?いや、あんま暇では…」

うちの今日の任務は平古場くんに謝ることだから、決して暇ではないぞ。

「マネージャーの仕事もせずにコートを右往左往されたら邪魔以外の何者でもありませんよ。邪魔をするくらいなら少しくらい働いたらどうです」
「邪魔て」

相変わらずオブラートに包んでくれない。

「…今日仕事してなかったのは謝りますホントすんません」
「謝って済むなら警察と俺は必要ありませんよ」

木手くんも入るんかい!

「い、いやマジこれから死ぬ気で働きますから、ホントゴーヤだけは勘弁してください」
「これから、ではなく毎日働いていただかないと困るんですがね。まあこんなことで一々怒っていたらキリがありませんからね。今日はしてもらいたいことがあるんです」
「してもらいたいこと?」
「ええ。そろそろ部員のプレイスタイルでも覚えていただこうかと」
「プレイ…スタイル…?」

プレイスタイルとは?
な、なんか難しいことを要求してきたぞ。

「…それってどんなふうに敵を倒すかって言う型のこと?ポケ●ンでいう属性みたいな?
「そうですねそれですそれでいいです」

なんか超投げやりなんだけど。

「…木手くん、真面目に教える気無くない?」
「真面目に教えたところで貴方に理解できますか」
出来ないけど
「でしょうね」

でしょうねって!
即答かい!
というか、真面目に教える気ないのに新しいこと覚えろとか無謀じゃないか!?

「いつまでもドリンクとタオル運びだけでは役立たずですから」
「は?何言ってんの!毎朝甲斐くんを起こしに行ってるしすげー役に立ってるんですけど!」
「ああそうですね」

木手くんの表情と言葉が冷たい。

「とにかく、レギュラーのプレイスタイルくらいは覚えるように」

そう言い残して木手くんはとっととコートに戻って行った。
すげぇな、覚えろとか言いながらなんも資料渡してくれねーのな。
すべて自分でやれと?ブラック企業かよ!

「というか、レギュラーか…」

つまり平古場くんも入るのか。
あーあ、名前を聞いただけで気が滅入るわー。



「へい甲斐くん」

とりあえず最初は無難に甲斐くんのところに来てみた。

「ん?お、涼音。どうした?」
「それがさー木手くんに課題出されてさー」
「課題?…何か嫌な響きさぁ」

そう言った甲斐くんは顔を顰めている。
まあ分からんこともないけどさ。

「で、その課題ってぬーやっさー?」
「えーとね、なんか覚えろって言われてて…えーと…あれ?」

やばい、何を覚えるんだっけ?
もう忘れた。
頭の中の消しゴム!

「えー…なんか…●ケモンの属性みたいなのを覚えろって言われてて」
「ポケ●ン?」

木手くんとの会話そこしか覚えてない。
乏しいなぁうちの記憶力!

「フーン。ま、よく分からねーけどわんはマスキッパがしちゅん(好き)さぁ」
「マスキッパって!なにそのチョイス!」
「なんとなく?そう言う涼音は何のポケ●ンが好きなんばぁ?」
「うち?トサキント
「…へー」
「え、ちょ。聞いといてなにその「どーでもいい」って顔!イラッとするんですが!」
「ははっ、悪い悪い。ま、それは置いといて」

置いとくのかチクショウ。
自分から好きなポケモン言い出しといて話を片付けんなし!

「この前、涼音にわんの海賊の角笛見せるって言っただろ?」
「だいぶ話をすっ飛ばしたな。…というか、え?何て?」

バイキング?
なんだっけそれ…。
聞いたことないような、あるような…そんな気がしなくもないこともない。

「…涼音、まさか忘れ…」
「ギクッ!ママママッサカァー!うちなんか生まれた時、うちを取り上げてくれた病院の先生の鼻から出てた鼻毛の数も覚えてたくらいだからね!記憶力は凄いんだぞ!」
「しんけんか!?」

嘘ですけどね。



「そーいやバイキングホーンって甲斐くんの技だったっけ…」

それから甲斐くんに連れられてコートにやって来た。
そこでやっとバイキングホーンのことを思い出したよ。
前に平古場くんのハブとかいう技を見せて貰ったときに甲斐くんが次は自分が見せるとか言ってたもんなぁ。
完全に忘れてたわ。

「涼音ー!」
「あぁー見てる見てる」

向こう側のコートで甲斐くんがブンブンと手を振るのが見える。
元気やなぁ。

「…神矢も大変さぁ」
「ははは、分かってくれて嬉しいよ知念くん」

なんか弱点克服技術練習だとかをしていた知念くんを無理やり巻き込んでまで、甲斐くんはバイキングホーンを見せてくれるとか言ってる。
良い迷惑だね!

「知念ー!早くサーブ打てー!」
「あー…ハァ……分かったさぁ」

ち、知念くんが柄にもなく馬鹿でかいため息をついたぞ!?

