苦手な物も頑張って食べるべきなんです
「げっ、涼音…そんなもん頼んだんばぁ?」
「押し付けられました。甲斐くんにも押し付けてやろうか」
「うえっ、ゴーヤは勘弁」
「甲斐くんもゴーヤ嫌いなの?」
「まぁな…」
「へー…ふーん?」
「…ぬーやが、その『良いこと聞いた』みたいなちら(顔)は」
「べつにー?」
弱点は握っておくべきかなーと思って。
9 苦手な物も頑張って食べるべきなんです
「これで全員揃いましたね」
学食の一角を陣取り、うちらは席に座った。
揃ったけど…なんか慧くんの迫力に圧倒されてるんですけど。
その、横のデカさ?
というか…持ってきた食べ物の多さ、というか。
なんかすっげぇ。
「…ぬーばぁよ、わんのちら(顔)に何か付いてるんばぁ?」
「え?あ、なんでもないよ。…ご飯おいしそうだなーと」
本当に慧くんの持ってきたヤツのが美味しそうだよ。
ゴーヤづくしDXと変えて貰いたい。
「やーにはやらねーらん!!」
「べ、別に欲しいとは言ってないけど…」
欲しくないからむしろ貰って。
「ぷっ、田仁志が食いモンを他人にあげる訳ねーらんからな。むしろわったーは自分の分守ることに必死なんやっし」
食い物争奪戦か。
浅ましいな。
「平古場クン、口を慎みなさいよ。ゴーヤ食わすよ」
「へいへい」
オカンが食わさなくてもうちが食わしてやるのに。
「それでは、いただきましょうか」
「「くわっちーさびら!(いただきます!)」」
「くわ…?」
「…いただきますってことさー」
「あ、ありがとう知念くん」
オカンの挨拶でいただきますもするのかコイツら。
ちょっとした家族だな。
濃い家族だなぁ。
仲間には入りたくないものだ。
「それで、神矢クンはどうですか。転校してきて」
「へ?」
うわ、何事もなかったかのようにオカンもゴーヤづくしDX食ってるよ。
そのうちこいつ全身緑色になるんじゃねぇの?
「今日転校してきたんですよね」
「あ、ウン」
「コイツすげーんだばぁよ。1限目からいきなり廊下に出されてたしな」
「ちょっ、それ言うなよ!」
「…ほう?」
「…!!」
お、オカンの眼鏡が光った!
「ち、違うし!あれは…ちょっとムカついてしまったというか…てかうちだけじゃないし、平古場くんもだかんね!」
「ブッ!そ、それをあびるんなら裕次郎もやっし!」
「はあ!?わ、わんは巻き込まれただけさぁ!」
「だったらうちもだからね!?あれは平古場くんが教科書見せてくれないから!」
「あ、あぬ(あの)時は少し気が立ってたから…」
「そんなん理由に入るかぁ!いきなり廊下立たされて内申下がったら平古場くんのせいだかんな!」
「う、うっせ!」
「うるさいよ」
「「「スイマセン」」」
ぴしゃりと言われ即答で謝る。
オカンの怒りに平古場くんと甲斐くんも標準語で謝っちゃってるじゃん。
「まったく、貴方たちは落ち着きというものがありませんね。食事の時ぐらい落ち着いたらどうですか」
「ご、ごめん…」
「…わっさん」
「…まあそれだけ生活に慣れているなら良いんでしょうが。無駄にはしゃいでみっとも無い真似だけはしないでくださいよ」
「…うん」
お母さんに怒られてる気分になる。
なんでうちがそう言われなきゃいけないんだろう。
オカンはうちのお母さんじゃないのに。
家族でもなんでもないのに。
他人なのに。
無理矢理ならされたマネージャーなのに!
「マネージャーは部の一員でもありますから」
前も思ったけどこいつ人の心読めるんじゃねぇの?
「つーかやー、全然飯食ってねーよな」
「え!?」
くそ、気付きやがったな甲斐くん。
「おや。本当ですね」
「い、いや食べるよ?食べるけど…」
食べたくないよ、こんな緑の昼飯。
もっとカラフルで食欲の出る昼飯食いたいよ。
「一切食べずに逃げようったってそうはいかないさー」
ちくしょうこの金髪。
うちの思ってることずばっと見抜きやがった。
自分がゴーヤ嫌いだからって、うちがやろうとしていることが分かってるじゃないか!
