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どれだけ心に響くかってことなんです


一応、木手くんと平古場くんは謝ったら許してくれた。
平古場くんは口きいてくれるまで3日かかったけどね。
一応、腫れたほっぺたも治ってきたし…。
あれは黒歴史として奥深くにしまって置くことにしよう。
二度と同じ目なんかに合うものかと誓った15の夏。



18 どれだけ心に響くかってことなんです



「海ぃ?」
「ええ。今日の部活は海岸荒行ですから」
「かいがん…?」

部活が始まる前に、そう木手くんに言われた。
どっかで聞いたような…?でも思い出せない。

「海での練習です。とっとと荷物をまとめてくださいよ」
「…うぃーす」

ふん、木手くんの呆れた顔なんか見慣れたもんねっっ!!
何回見てもムカつくに変わりはないけど!
というか転校して来て暫く立つけど、うちが海での練習に行くのは今日が初めてじゃないか?
海かあ…。
そういや、初めてこいつらと会った時も海だったなぁ。
海はうちにとってのスタートポイントだったんだよな。悪い意味で。
行って拒絶反応起こして痙攣し出したらどうしよう。



「暑い…海、あちぃ……」

それから歩いて海にやってきた。
いやもう、ホンットに暑い。なにより砂浜が余計暑い。
拒絶反応は起こさなかったものの、暑さで狂いそうだよ。
木手くん達なんか全員水着で遠泳行っちゃったしさー。
くそお!うちも泳ぎたい!
今度から海に練習行くっつったら水着持参しよっと!

「ハッ、やーの貧相な体なんか見たくないんどー」
「遊びに来てるんじゃないんですよ。しっかり仕事してくださいよ相変わらず使えませんね」

なんか嫌な空耳が聞こえた。
だけどうちが水着を持ってくるとか言ったら、おおよそ上と同じようなことを平古場くんだとか木手くんから言われるはず。
…海には個人的に行くとしよう。

「…暑いってのもあるけど…暇でもある…」

練習で今みんな遠泳をしている。
テニス部で遠泳?とか思ったけど、そういや初めて会った時も泳いでたなコイツら。
そのおかげで今うちの周りには誰もいない。
ヒャッホウ!!な環境なんだけど、暇なのもつまんない。
タオルは準備してある(炎天下放置中)し、ドリンクも準備してある(炎天下放置中)。
うーん、やることナッシング。
砂のお城でも作ろうかな。
てか帰ろうかな。


「よーっしゃ!でーきた!」

怒られたくないから帰りはしなかったけど、変わりにいそいそ砂遊びしてた。
ひとりで寂しいとか言わない!

「フッフーン、完璧っしょこの雪だるま!」

いや砂で作ったから砂だるまか?
ま、なんでも良いや!

「あースマホ持ってこりゃ良かったー!写メってテニス部にチェンメのように流したかったわー!あいつらのデータフォルダをうちの完璧なる「I am snowman〜魅惑の三段腹ボディ〜」で埋めてやりたかった!」
させるか

ドシャ

あばばあぁあ!!?さっ三段腹ぁああ!!」

誰かの一撃でうちの渾身の作品が砂と化しちゃったんですけどー!?
いや元から砂だったけども!

「なにすんだよぉ!…って平古場くんかよ!」

どうやらうちの三段腹砂だるまを蹴ったくったのは平古場くんだったようだ。
いっつもうちに害を為すのはこいつなんだから!

「練習は!?どうしたのさ!」
「休憩さー」

まじか、いつの間に遠泳から帰ってきたんだ。
そのまま木手くんと平古場くんと甲斐くんはどこかに島流しになればよかったのに。

「で、タオル取りに来たらやーがふらーなくとぅ(こと)してたから蹴っ飛ばしただけやっし」
「何も蹴っ飛ばさなくてもいいじゃないか!あれ作るの大変だったんだからな!?」
「知るかよ」
「知れし!見たでしょ!?日本式の二段重ねの雪だるまじゃなくて外国式の雪だるまにして三段だったんだかんな!積み重ねるの超ムズかったんだぞ!!」
「知るか!」

三段重ねだったからこそサブネームは魅惑の三段腹ボディだったのだよ。
ああ、今はボディどころかフェイスも見当たらないぜ…。

「わったーが必死に練習してんのに遊んでるやーが悪いんだっつーの」
「でもやること見つからんかったし!帰らんかっただけ褒めて欲しいわ!」
「おー、それだけは褒めてやるさー。永四郎も神矢が目を離した隙に帰らないか、帰ってたら口にゴーヤねじ込むとかあびてたんどー」
「ウゲッ…!」

かっ、帰らなくて良かったー!
頑張って三段腹作ってて良かったー!

「とにかく、帰ろうとすんなよ。帰って後悔すんのはやーやっし」
「え゛。まだ練習あんの?」
「当たり前やっし。まだ半分くらいさー」
「マジかよ…」

こんな炎天下にまだずっといなきゃなんないのか?
干物になる。
三段腹を作ったことで余計体力を消耗してしまった気がする。
何をしてたあの時の自分!

