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一緒に帰ってみるのも経験なんです


「結局、部活中にわんの技見せられなかったしなー」
「あぁ…」
「木手には怒られるし」
「うん…」
「踏んだり蹴ったりさー」
「はは…」
「…涼音、わんぬ話聞いてるんばぁ?」
「き、聞いてる聞いてる」
「なら良いさぁ」

微妙な顔でまた歩き出す甲斐くん。
うちは良くなんかない。
なんで当たり前の如く一緒に帰ってんだ?



12 一緒に帰ってみるのも経験なんです



時間はちょっと遡って、ついさっき。
初めての部活が終わって着替えてさっさと帰ろうとしてた時、いきなり甲斐くんに呼び止められた。

「涼音―!」
「うん?なに甲斐くん」
「一緒に帰ろーぜ!」
「え?甲斐くん、帰る方向一緒だっけ?」
さあ?

さあ、ってあんた。

「別に良いだろ?いろいろ寄り道したいから方向とか関係ないんどー」
「寄り道?」
「裕次郎の寄り道は長いからなぁ。神矢、覚悟した方が良いぜー」
「平古場くん…いや、覚悟って」

覚悟しなきゃなんないくらいの長さってどんくらいなんだよ。

「それだけしたいくとぅ(事)があるってことさぁ!」
「へいへい」

力説する甲斐くんに、話を受け流すように平古場くんは返した。

「えー?うち早く家に帰りたいんだけど」
「あらん!」
「あらん…違う?って何が」
「今は駄目って意味さー」

琉球方言は難しい。

「でもなんで?なんでうちとなの?」
「え?あー…なんとなく?

なんとなくて。
理由になってないぞ。





で、結局訳も分からないまま甲斐くんと一緒に帰るハメになりました。
本当にがっつり寄り道をするみたいで、家とは真逆の方向にフラフラとやってきてしまった。
授業でも部活でもあんだけ疲れたのに帰らせてもらえない。つらみ。

「かーいーくーんー」
「ぬーやが?」
「帰宅しましょーよ」
「無理」

無理って。
てか、平古場くんも知念くんも慧くんも木手くんも用事があるとかで来てない。
なんか甲斐くんと2人だけだし。
なにこの空間?
このフリーダムを制限できるような力がうちにあるとは思えないんだけど!
いや木手くんが居ても気まずくなりそーだけどね!

「うち金ないんですけどぉ」
「ちゅー(今日)はあんしー(そんなに)金かかるとこじゃないし、大丈夫さぁ」
「いや、だからうちマジで無一文だから」
「ツケにしといてやるから気にすんなって!」

奢るという広い心は持ち合わせてないのね。

「お。ここさぁ」

しばらく歩いたら、ちょっとしたアーケード街に出た。
そこの一つのお店の前で甲斐くんが立ち止まる。

「ここ…アクセサリーショップ?」
「そんな固いモンでもないけどなー」

確かに見た目は都会の堅っ苦しい感じじゃなくて、中高生でも気軽に入れる雰囲気だ。

「いきが(男)でも気軽に入れるとこみたいで、頼めばオリジナルのアクセサリー作ってくれるらしいぜー?前から来てみたかったんだばぁよ」
「ほー、そりゃあいいじゃん。甲斐くん、そういうの好きなの?」

そういやいっつも首から下げてるなぁ。
シルバーリングかな。
どーでも良いけど。

「おう」
「指じゃないんだね。なんでわざわざ首から?」
「テニスしてる時、指輪なんかしてたら邪魔やっし」
「あー…ナルホド」

首から下げてても邪魔だと思うし、それ以前に甲斐くんのその髪の毛が邪魔だと思うがな。
本人が気にしてないんならそれでもいいけど。

「んじゃ、入るんどー」
「おぉ…」
「うり、涼音も!」
「わ、分かったって。分かったからあたたたたた!引っ張んなって!」

どーせ入っても買えないし奢ってもらえないし、見てたら欲しくなるかも知れないからあんまり気が進まないのだけど、甲斐くんに無理やり引っ張られて店に入る。

「…おお…」

店に一歩踏み入れたらつい感嘆の声が出た。
ピアスだとかリングだとか沢山アクセ系が並んでるんだけど、ごちゃごちゃしてるわけでもなくキレイに陳列されてる。
なかなかいい雰囲気ではないか。