「ほう…食べない気ですか」
「たたたたたたたた食べるよむしろガッツリ食べるよ!」
「じゃあどうぞ」
「うっ…」
た、食べたくない。
食べたことないから味が分からないけど、ゴーヤ嫌いが近くに2人もいるし無駄に推してくるヤツが居るから食べたくなくなる。
隣で他人事のように(実質他人事)サラダっぽいものを食べてる平古場くんをぶん殴りたい心境だ。
正面の席で、うちが食べるかどうか興味津々で見てくる甲斐くんもイラッとくるんだけど。
「…や…やればできるやればできるやればできるやればできるやればできるやればできる」
「涼音、ちらが本気やっし」
全神経を集中させないと勝てない気がする。
何に、っていう質問は受け付けてません。
「やればできるやればできるやれば食える食える食える食える食え」
「神矢クン」
「え?」
ずぼっ!!
「おごっ!?」
なななななななななな何!?
いきなりオカンに口になんか突っ込まれた!
口に入れられたから食べ物だって分かって反射的に呑み込んだけど、なんだこれ…。
「にっげぇぇぇ!!!な、なんだコレええええ!!」
「ゴーヤですけど」
「ごっ…!?」
ゴーヤって、てンめ!!
いきなり人の口に突っ込むヤツがいるかぁ!!
「そそそそれよりにっげ!!ゴーヤってこんなモンなの!?ちょちょちょちょ、どうしたら…ッ!」
どうしようもこうしようも、うちの昼ご飯ぜんぶゴーヤだから口直しがない!
つーかそこ!
腹抱えて笑ってんじゃねーよ甲斐このやろう!!
「…うり、これ飲めー」
知念くんが静かにコップを差し出してくれた。
「お、お茶?」
「さんぴん茶さー」
「さんぴん…?ま、まあいいや、ありがとう知念くん!!」
お茶は緑茶とか烏龍茶くらいしか知らないから種類は良く分からないけど…今はそんなん言ってられない。
がーっと飲み干したら、とりあえずゴーヤの苦みは消えた。
た、助かった…。
本当に知念くんはやっぱり優しいね。
涙が出る。
これが知念くんの優しさのせいかゴーヤの苦みのせいかは分からないけど。
…それに比べて笑いやがった甲斐くんは何なんだ。
バカにしやがってよー!
それにオカン!
いきなりゴーヤ口に突っ込むとか…!
しかも箸でって!
勢いで喉の奥突き刺さるかと思ったわ!
「ゴーヤもなかなか美味しいでしょう?」
今のうちの反応を見てどうそう取れるんだよ。
ゴーヤというかオカンに対してトラウマになりそうだ。
…え、つーかこんな苦いものを定食レベルの量食べろっていうの?
まだ一口も食べてないんですけど。
地獄だ。
オカンがいるから残したくても残せないし!!
「…おや、もうこんな時間ですか。ではそろそろ俺は評定委員があるので失礼します」
「………へっ?」
今なんと?
驚くうちを横目に、オカンは立ち上がった。
「面倒やし、評定委員っつーのも」
「委員会なんて大半にりー(面倒)なもんだろ?」
「そういう平古場クンもちゃんと風紀委員の仕事しなさいよ」
「へいへい」
「それと神矢クンは残りをちゃんと食べておいてくださいよ」
「え?あ…おー」
「では」
「………」
神は我を見捨てていなかった。
…オカンが去った。
いつの間に自分のゴーヤづくしDX食ったんだとか思ったけど、そんなんどうでも良いや。
ひゃっほう!!