「なんで何もしてないやーが疲れきってんだばぁ?アホか
「最後のは余計だ!あれだ、三段腹作って疲れたんだ!」
「んなことに体力使うな」

べし

「あぶっ!」

何で頭殴るかなぁコイツは!
脳細胞がどんどん死んでゆくじゃないか!

「…神矢」
「あ?何さ」
「やー、熱すぎやっし」
「は?ああ、まぁ情熱家なんで?」
「ふらー」

がつん

「へべっ!」

い、今時チョップって!
余計脳細胞が死滅するわ!

「髪、熱過ぎやっさー」

ああ、熱いって髪のことか。

「今までずっと日向にいたのかよ」
「そりゃあ、ここ日陰ないし?」

見渡す限り酷く熱されてる砂浜しかないっすからね!

「タオルもドリンクもあるんだから使えばいいだろ」
「部員分しかないのだよ!」

だーって誰も運ぶの手伝ってくれんもん!
え?優しい知念くんがいるんじゃないかって?
木手くんが「運ぶのはマネージャーの仕事です」って手伝ってくれようとする知念くんを阻みやがったのさ。
で、結局1人で運ばないといけなかったんだ。
だから少しでも運ぶ荷物は減らしたかったんだよ!

「…はあ」

平古場くんになんか溜め息つかれた。
なんで。

「…タオル」
「は?」
「わんの分のタオル、貸せ」
「え?あぁ、はい」

偉そうだな。
いつものことか。

「熱っ!このタオルも熱いんどー!」
「そりゃあ炎天下にありましたから」

日陰ないと言ったでしょう。
人の話は聞きたまえ。

「ったく…タオルも熱かったら意味ないさぁ」
「びしょ濡れより使い勝手が良いと思うけどな!」
「当たり前やし。…ん」
「は?うぶっふ!?

バッサァとタオルを顔面にかけられた。
取れって言われたから渡したってのに、直ぐに投げ返されたんですが。
え?新手のいじめ?

「なにさ平古場くん、要るか要らないかはっきりしろよぶっ飛ばすぞ!
「ぬーやが!?要るからあびたんやっし!やーはそれでも被ってろ!」
「はぁ?」

なんで。
…取り敢えず被ってはみるけど。

「こうか」
たーが泥棒被りしろって言ったよ

※泥棒被り
泥棒が被る手拭いのような、鼻の下で結ぶ被り方

「被れって言われたらこれしか思い付かなかった」
「何でだよ。ま、やーのブサイクなちら(顔)が見えなくなって丁度良いかも知れないけどな」
なんだとこのやろう!

お前こそ一生タオルと友達でいればいいのに!

「それがあれば少しはマシになるさぁ。それ以上頭熱くして脳細胞死滅させて今以上にふらーになるよりかはマシだろー」

さっき空手チョップして直にうちの脳細胞を死滅させたのは誰だろうか。
そして言い方が大変失礼。
…でも、自分勝手な平古場くんがタオル貸してくれたことはなんか珍しい。

「…とりあえず…まあ、ありがとう。言い方はともかくね、気遣ってくれたのは嬉しいわ」
「嬉っ…だ、誰も気遣ってなんかないんどー!これ以上やーがふらーになって迷惑かけられるのはゴメンだからな」

保身のためかこんちくしょう。

「凛ー、そろそろ休憩終わりって木手があびてるんどー…ってうわっ、涼音ぬーよそれ」

甲斐くんと目が合うなりうわって言われてしまった。
虚しくなったからもう泥棒被りは止めよう…。

「いやね、頭が発火しそうに熱かったから被ってるだけさ。夏の砂浜は殺人級だわーホント」
「なら涼音も海入れば良いさぁ。こんなとこいるから暑いんどー」

正論。

「入りたいけどさー、マネージャーっすから。健気に練習を見守ってます」

入ったら入ったで部員の不条理な練習についていけるわけない。
遠泳なんかした暁には潮に飲まれうちが島流しになってまう。
だからって遊んでたら木手くんのゴーヤが待ってるだろう。
まーじ勘弁。

「健気…プッ、似合わねー」

笑うな平古場。

「入らないんなら気を付けるんどー。特に涼音は本土出身でうちなーの暑さに慣れてねーだろ?」
「あ、おお。ありがと甲斐くん。死なない程度に頑張る」
「砂遊びしてる内はまだ心配する必要ないさぁ」
「うっさいわ!」

生意気な口出しは遠慮いただきたい!