「へえ、結構良い店やっしー」
「てか、甲斐くん何しに来たの?この店に」
「ん、最初にあびただろ?ここオリジナルでアクセサリー作ってもらえるって」
「じゃあ作りに来たってこと?」
「そーゆーこと」

なんか甲斐くん嬉しそうだ。
普段騒いでるときくらい楽しそう。
まあいっつもこういう呑気な顔してるか。

「どうせなら涼音も何か作ろうぜ?」
「え?うちも?」
「おー」
「いやいや、だからうちは金がないと言っただろう」
「後で返してくれれば良いやっさー」

やっぱり奢ってくれるという広い懐は無いようだ。

「…何作るの?」
「まだ決めてねーらん。んー…」

店員さんに出して貰ったカタログを見ながら甲斐くんが唸ってる。

「テニスするに指輪は邪魔なんだよね?ネックレスは着けてるし。ブレスも邪魔じゃない?ミサンガならともかく」
「そーだよなぁ…」
「まぁ作るだけ作るなら良いかもだけど」
「やてぃん、どうせならずっと着けてたいよなー」
「それはそうかもね。…アレ、ここアクセだけじゃなくてキーホルダーも作れるじゃん。鞄とかに付けても良さそうだし、これは?」
「お。そりゃ良いやっし!んじゃ、涼音も一緒に作るんどー!」
「だ、だからうちは金ないから」
「わんが貸してやるさぁ!」

後で返さなきゃダメなんだろう。
でもうちが何回言っても甲斐くんには引き下がる気がないみたいだった。
聞く様子は一切ない。
このフリーダムが!

「わ、分かったよ。作る作る、作りますから」
「じゅんにか!?」

じゅんにってなんだ。
前も聞いたことある気がするけど。
まあいいや、どうでも。
うちも甲斐くんと一緒にカタログを覗き込む。

「へー。名前とかイニシャルとか入れれるんだ」

こういうの、恋人同士で作るべきなんだろうね…。
なんでうちはこんなフリーダムな帽子と一緒に作ってるんだろう。
おかしいな。

「甲斐くんはどうすんの?イニシャル?」

イニシャルだったら甲斐くんってKYなんだよな。
確か名前が裕次郎だったよね?
KYって名は体を表すってこういうことなんだね!

「イニシャルかぁ…涼音はどうするんばぁ?」
「うち?まぁ…イニシャルでいいんじゃない?」
「んー…なんかつまんねーらん」
「つまんないとかうちに言われてもそれはどうしようも」
「あ、ならおんなじ文字入れよーぜ!」
「は?」

まさかの発言。

「嫌なんばぁ?」
「え、嫌っていうか…いや、いいけど」

知り合って間もないのにお揃いなキーホルダーとか付けちゃうもんかね。
前に1回会ってはいるけど実質ちゃんと話したのは今日が初めてなんだよ。
フリーダムな上にフレンドリーだな、このわさわさ頭。

「なら決まりさー!ぬー(何)入れる?2人の名前入れるってのも」
勘弁してください。

カップルか!!



あれから甲斐くんの阿呆な提案を否定しながら、1時間近くかかってようやくキーホルダーが完成した。
超達筆でカッコいい文字で「比嘉」と「Tennis Club」という文字を入れて貰った。
うちにとって両方とも今日から関わり始めたものだから思い入れなんて一切ないんだけどね!

「結構カッコ良く出来たな!」
「んだね」

カップルって概念を根性で取り払えば、少しは嬉しいかもしれない。
これは少しは仲がいいって証拠…なのかね。
うちの鞄と甲斐くんの鞄で光るキーホルダーを見てちょっと嬉しくなったのは、たぶんそんな気分がしたからかな。


「あ、コレ作った金はあちゃー(明日)までに返せよー?わん金欠なんやっし」
だったら作ろうとか言うなよ



つづく



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