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気まずい空気を無くすんです


「あーめんどくせー」

じゃっぼじゃっぼ

「めんどくせー」

じゃぼじゃぼじゃぼじゃぼ

「あー」

じゃこじゃこじゃこじゃこじゃこじゃこ

ドリンク作り中。



11 気まずい空気を無くすんです



タオルのことでオカンに散々怒られ説教されたあと、今度はドリンク作りを指示された。
タオルで失敗したんだから、もう次の仕事とか押し付けなきゃいいと思うんだけどね!?
正確に言えばタオルの失敗はうちのせいじゃないんですけど。

「あー」

じゃっばじゃっばじゃっばじゃっば

その間も、無心になってドリンクを作る。
みんな真剣にテニスしてるっぽいからしーんと部室は静か。
お、そういえば久しぶりに1人になれた。
安心と共に、ふつふつと苛立ちが込み上げてくるんだが。
平古場くんと甲斐くんもそうだけど、特にオカン。

「ったく…オカンめ、うちに対する扱い酷いよなーくそー」

タオルぶちまけたからって、外で正座って。
そこで説教って。
何様だよあの紅芋が!

「基本上から目線なんだよねもう!偉そうに!コロネみたいな髪型してるくせに。ガリバートンネルみたいな髪型してるくせに!!
それは誰のことですかね
うぎゃっはぁ!!

振り返ればオカンがいた!
音もなく現れんでほしい!!

「うるさいよ。奇声を上げないでくれませんかね、貴女の声は頭に響くんですよ」
「ごごごごごごごめんなさい」

腕組みをして眉根にこれでもか!ってくらいシワを寄せたオカンが立っていた。
やっべーやっべー、居ないとばかり思ってたからガンガン悪口言ってたよ!

「と、というかなんでここに来たの?れ、練習は?」
「貴女がサボっていないか確かめるために来たんですよ。ドリンクは作り終わったんですか?」
「あ、うん。取り敢えず…」
「そうですか。ではコートに持って行きますか」
「う、うん」

そう言うなりオカンはさっさと部室出て行った。
悪口言ってたことを追求されなかったのは良かったけど運ぶの手伝ってはくれないのね…。
なんとなく分かってたけどね。





それからうちはヒィヒィ言いながらドリンクを運んだ。
ハンパなく重かった。
オカンこのやろう。
お前手ぶらなんだから少しは手伝えってんだこのやろう!

「ねえ…はあはあ、これ、はあはあ、どこに置けば、はあはあ、いーの?」
「それくらい考えて動いて考えなさいよ。ベンチの横にでも置いておいてください」

こんちくしょう。
嫌味を込めてわざと分かりやすいように息切れしてやったのに気付きゃしねえ。
いや、たぶん気付いてはいるけど口にしないだけだなこの人の事だから。
余計悪質だ!

「おっ…こらっしょっ…はー」

あー腰痛ぇ。

「ははっ、涼音ババ臭いさー」

重いドリンク運びから解放されて腰を鳴らしていると、甲斐くんが笑ってきやがる。

「う。…うるさいなぁ甲斐くん」

いきなり来ていきなりムカつくことを言わないでほしい。

「お、ドリンクか」
「ドリンクですよ。オカンに命令されて作ってたんですよ。それはもうジャバジャバ振りまくってね」
「やーも大変だなぁ。…つーか何で木手のことオカンって呼ぶんだばぁ?」
「…え?」

木手?

「オカン…え、彼、木手くんっていうんだっけ」

ちょくちょく耳にしてた気はするけど、そうだったのか。
意識してなかったから分からなかった。

「…知らなかったのかよ」
「下の名前がえーしろー?だってことはチラッと聞いたけど」

ま、とりあえず木手くんね、よし覚えた。
いつまでもオカン呼びじゃいつボロが出るか分からないもんね。
いつ本人を目の前にして口を滑らせるかわかんないし。

「とにかく助かった。ありがとう甲斐くん」
「礼言われるようなことはしてねーけどな」

確かに。

「あ、とりあえずドリンクいる?うちが命令されて作らされたドリンク」
「おー。じゃ、ありがたく貰うぜー」
「どうせなら他の人たちにも配りたいけど…みんなはまだ練習中?」
「まーな。わんは隙を見て抜け出して来たさー」

練習しろよ。
まあ他の人は休憩に入ったら渡せばいいか。
というかセルフサービスで自分で取りに来ればいいと思うんだけどな。





「…げっ、甲斐くんたちみんな武術経験者なの!?」

みんなが休憩に入るまでの間に甲斐くんにいろいろ教えて貰ってた。
というか甲斐くんは練習に戻らなくていいのだろうか。

「まーな。沖縄武術さぁ。1週間の練習メニューに古武術も組み込まれてるんだばぁよ」
「こ、古武術……」

なにそれ超こえぇ。
今まで口悪く対応してたけど、もう止めた方が良いのかもしれない。
いつマジ切れされてぼっこぼこのギッタギタにされるか分かったもんじゃない。

「あ、あの……甲斐くん」
「ぬーやが?」
今まですいませんでした
「は?」

甲斐くん今でこそとぼけた顔してるけど、いつはらわた煮えくり返らせて殴りかかって来るか分からない。
そしたらうちなんて一般ピーポー、数秒でミンチですよミンチ。
リンチかけられてミンチになっちゃいますよ。
それだけは回避したい。