「タオルだけじゃあんま意味ないんじゃね?これも貸すさー」
「え?」

ばすっと視界が暗くなる。
頭になんか乗った。

「…甲斐くんの帽子?」
「おー。どーせ今使わねーし、やーに貸しとく。タオルよりかはマシだと思うさー」

今は人に物を貸すブームなのだろうか?
ま、いいや。
貸してくれるならありがたく借りておこう。

「ありがとね甲斐くん」
「礼なんかいらねーんどー。後でちゃんと返してくれんなら」

別に汗にまみれた帽子はいりませんから返しますけどね。

「んじゃ、練習戻るさぁ。ほら、凛も」
「…おう」

元気に走ってった甲斐くん。
それに対して、なんかまた平古場くんテンション落ちてるような…?
この人ほんと躁鬱激しいよな。

「…平古場くんどうした?」
かしましい話しかけんな

わお!めっさ怒ってらっしゃるー。
なんでだ、威圧感ハンパねえぞ。
後ろに般若が見える。

「え、なに。甲斐くんと喧嘩でもしてんの?」
「…してない」
「じゃあどうした。またうちのせいすか?」
「…」

おぉーい、無言は肯定と取りますよー?
うちか、うちが悪いんか。

「…どうせ」
「え?」
「タオルだけじゃ大した役に立たないんどー」
「…は?」

タオル?
えーと、つまり…さっきの甲斐くんの「タオルよりかマシ」発言気にしてんだろうか?
子どもか!
あ、子どもか。

「なんだそんなこと…」
そんなこと?
「じゃないですよねーゴメンナサイ!」

めっちゃ睨まれたよ。
なんかゴーヤ持ってる木手くん並みに怖い。

「で、でもさ平古場くん。最初に気付いてくれたのは平古場くんだったしさ」
「別に、ただ先にここにいただけさぁ」
「い、言い方はともかく、うちのこと気遣っててくれてたじゃないか」
「わんより裕次郎の方が心配してたしな」
「いやそんなこと…」
「どうせタオルなんか要らねーってやーも思ってんだろ」

うわぁ、なんだよ平古場くんグチグチと!
キレられるのも嫌だけど、マイナス思考はこれでめんどくさいんだけど!

「…あのね!こーゆーのはどれだけ凄いことしたかよりどれだけ嬉しかっただと思います!うちは平古場くんが真っ先に気付いて自分の分のタオル貸してくれたことが嬉しかったの!それだけで何が悪い!」
「…!」
「……ん?あれ?」

な、なんか勢いに任せて言葉を発した気がする。
あ、ヤベェ。
平古場くんめっさ驚いとる。
目ん玉取れるんじゃないかってくらい見開いてる。
大丈夫か?

「…あの、平古場くん、ごめん。何か勢いで変なこと言ってしまった」
「あ…ああ…別に」

我に返った平古場くんに怒鳴られるかとか思ったけど、何故かそのまま視線を泳がして他の人たちの方に戻ってってしまった。
ど、どうしよう。
急に声を荒げたから何かしら心臓に負担を与えてしまったかもしれない!

「何1人で慌ててるんですか、みっともない」
ぎゃあっ!?

後ろから声かけられた!
え、なに誰!?
今まで誰もいなかったのに!

「…急に声を張り上げないで貰えますかね。貴女の声は頭に響く」
ゲッ!き、木手くん」

あ、反射的にゲッて言ってしまった。

「何ですか、人の顔を見るなり「ゲッ」とは」
「え!?げっ…げ…齧歯目!とか」
アホですか

アホて!
ひっどい、地味に傷つく。

「と、というか木手くんは何しにきたの」
「タオルもドリンクも配らずまともに働かないマネージャーに喝を入れに来たんですよ」
「すいませんごめんなさい許してください」

咄嗟に土下座してしまった。
砂が熱いとか関係ない、やっぱ木手くんが1番怖い。

「1人でタオル使って甲斐クンの帽子を被っている暇があったら仕事しなさいよ。第一なんですかその恰好」
「え?」
「そのタオルと帽子です」
「あ、あぁ、これ?これは平古場くんと甲斐くんに…」
「農家の方みたいですね」
「……」

麦わら帽子だったら完璧、ってなんでやねん。

「全く…後1時間程ですから、これ以上の可笑しな行動は控えてくださいよ」

可笑しな行動て。

「分かったよ…あ、てかさ木手くん」
「なんですか」
「あの…平古場くんがそのうち心臓悪くして倒れるかもしれないから、良く見てあげててね」
彼に何をしたんですか
「い、いや…なにも…」

してない、と思うんだけどな…。





「…」
「…凛、どうしたんだばぁ?さっきから」
「…あい?ぬ、ぬーよ」
「ぬーよ、じゃねーらん。さっきからぼーっとしてるし」
「ぼ、ぼーっとなんかしてないさぁ」
「そうか?…ま、良いけど。真剣にやらねーらんとまた木手にキレられるんどー」
「…おー」

その言葉そのまま裕次郎に返してやりたいと平古場は思う。
けれど平古場の頭の中は別のことで溢れていた。

『こーゆーのはどれだけ凄いことしたかよりどれだけ嬉しかっただと思います!うちは平古場くんが真っ先に気付いて自分の分のタオル貸してくれたことが嬉しかったの!』

平古場の頭には、先程涼音から言われた言葉がぐるぐると回っていた。
モヤモヤと気持ちがはっきりしないけれど…それはいつものイライラとは違っていた。

「…なんだよこれ…」

顔が、熱かった。



つづく



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