「…分かりやすいちら(顔)してんな、やー」
平古場くんに呆れられた顔で言われる。
しかし構うこっちゃない。
ゴーヤから逃げられた喜びは絶大なのです。
「まだ昼の時間ってある?」
「ん?あるぜー」
「よし、仕切り直しだ。このDXは君にあげよう平古場くん」
「いらねーっつの!!」
「ばかやろう!食べ物を無駄にするんじゃないよ!」
「…その言葉、そのままやーに返すさー」
痛い、痛いよ知念くん。
図星過ぎる言葉言わないで。
「と、とにかく…もう一回なんか買ってくる。うちまだゴーヤ一口とさんぴん茶しか飲んでないから」
「なら丁度いいさぁ。さっき田仁志がまた行ったし一緒に行けば良いんどー」
え、慧くんいつの間に。
うちらがゴーヤで騒いでるうちにいつの間に食い終わってんだ。
しかもあんだけ食っといてまだ食う気か。
ま、1人じゃ心細いから丁度いいや。
「んじゃ、行ってくるー」
「ついでにジュースゆたしくなー」
「お、わんにもー」
「黙れ自分で買ってきやがれ」
「…神矢―、てぃー(手)が空いてたらさんぴん茶もゆたしくさー」
「よっしゃ任しとけ知念くん」
「「なんでだよ!!」」
区別です。
お、慧くんいたいた。
…うおっ、まだお盆の上にすごい料理乗ってますけど。
うん、成長期なんだね。
これ以上成長しようがないと思うが。
「やあ慧くん」
「ぬーやっさー、神矢かー」
「すんげー量だね」
「おー。力を付けるためにはお・か・わ・りさぁー!」
力を付ける…
そうか、こいつらテニス部だったか。
忘れてた。
「で、やーはぬー(何)しに来たんばぁ?」
「え?あぁ…ちょっと、ね。…あ、そうだ。慧くんてゴーヤ食える?」
「余裕やっさー」
うそだろ、神がいる。
「じゃ、じゃあうちが頼んだゴーヤづくしDX、食べていいよ!まだ箸全然付けてないしさ」
「じゅんにか!?(本当か!?)」
「う、うん」
じゅんにって何。
「やー、ゴーヤ苦手なんばぁ?」
「え?あー…苦手っていうか。さっきオカンに食わされて食う気なくなったというか」
あれは誰でもトラウマになるよね。
人の心を読めるコロネ野郎に箸を喉に到達する勢いで突っ込まれたら誰しもトラウマになるよね。
「良く分からねーらんしが…にふぇーどな!!(ありがとな!!)嬉しいさぁ!!」
「え、あ、いやいいよいいよ」
うちはただ押し付けただけであって。
そんな純粋に喜ばれたら心が痛むではないか!
「あ、だぁなら(それなら)代わりにコレやるんどー」
「へ?」
慧くんから何か渡された。
オレンジ色のジュース。
「マンゴースムージーやし」
「おぉっふ!まじでか!ありがとー!」
これは大変美味しそうなんですが!
「おう」
お礼を言うと慧くんも良い笑顔で返してくれた。
なに、慧くんも良い子だ…!
そして大量のご飯を手に慧くんは席に戻って行った。
うちはさっき甲斐くんに教えて貰った比嘉ソバを注文し席に戻った。
もちろんジュースは注文せず、さんぴん茶は頼んで帰った。
あんな輩にパシリにされてたまるかってんだ。
知念くんは別だけどね!
「ただいーま。はい、知念くんお茶どーぞ」
「にふぇーど。…うり、金」
「え、いいよそんな。さっきのはうちが飲んじゃったんだからさ。お返しだから気にしないで!」
「そうか?わっさん、有り難く貰うさぁ」
「どーいたしまして!」
「お、ちゃんとジュースも買ってきたんばぁ?気ぃ利くじゃん」
「ばっ、これはうちのです!慧くんに貰ったの誰がてめぇなんぞにやるかぁ!」
「貰った…?」
「ねー」
「おう」
うちが慧くんに同意求めると頷いてくれた。
まあご飯から目を離してはくれなかったけどね。
うちはご飯以下か。
「げ、マジかよ!あの田仁志が人に物やるとか…珍しいこともあるな…」
どうやら珍しいことをされたらしい。
おお、ちょっと嬉しい。
この学校は近寄りがたい人ほど優しかったりするんだな。
オカンを除いて。
「涼音―ジュース貰うんどー」
「なっ、甲斐くんテメッ!なに勝手に飲む!?」
「結局比嘉ソバかよ…面白味っつーもんねーな、やー」
「平古場てめーも普通に人の飯食うなやぁぁ!!」
とりあえずうちとしては、こいつらをなんとか処分していただきたい。
つづく
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