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距離を縮めるのは難しいんです


転校から今日で1週間。
時が経つのはあっという間だね。
でもだんだん騒がしい日常に馴染んできている自分が怖い。
そのうち琉球方言をマスターしちゃうかもしれない。
それ以前に髪の毛が紅芋タルトになったらどうしよう。



16 距離を縮めるのは難しいんです



「はー…マネージャーって部活中に買い出しとか行かされるんだね。めんどくさっ」

今日は午後の部活時間を使って買い出しに出されています。
もちろん木手くんの命令によって。

「仕方ないんどー…神矢が居ない時はわったーもしてたさぁ」
「そーなのかぁ…大変だねぇ知念くん」

はい、神こと知念くんと買い出し中。
本当は部員(レギュラー)が買い出しなんてあんまり無いらしいけど、顧問の早乙女先生が出張で居ないらしくオッケーが出た。
木手くんが「買い出しくらい1人で行きなさいよ、と言いたいところですが今回は量が多いですからね。誰か連れて行っていいですよ」と言ったからこうして知念くんと一緒に来てるのだ。
木手くんが「因みに俺は絶対に行きませんよ」と先に言ってきたけど木手くんに頼む気なんか毛頭ないですけどね?
慧くんはまだ部活に来てなかったし、平古場くんは素で嫌そうな顔してやがった。
甲斐くんがキラキラした顔してたけど、連れて行くともれなく寄り道する羽目になるから知念くんと共に行くことにしたんだ。
とても幸せです。

「買い出しも終わったし…へーく(早く)帰るんどー」
「うん」

もう買い出しは済んでいる。
マジでがっつり買った。
良かった、1人じゃなくて。
まず道に迷うところだった。

「あー…てか…おっも!」

しかしなかなか荷物が重い。
知念くんと半分に分けて持ってるのにまだまだ重い。
うちは必死に運んでるのに知念くんは怖い顔…いやいや涼しい顔して運んでる。
ちくしょう、これが鍛えてると鍛えてないの差ですか!
知念くんなんか殴ったら折れそうな体してるのにね!

「…神矢」
「ぁいっ!?」

急に話しかけられてまた変な声を出してしまった。
恥ずかしい。

「な、なに?」
「荷物。もっと持つから渡せー」
「え?でも半分もう持ってくれてるし」
「…やしが、重そうやし」
「ちちちち、知念くん…!!」

な、何だろうこの人!
信じられないくらい優しいのですが!
顔が怖いって言っても首を傾げたその仕草は可愛いと思えてしまうのは知念マジックなんだろうね!

「…どうした?」
「な、なんでもないよ!じゃ、じゃあ…お願いしても良いすか?」
「うー」

ここはお言葉に甘えて荷物を持ってもらうことにした。
そうすると実質、知念くんは全部の荷物の4分の3くらいを持ってることになる。

「な、なんかほとんど持って貰っちゃってるよね!?」
「気にさんけー。…やーはいなぐやっし、無理したら駄目さぁ」
「いなぐ…確か、女の子って意味だっけ?」
「おー」
「おぉ…!」

なんとなんと!
うちを女の子扱いしてくれて、しかも無理したらダメって!
な、なんとジェントルマンなのかしら!!
これもうちが超絶魅力的☆な女の子のおかげだよねっ!

「…重い荷物持たせて帰るの遅くなったら、主将に怒られるからなぁ…」

いやそういう理由かーい!
いやまぁ、怒られたくないのは分かるけど!
うちだって怒られたくないけど!
くっそ、今「ハッ、たー(誰)が魅力的だって?」とか言って見下す平古場くんの顔が浮かびやがった。
よし、帰ったら殴ろう(八つ当たり)。


「…神矢―」
「ん?」

暫く歩いてたらまた話しかけられた。
今度は驚かなかったぞ!