「ちっ知念くん、面倒なら面倒って言って良いんだよ!?」
「ん、大丈夫。…面倒だけど無視したら無視したで後々余計面倒くさくなるからなぁ」
「そ、そんな知念くんがストレス抱えることないのに!そうだ、うちが甲斐くんに文句言って…」

バコーン!

ブアッ!?

な、なんだなんだ!?
急に飛んできたボールが頭にぶち当たったぞ!?

「神矢…大丈夫か?」
「し、心配ありがとう知念くん…ってて…コルァ誰だ痛いやないかぁ!」
「……」
「うおっ平古場くん!」

ムスッとした顔の平古場くんがこっちに来た。
犯人はこいつか!
基本うちに危害を加えるのはこいつしかいないけどな!

「…」
「ってオイ!しかも謝らんのかい!」

何と薄情な!
普通ヒトにボールぶつけたらごめんなさいだろうが!

「…コートの中ウロチョロしてるやーが悪いんだろ」
「なんだとぉ!?…あ、というか!やっと口きいてくれたな!」
「…ちっ」

舌打ちかーい。
なんと礼儀がなってないことか!
しかもすぐまたそっぽ向いて立ち去ろうとしやがる!

「ちょっ!また無視!?行かないでよ、謝らしてよ!つーか今は謝るのお前だろ!
「あーもう着いてくんな、鬱陶しい!」
「うっ…鬱陶しい、だとぅ!?あんたが逃げるから追っかけるだけですけど!」
「いくら着いてこられても邪魔なだけやし。それに許す気なんかないんどー」

あくまでもうちには謝る気はない、って言うのか。

「いや平古場くん、待っ」
「だから着いて来んな!」
「…っ」

ピシャッと強く言われて、つい足が止まってしまった。
平古場くん、マジでキレてるらしい。
な、何さ…。
あんな強く着いて来んなとか言わなくてもいいじゃん…。
なんか……
すっごくムカつくんですけど。

「こンのっ…平古場のクソ野郎がぁ!!髪ケナしたくらいでマジギレすんなよバーカバーカ!心狭男ー!!」
「うるせー!!」

言われっぱなしは嫌なのか、言い返してくるところは笑えるな。
と、ここで。

「涼音っ!危ない!」
「あ?」

甲斐くんの大声が聞こえた。
甲斐くん?ってそうだった、バイキングホーンのことすっかり忘れてたわ!
…というか、危ない?

「…えっ?」

甲斐くんの方を何気に見ると、何かがうち目掛けて向かってくるのが見えた。
それはそれはエグいスピードで。
えっ何あれなんだろ早いね、ボール?テニスボールだね、あははっすげー勢いでこっちに飛んでくるねーこれ確実うちに当たるパターンですねぇ!
ウワァありがとうございまーす!(錯乱中)

「避けろー!」

んなこと言われたって!
あんなん避けれるかーい!
う、うわっダメだ、ぶつかる!!

パァン!!

「っ…!」

でかい音がすぐ近くで聞こえた。
…あれ?
だけどその割には…。

「い、痛くない…?」
「…ふらー。コートのど真ん中で騒いでるからこんな目に遭うんやっさー」
「おっ…あっ?ひ、平古場くん?」

イリュージョンや。
目ぇ開けたら目の前に平古場くんがいた。
さっき怒って向こうのコート行ったばっかなのに。

「え…?まさか助けてくれたとか…そういうパターン?」
「べ、別にそういう訳じゃ…ボールが当たって逆ギレされたらまた面倒なくとぅになると思ったんばぁよ」

さっきボールぶつけといて謝らなかったのはどこのどいつだろうか。
まぁ、それは目を瞑ってやろう。

「と…とりあえず、ありがとう。寿命は縮まったけど助かったわ」
「だ…だから別に助けたつもりはないさぁ!」
「涼音!わっさん(悪い)!大丈夫か!?」

と、ここで甲斐くんがやって来た。

「甲斐くん…なんとか大丈夫だったよ」

それ以前にちゃんと見てなくてゴメン。
そして定期的にバイキングホーンのことを忘れてゴメン。

「あー…じゅんに当たらなくて良かったさぁ…」
「裕次郎、コントロール悪過ぎだろ」
「う…わっさん…凛が縮地法使わなかったら涼音に穴開くとこだったさー。にふぇーどな」
「えっ?」

あのボールに当たってたらうち穴開いてたの!?
こっ、こえー!なにそれ超こえぇー!

「…というか、そのシュクチホーとやらは何なの?平古場くんがいつの間にかあっちからこっちに移動してたのって、それの力なわけ?」
「ぬーやが…まだ縮地法知らないんばぁ?」

知らんし。
初耳だし。

「力…というか…まぁ、簡単に言えば瞬間移動さー」
「は?あのなぁ裕次郎…それは違うって何回も」
ええぇぇ!?瞬間移動ってまじで!?」

すげーな、そんなこと出来るの!?
うーわ、平古場くん初めて尊敬したわ!

