苦手教科も頑張るんです
「…木手くんに殺されなくて良かったね」
「あー…だーるなぁ(そうだなぁ)」
放課後、大半の生徒が部活に行くか帰路についているかをして静かになった教室で、うちはフリーダム甲斐くんと2人でプリントを解いていた。
15 苦手教科も頑張るんです
先生に補習をしろ宣言をされた時、うちは甲斐くんと特攻隊になってきた。
つまり、木手くんに向かって「補習受けてきます宣言」をしてきた。
怖かったのなんの。
下手すりゃ命に関わる宣言だったからね。
「きききき木手くん!」
「何です」
「ああああのですね、ほほ本日はお日柄も良く空も海もムカつくほど青く澄み渡って雲もわたくしの気持ちとは対照的に真っ白でありますそんなわたくしの心がなぜ深淵のごとく淀みきっているのかと言うと」
「…」
「プッ、神矢でーじテンパってるさぁ」
「うるせぇ金髪!!」
「何なんですか。はっきりしなさいよ」
「ひっ!!い、いや大したことじゃないんだけどさ!いやでも大したことではあるけど…!」
はっきりしたいんだけどさー!
でもはっきり答えて木手くんに怒られるのは嫌だという葛藤!!
「わったー、ちゅー(今日)の放課後補習受けてくるさぁ」
「おぼっ!?ちょ、甲斐くん!?」
「…ほう」
「!」
あばばばばば!木手くんの眼鏡が逆光になった!
「まったく…今度1度、部員の成績を知る必要があるようですね」
「…部員の中にはマネージャーって…」
「入りますよ。当然でしょう」
やっぱりね。
「取り敢えず、分かりました。しっかりと補習受けて来て下さい」
「お、おー」
よ、良かった…そんなに怒ってないようだ。
「部活時間内に間に合わなかったら明日から1週間昼食はゴーヤづくしDXですからね」
「「っ!!」」
結構怒ってた。
でもとりあえずその場では説教はされずに済んでほっとした。
もっとめっさ怒られて校庭に植えられている木に逆さまに吊るされて鼻から牛乳でも飲まされるかと思った。
木手くんのことだからゴーヤジュースか。
どこぞの拷問だ。
まあゴーヤDXも嫌だけどさ!
で、今にいたる。
本当は先生が簡単な授業をする予定だったけど、急遽入った出張で大量のプリント片付けることが補習になった。
それはそれで面倒くさい。
目の前にはもっさりとプリント。
ひー、やる気起きねー。
それに。
「…甲斐くんよー」
「んー?」
「先生いないからって黒板に落書きすんのやめよーよ」
最近、甲斐くんが本当に子どもにしか見えない。
いや中学生は子どもだけど。
「別に良いやっしー。まだ部活終わるまでに終わらせればいいんだろー」
「部活終了ギリまでやってるつもりですか。やだようち、ゴーヤDX食うの。早くやって早く部活行こーよ」
「なあなあ、これやーに似てね?」
「うちの話聞いてる?」
ついでに言うがうちの顔はそんな単純な丸だけじゃ出来ねえぞ。
「というか甲斐くん、プリント進んでんの?」
「…まーなー」
「嘘つくなよ」
目が泳いでるぜ。
そして何よりプリントが真っ白。
見え透いた嘘は止めたまえ!
「プリント全部終わらせないと帰れないって先生言ってたじゃんよー。…ま、いいか。うちの分さっさと終わらせて部活行けばいいんだし」
何も甲斐くんを待ってる必要なんかないんだ。
待ってようとしてた自分がアホみたいだ。
「ダメだ!!」
「な、なんで」
急に声張り上げんな、心臓に悪い。
「一緒に終わらせて一緒に部活行くんどー!」
「は、はぁ?何でさ」
そんなに一緒したいって、うちどんだけ気に入られてんだ。
「わんの分のプリントも涼音が片付けるんだろ!わんの代わりに」
「なんでやねん!」
そっちかよ!