「なに?」
「やーが転校して来て、もう1週間か?」
「あー、うん。気付いたらね」

毎日がストレスの連続ですよ。
あのコロネとかあの金髪とかあのモサモサとか。
胃に穴が開いたら訴えてやるからな。
訴えたら勝ってやるからな。

「…慣れた?比嘉中とか、テニス部に」
「…まあ、だいぶ日常の生活には慣れて来たけどさー」
「けど?」

ストレスの連続なんだよ、さっきも思ったが。

「…なんと言うか…うーん。…疲れるなぁと」

オブラートに包んでみた。
なんて優しい涼音ちゃん!

「…ああ」

理解してくれた。

「やけに懐かれてるからなぁ、裕次郎に。だぁや(それは)にりる(疲れる)…疲れるやっさー」

甲斐くんと絡むイコール疲れる。
それは誰しもが承知のようだ。

「…懐かれてる?かどうかは分からんけど…」

同じクラス、同じ部活だってだけでやけに甲斐くんと絡むことが多い。
なんか必ず一緒に帰る気がするし、昼も移動教室も全部一緒でなんか一緒に居ない時が居ないような…。
うわ、嬉しくねぇ。

「確か朝も起こしに行ってるって聞いたんどー」
「そだよ。そのせいでうちの睡眠時間は削られているのさ」

木手くんに命令されてるから、マジで律儀に起こしに行ってるのさ。
そのおかげで甲斐くんは無遅刻無欠席という今だかつてない好記録を叩き出しているらしいのだ。
うちの睡眠時間と引き換えにな。
3日くらい経った時にめんどくなって起こしに行くのをボイコットしようともした。
寝坊したフリしてサボってやろうかと思ったら問答無用で平古場くんが叩き起こしに来たけどね。
お前が1人で行けって話だっつーの!

「甲斐くんが絡んでくると今度は平古場くんも関わってくるしさー…なんか悪魔のクラスだよね2組って

なんでうちは2組になったんだろうか。
何か前世で悪い事でもしたのだろうか。

「…何やかんやで、凛君もやーのこと気に入ってるみたいやっし」
「…………は?

なんだって?
いま理解に苦しむ言葉が出たぞ。

「ちょっと…知念くん?」
「ぬーやが?」
「…えーと、平古場くんが…何だって?」
「…だから、やーのこと気に入って」
ないないないないないない!!絶対ないマジないありえないわー!」
「そ…そうなんばぁ?」

大声出し過ぎて知念くん驚いてる。
驚かせて悪いとは思ったけど、それは絶対ありえない!

「悪いけど知念くん、そりゃ絶対ありえないよマジで。自分で言うのもなんだが平古場くんとはクッソ相性悪いから
「…確かによく喧嘩はしてるよなー…」
「そうそう」

しかも大半が理由もなしにうちがぶたれる。
本当に訳が分からないよね!
いつか殴られ過ぎて頭蓋骨の形が変わるかもしれない。

「…やしが、凛君が怒鳴ったりするいなぐ(女)はやーだけやっさー」
「うちだけ?」
「特別ってくとぅ(こと)だろー」

それはまた、嬉しくない特別だ。

「悪い意味での特別って感じですけど」
「でもそれだけ心を開いてるってくとぅでもあるさぁ」
「……うぅーん…」

「うちだけ」という言葉は嬉しいが、その特別が怒鳴られたり殴られたりっつーのはいただけない。
あいつにはフェミニストの考えはないのだろうか?
なさそうだな。

「…あんまり邪険にしてると、そのまま同じように返ってくるんどー。気を付けた方がいいさぁ」
「うー…うん…じゃあ考えてみる。知念くんが言うなら」

あくまで知念くんが言うなら。

「ん。それが良いさぁ。…わんとしても、あんまり喧嘩はしてほしくないんどー」
「そうなの?」
毎日かしましいのを聞いてるのもにりる(疲れる)からなぁ……

知念くんがため息をついた。
あ、あれ?
それは遠まわしに「お前らうるせーんだよ少しは口閉じてろよイライラする」とでも言いたいのだろうか?ん?
優しいから口には出さないけど、心の中では密かに怒りの炎を燃やしていたってことなのか!?