「スゲーやん平古場くん!なんかあれだね、漫画のヒーローみたいな感じじゃん!」
「ま…まあそう簡単に出来ることじゃないさぁ」
「わあ得意げウッゼー!けどスゴいわぁ!地味に尊敬するー!」
「地味にかよ!」
「いやいやマジで感激はしてるよ!平古場くんて凄いんだね、知らんかったわー!」
「…ふん、分かればいいやっし」

平古場くんの顔が得意げだ。
少し褒めたら機嫌が直ったらしい。
愉快なヤツだ。

「ん?…いや待てよ。凄いっちゃ凄いけどよく考えたら瞬間移動出来る人間ってヤバくない?ヤバいよね悪い意味で。平古場くんって人間じゃないんだね!」
「は!?ど、どう見ても人間だろ!つーか悪い意味でってぬーよ!?」
「だって瞬間移動とか普通の人間には出来ないやん!あっ、じゃあこの流れで前のこと許してくれるよね!」
「はぁ!?なんでそうなる!?」
「話してくれるようになったし、何とかなるかなーと」
「アホか!たーが許すってあびたんばぁ!?」
許せ!
「強制かよ!人のくとぅ(こと)人間じゃねーとか悪い意味でヤバいとかあびる奴なんか許せるか!」
「ええーチクショウなんだよケチ!このハゲ!」
「ハっ…ハゲてないんどー!」
「うっさいハーゲ!平古場くんのハーゲ!頑固カタブツー!」
「かしましい!」

がん!!

「あだぁ!?」

殴られた。しかも強めのグーで。
なんだよもう!
ボールから助けてくれたのが遙か昔のように思えるわ!

「…結局やったーはこうなるんばぁ…」

うぐ。ち、知念くんに呆れられてしまった。
うちが痛がってる間に平古場くん、怒ってコート帰ってっちゃったし。
ずっと仲良く話してるなんて無理に等しいようだ。
というかハッキリ言って無理だわ。

「…なんか楽しそうにも見えるけどなー」
なんだと?

聞き捨てならないことを甲斐くんが言う。
罵り合いが楽しいとか、どこをどう見たらそう思うんだろうか。
甲斐くんはいっぺん病院へ行った方がいいと思う。

「…先程から何やら騒がしいですが、ちゃんと練習しているんですか?」

うわっ、いつの間にか木手くんがすぐそこにいた!

「ちゃんとしてるさぁ。涼音に海賊の角笛見せてたんどー」
「ああ…プレイスタイルを覚えるようにと課題を出しましたからね。技までは覚えるようには言ってませんが…ちゃんと学んでいるんでしょうね」

出された課題ってプレイスタイルだったか。
いま思い出したわ。

「え、えーと…甲斐くんがマスキッパが好きってことは覚えた」
「…は?」
「あ、そういや凛はルカリオが好きとか言ってたぜー」
「る、ルカリオぉ!?うーわ調子こいてんなアイツ!あんな人の話聞かない金髪野郎のお気に入りはルンパッパでいいんだよ、のうてんきポケモンでいいんだよ!ポ●モンですらカッコつけてんじゃないよ憎たらしいな!」

べし!

「いって!」
「誰がポケ●ンについて語れと言いましたかね。…まったく、結局一人分も覚えてないみたいですね」
「覚えてないと言いますか…」

何を覚えればいいかも忘れてたくらいなんだから、それ以前の問題なんですよ。
というか!いちいち叩かんで欲しいわ!

「それよりさ、木手くん…」
「なんです」
「プレイスタイルって…何?
「……」

おっ、怒るでも無く虚しい顔するの止めてよ木手くん!
なんか傷つく!

「主将…神矢に物を教える時は根本からじゃないと駄目やっさー…。わったー、神矢がプレイスタイルについて覚えようとしてたくとぅ(こと)すら知らなかったさー」

知念くんが首を振りながら言った。

「うちテニス超初心者なんだから、いきなりそんなハードなこと言われても何にも分からんからね?まず単語の意味から教えてくれなきゃ、うちは何もできませんよ!」
…はぁー……。そうですね、今回は俺が悪かったです。ちゃんとした説明もしませんでしたから」

木手くん、めっちゃデッカイ溜息をついたぞ!?
どんだけ呆れてるんだ!

「明日からは根本から教えますよ」
「えっ、マジで?」
「ただし、もし教えたことを少しでも忘れたら…タダじゃおきませんからね。分かりましたか?」
「げっ…!」
返事は?
「は…ハイ…」

木手くんに凄まれ、うちは頷くことしか出来ませんでした。

拝啓、お母さん。
明日から本土に帰りたいと思います。
あっ無理ですかそうですか。
うん、分かってたけどね…。
うち、明日死ぬかもしれないわ…。


「…ねえ木手くん。どうでも良いかもしれんけどさ」
「何です」
「何のポケ●ンが好き?」
「なんですか急に。強いて言うならキャタピーです」
「…そうすか…」

今年一番どうでも良い情報を得た気がした。



つづく



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