自分でやれよっ!
「…はぁー…とにかくプリント片付けるよ、木手くんに怒られる前に。もちろん自力でだかんな!」
「えー」
えーじゃねえよ。
すべてうちに任せる気かバッカ野郎。
「ほらもう席座れ甲斐くん!シッダウン!」
「…分かったさー」
「笑えることに国語と理科と英語はうちが終わらせてしまいました。あとは数学と社会、分担してやろうじゃないか」
おんなじプリント渡されたから、1人が解き終わったら写せるという利点がある。
うちばっかりが解いてるのも如何なもんかと思うけど!
「…にりー(面倒くさい)なぁ…」
にりー…。
前も聞いた気がするが意味は知らない気がする。
でも甲斐くんの雰囲気からしてやる気がないのは丸分かりだけどな。
「うちは既に3教科やってるんですがね。1教科くらいやれよなぁ心狭いなぁ!」
「あー分かった分かった!やるからそうわじる(怒る)なよなぁ」
「分かればよろしい」
不満げだけど、ちゃんとシャープを持つ甲斐くん。
どっかの金髪より何倍も素直な子だと思う。
「じゃあ選ばしてあげよう。数学と社会どっちが良い?」
うちは両方嫌いだから綺麗に残しておいたんだけどね。
「数学は勘弁さー」
「ふーん。甲斐くん数学苦手か」
「まあな」
「へー。じゃあ甲斐くん数学な」
「なんでだよ!?」
「苦手なものは克服するべきだもんな!ほら頑張れ。うちは応援しているぞっ☆」
「しんけんか(マジか)…」
うちはいつでも真剣です。
「おー、真面目にやってるみたいやっし」
「うん?あれ。平古場くん?」
あれからどれくらい経ったか。
甲斐くんと無駄話しながらプリント解いてたら、教室に平古場くんが来た。
「おー…凛…」
「…ぬーがあったんだばぁ?裕次郎、やけにやつれてんな…」
「いや別に。強制的に苦手な数学押し付けただけさ」
「押し付けた…。やー、鬼だな」
「鬼とは失礼な」
社会も合わせ4教科もプリントをやっている鬼がどこにいるか。
むしろ神と呼んでいただきたい。
「それより平古場くんは何しに来たの?今まだ部活中じゃないの?」
「あー…永四郎に様子見て来いってあびられたんどー」
「うげっ、まじか!木手くん怒ってた!?」
「カンカンだな」
「「ゲッ!!」」
なんということだ!
「ほらみろ甲斐くんがチンタラしてるからぁ!」
「わん真面目にしてたさぁ!涼音が無駄話してたからやっしー!」
「なんだとこの野郎!」
出だし遊んでた甲斐くんがどう考えても悪いだろうが!
とんだホラ吹き少年だなー!
「甲斐くんが黒板に変な絵ぇ描いたりしてたんが悪いに決まってるじゃんよ!つーかあんなんどう考えてもうちの顔じゃねーしな!」
「そっくりやっさー!あぬ(あの)人を馬鹿にしたようなちら(顔)なんて涼音そのままだっただろ!」
お前はどんなふうに人のこと見てんだよ。
「…やったー、かしましいさぁ。さっさと終わらせて部活に行けば良いだろー」
「え?」
なんか平古場くんの言葉にすっげートゲがあるんですけど。
「な、なんでもない!」
なんだ。
慌てっぷりが尋常じゃないぞ。
「とっ、とにかくさっさと終わらせて部活行くさぁ!裕次郎!早く解け!」
「えー…あ。凛、来たんなら代わりに解いてくんねー?」
「はぁ!?」
「ばかやろう甲斐くん!ずるいぞ平古場くんうちの分もやれ!」
「なんでだよ!」
甲斐くんだけ抜け駆けは許さんからな!