「良く分かんねーけど…テニスする中でなかなか便利だからな、武術ってのも」
「へー、そうなんだ」
「ああ。やーはテニスしねーのか?」
「しない…なあ。したことない」
「ならあんまり分かんねーと思うけどよ、なかなか便利ばぁよ?」
「そうなんだ…」

実際にしたことがある人じゃないと分からないということか。
そりゃあうちに理解できるはずがないな。
する気もないが。

「裕次郎!次、やーが永四郎と試合だってよー」
「うっ…マジかよ」

無駄話をしてると、平古場くんが甲斐くんを呼びに来た。

「木手くんとかぁ。…可哀想に」

心底そう思う。

「甲斐くん、死なない程度に頑張ってね」
「…おー…死なねーように頑張る」

頑張らないと死ぬんだ。

「……」
「あ、じゃあ平古場くん休憩?」
「……まあな」
「ならはい。ドリンクどーぞ」
「…おう」

それだけ言って受け取ろうとしやがるから、さっと手を引っ込める。

「ありがとうは?」
「……にふぇーど」

そのにふぇーなんとかってありがとうって意味なんだ。
学んだ。

「はい良くできました」

頷いてドリンクを渡す。
最低限の礼儀くらい弁えてないとね、駄目だからね!

「…なんか永四郎みたいやし…」

それはまた嬉しくない。
…というかさっきのこと気にしてるのか、平古場くんはうちから1歩間を空けてずっと黙ってる。
なんだ、この静かな空間。
ちくしょう。気まずい。

「…ねえ、平古場くん」
「…ぬーがよ」
「平古場くんて…そうだな……なんかテニスで技とかあるの?」
「はぁ?何だよいきなり」
「いやなんとなく。うちテニス全然知らないし」

気まずい空気をぶち破るために聞いてみました。
ぶっちゃけこの雰囲気無くなるんなら天気の話でもエルニーニョ現象の事でもなんでも良かったし。
てかエルニーニョってなんだ。

「…あー」

すると平古場くんは難しい顔をして宙を見た。
なんだその反応。

「あ、ごめん無いってこと?ない人にあるかどうか聞くのは愚問だったねごめんごめん」
「いやあるっての。…飯匙倩って技さぁ」
「ハブ?」

ハブって…えーと、ヘビだっけ?

「おう」
「え、どんな技?…あぁ、聞いたらダメなもん?ならいいや」
「別に構わねーらん。頭悪ぃやーが理解するには少し難しい技だぜー」
「おい」

勝手にバカ扱いしてほしくない。

「ま、簡単に言えばボールに複雑な回転を与えて、蛇のような軌道を描かせるんだよ」
「…だからハブ?」
「ああ」
「…んなこと出来るんだ」
「出来るから技なんやっし」
「そりゃそうだろうけど…」

蛇のような軌道って。
蛇って。

「……」
「…信じてねーだろ、やー」
うん
テメェ!

だって信じれねぇし!!
なに、蛇のような軌道って!
たかだかラケットで打つだけでそんなこと出来る訳ないじゃん!

「ちっ、だったら見とけー。あとでコート入ったら見せてやるさー。…驚いて腰抜かしても知らねーからな!」
「よっしゃじゃあ見てやるし!打てるもんなら打ってみろよー。驚いたらジュース奢ってやんよ!」
「言ったな?約束やっし!」
「おう望むところだ!」

とりあえず、平古場くんのテンションは戻った気がするから良い気がする。
でも余計な口出しするとまた殴られる気がしたから黙っておこう。
甲斐くんだけじゃなく、全員が武術経験者なんだよね…。
平古場くんなんてチャラチャラしてんのにさ。
これでも一応武術出来るとか。
あー恐ろしや。

「うり、神矢―!コート空いたんどー!」
「え!?あ、あぁはいはい!」

平古場くんがいつの間にかコートの方に移動して声を張り上げてきた。
行動早ぇな。
とりあえず、平古場くんのハブって技とやらを見るからコートの近くに来た。
周りを見ればみんな練習に励んでる。
えらいなぁ。うちにはとてもできない。

「何してるんばぁ?涼音」
「え?うわっ、また甲斐くんか」

試合は終わったのだろうか。
取り敢えず死んではないようだ。

「またってぬーがよ。地味に落ち込むんだけど」
「あ、ごめんごめん」

よく現れるなぁと思って。
まあオカンが来るより何倍も良いけどさ!