「…なんか、あの…ごめんね知念くん」
「…なんで謝るんばぁ…?」
「いや…」

平古場くんにも厳重注意しておこう…。



「ふー。ただいーまー」

漸く帰還。
と、気付いた木手くんが近付いてきた。

「思ったより早かったですね」
「寄り道しなかったからね!」
当然ですよ。買い出しと言っても部活中なんですから寄り道なんて言語道断です」

喜んで寄り道しようとする輩はいますけどね?

「それより神矢クン、だいぶ荷物が少ないみたいですが」
「あぁ、ほとんど知念くんが持ってくれたのさ」
押し付けたんですか。貴女も性格が悪いですね」
「ちげえ!」

というか面と向かって性格悪いとか言うなや!
まず木手くんに言われたくない!

「重そうにしてるうちを見て、持ってくれたんですー!知念くんはうちに似て心が広いんだからっ!」
「それにしてもこれだけの量で疲れるとは神矢クンは無駄に力が無いんですね」

綺麗にスルーされた。

「無駄にって、仕方ないじゃん。これでも女なんですから!」
「その無駄なテンションを有効に使えないんですかね。第一、最近は毎日ゴーヤを食べているのにどうして力が付かないのか不思議ですよ」

食べてるから力が抜けてる気がするんですけど。

「…まあ仕方ないですね。荷物を部室に置いて仕事に戻ってください」
「あーい」
「知念クンは既に練習に戻ってますからね」

早えな。



ガチャ


「お」
「……」

部室に行ったら平古場くんがいた。
だけど露骨に嫌そうな顔するの止めてくれないかな?
まーイラッとくるわぁ。
…おっと、いけないいけない。
知念くんにせっかく言われたんだ、学ばなければ!

「えーと、何してんの?不法侵入?」
「ふらー。部員が部室に入るのがなんで不法侵入になるんだよ」

ちっ、素で返された。冗談が通じない。

「冗談さ冗談。…タオル?」

平古場くんの片隅に山積みのタオルがある。

「…やーが居ないから永四郎に命令されたんどー。持って来いって」
「それはご愁傷様デスゥ」
「テメェ!!」

ほんと冗談が通じない。

「仕方ないじゃんよー!うちだって買い出し行ってたんだから!」
「雑用は全部マネージャーの仕事さぁ、当然だろ」

うっぜ!
マネージャーはお手伝いさんじゃねっつの!
勝手にマネージャーにしといて勝手に仕事押し付けやがって…。
まあイライラする!
知念くんに悪いけど、やっぱイライラするよ平古場くんと話してると!

「ぬーよ、何か言いたいちら(顔)してんな」
このハゲ!
ハッ…!?たーがはぎちぶるぅ(ハゲ)さぁ!!からじ(髪)あるっつーの!」
「ハゲてなくてもハゲということもある!ハーゲ!バーカ!平古場くんのハーゲ!」

もはや悪口は保育園レベル。

「ふらーはやーやっし!」

ベシ

「いって!おぉい!女子に手ぇ上げるなこのDV男!」
「はっ!たーがいなぐ(女)だって?」
「てンめぇ!」

醜い争いのはじまりはじまり。


――15分後。


「……」
「……」

2人揃って部室を出る。
互いに「ボロボロ」が似合う格好だーと我ながら思う。
まあね、取っ組み合いの喧嘩したから仕方ないんだけどね。
ちら、と金髪野郎と目が合う。

「「フン!」」

うちはタオルを持ってベンチに、金髪野郎はコートに向かう。
ああもうイライラするわぁ!

「…な、何があったんだばぁ…?」

明らかにただ事じゃないという格好に知念くんが話しかけてきてくれた。

「…知念くん…」

笑顔を貼り付けた顔で知念くんを見上げる。

「悪いけど、やっぱ平古場くんとはウマは合わないっすわ」
「……」


「…凛、何だよその格好…」
かしましい。話しかけんな
「…でーじ(めちゃくちゃ)キレてるさぁ…」



つづく



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