「どーせ後数問だし、残りは凛に任せてわったーは部活行くさー!」
「お、良いねーそうしようそうしよう!」
「良くねーらん!何で関係ないわんに丸投げするんばぁ!?自分でやれ!!」
「えー、ここに居合わせた平古場くんが悪いんだよ!だからさあ、気にせずにうちの分もどうぞ!」
「気にせずに、って意味が分かんねーらん!わん別に補習する必要ねーし!」
「うあー聞いたか甲斐くん!平古場くんの『自分はお前たちとは頭の作りが違うんですよー』発言!!」
「自分は補習しなくていいからってその言い方はないさー!」
「ちょ、なんでやったーあんしー(そんなに)息が合ってんだよ!?」
負け組同士、同じだと感じたんです。
あんま嬉しくは無いけどな。
「というわけで平古場くん、まずは社会ね!歴史地理公民全部残ってるから!」
「だからやらねーっつーの!」
「ぬーよ、涼音も全然終わらせてないじゃん!」
「いや、「も」ってなんだよ甲斐くん。アンタもやってないのかプリント!」
「……」
無言か!!
無言は肯定だぞコノヤロウ!
「やれって言ったのに!おめー1教科も解かないつもりか!」
「…仕方ないだろー、分からないんやっさー…」
う。
ふ、不貞腐れた顔が可愛いとか思ってないんだからねっ!
…て、ツンデレってる場合か。
「だーもーっ!このおバ甲斐くんめっ!平古場くん、風紀委員ならもっと生徒の教育したらどうなんだよ!」
「そこまで面倒見きれるか!」
「じゃー凛、代わりにプリント…」
「たーがやるかぁ!!」
「うるさいよ」
「「「!!!!」」」
な、なんかキタ!!!!
「き、木手くん…」
「永四郎…」
「木手…」
教室のドアんところに、不機嫌モードな木手くんが立っていた。
ひぃぃ、不機嫌なだけにいつも以上にオーラが怖い!
「神矢クンと甲斐クンは補習中じゃないんですか」
「ちゃ、ちゃんとやってたよ…」
最初は。
「それに平古場クン。いきなり居なくなったと思ったらどうしてこんなところに居るんですか」
「あ、いや…」
「え?」
「凛、木手にあびられて来たんじゃないのか?」
「何を言っているんですか。勝手に居なくなったんですよ。大方神矢クンたちが気になっていたんでしょう」
「ぶっ!?な、え、えーしろー!?」
気になった?
「…え、別に平古場くんに心配されんくても、うちら補習くらい出来るしね!?確かに集中は出来てなかったけどさ。心配性だな平古場くんは!お母さんか!第2のオカンか!」
「…」
「…」
「…神矢クン、君は…」
「え?」
平古場くんと木手くんにすんげー呆れられた顔をされた。
平古場くんなんか顔に怒りが交えてましたが。
…うち何かした?
「…神矢…」
「あ?」
バッキィ
「おごっ!?」
平古場くんに急に殴られた!
なんでだよ!!
そのまま平古場くん教室出てっちゃうし。
なんだよもー!プリント解けよなっ!
「…今のは神矢クンの自業自得ですからね」
「木手くんまで…!」
「ま、ドンマイ」
甲斐くんに慰められた。
その軽い口調が異様にムカつく。
「勝手に部活を抜け出した平古場クンには後でゴーヤですね。…ああ、それと」
教室を出ようとした木手くんが振り向いた。
「そのプリント。間違いだらけですよ」
「「マジで!?」」
「すべて直してさっさと部活に来てくださいよ」
それだけ言って、木手くんは教室から出てった。
「…」
「……」
「…急ごうか」
「…だな」
木手くんの登場により、さっきとは一変、うちらは真剣にプリントに取り組んだ。
が、残された時間30分。
残っているプリント、10枚(プラス間違い直し分15枚)。
結局部活に出られずに木手くんに怒られたのは言うまでもない。
「あ、あの昼ご飯の件は…」
「決まっているでしょう。1週間ゴーヤづくしDXです」
人生終わった気がしました。
つづく
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