「つーか、こんなコートの近くに来たら危ないんどー。いつボールが飛んでくるか分かんねーんだからよ」
「それもそうだよね…」

少年漫画のヒーローみたく「ハアッ!!」って気合いのオーラを出せたらボールくらい跳ね返せるのに。
残念ながらうちには出来ないからなぁ。

「でも平古場くんのハブって技見るから。近くの方が良いかなーってさ」
「凛の?」
「うん」

ジュースを奢るか奢らないかの大勝負なのさ。
そしてうちがぶん殴られるか殴られないかの勝負でもある。

「ふーん…」
「…なに?」

甲斐くんがなんとも読み取れない顔をする。
「ふーん」て、なんなんだその返事。

「別に?人の技見るって面白いんばぁ?」
「ん?まぁね。うちって転校して来たばっかな上にテニスもほとんど知らないから」

目に映るものすべてが新鮮と言えば新鮮だよね。

「そーか…なら、わんの技も後で見せてやるさー!」
「え?甲斐くんも…技あるの?」
「ああ。海賊の角笛って言う技だぜー」
「バイキング…」

そりゃ大層な名前で。

「へー…。んじゃあ楽しみにしてる」
「ん」

嬉しそうに甲斐くんが笑ったけど、何が楽しいんだろうか。
なるほど、自慢したいのか。

「神矢―!ちゃんと見てるんばぁ!?」

再び平古場くんの声が飛んでくる。

「あーごめんごめん。素で忘れてた」
「ふらー!あと裕次郎!やーはまだ練習あんだろ!」
「へいへい」

またコイツ抜けて来たのか。
そしてまたふらー呼ばわりかよ。
もうぶっちゃけ慣れた。

「んじゃ涼音。ボールには気を付けるんどー」
「おーう。ありがとね」

甲斐くん、騒いでなくてうちに被害をなさなきゃいい子なんだろうな…。
騒いでるし被害をなすから悪い子なんだよね。
困ったもんだ。

「はーい、いいよー平古場くん。打っちゃってー驚かないからなー!」

気を取り直して、平古場くんのハブとやらを見ようと思う。
高がテニスのサーブ、そんな蛇みたいな軌道なんか出来る訳ないしね。
むしろ平古場くんなんかが打てるわけないしね!

「今なんかムカつくことあびただろ、やー!」
「いっ、言ってないし!」

思っただけだし!
距離があるのに気付いた平古場くんはある意味すごいと思う。
すごいというかキモイな。
何故分かったんだ。

打つまでグタグタしてたが、ようやく平古場くんが構えた。
ああしてるとなかなかカッコいい。
馬子にも衣装?
あれ、なんか違う。

「飯匙倩!」

そう平古場くんが言うと共に、ボールが放たれる。
ぶわぁっ、という風を切る音が聞こえてボールは相手コートに入った。
その間、冗談じゃなくボールは複雑な軌道を描いていた。

「うっ…わ」

それを見て、つい声が出た。
技の名前を声に出すと共に打つ人ってほんとにいるんだ。
マンガの中の世界だと思ってたよ。
それにもビックリだけど…ボールってあんなに変わった軌道描けるもんなんだね。
すげぇ。
「蛇みたいな軌道を描ける」から飯匙倩って名前って理由も納得できるわ。
でも信じられないぞあの軌道。
きもちわるっ!
そしてふと視線を移すと、ドヤ顔の平古場くん。
むかつく。

「どうよ、すげぇだろ?」

そのドヤ顔のまま、平古場くんがこっちに来た。
殴りたい、その顔。

「…うん、確かに。とりあえず気持ち悪かった
「はっ!?き、気持ち悪いってな!それ褒めてんのか!?」
「うちにとっては褒め言葉なんだけどね」

テニスの技とは思えなかったからなぁ。
気持ち悪いほど凄かったというか…まあ、そんな感じで。

「…ま、とにかくわんの勝ちさぁ」
「は?」
「さっきした約束さー。驚いたらジュース奢るってあびたやっし」
「…驚いたとは……言っては、ないし?」
「はあ!?ぬーあびてんばぁよ!!さっき驚いてただろ!」

チッ目敏い。
確かにすげぇとは思ってしまった。
それ以上にきもちわるっと思ったけど。

「…仕方ない。ジュースは奢ってやんよ!」
「おっ。分かってんじゃん」
「言ったことは守ってやるよ!うち超いい子だからね!」
「自分で言うなよ。ま、楽しみにしてるさー」

よし、木手くんに言ってゴーヤすり潰してもらったゴーヤジュースでも作ってもらおう。
何を奢るかは言ってないもんね!
覚悟しとけよ平古場め。

…その後に次は自分が技を見せるとかで甲斐くんがまた乱入してきた。
それはいいんだけど。
眼鏡を光らせた木手くんが「いつから部活が持ち技の発表会になったのでしょうかね」とせっかくうちの作ったドリンクを怒りに任せて蹴っ飛ばし、パーにしてしまった。
平古場くんと甲斐くんはうちをほっぽり出して練習戻るし、またうちだけが説教&やり直し。
ちくしょう。
時間の無駄じゃねえか!



つづく



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