素直に謝るのが大事なんです
次の授業はちゃんと静かに受けた。
追い出されたくなかったからね。
やれば出来る子ってことを証明したかったんだよ!
廊下での交渉のおかげで平古場くんもちゃんと教科書見せてくれたし。
まあ見せてはくれたけど、なんかすげーイライラしてるようで。
終始無言の上、話しかけようもんなら睨まれましたが。
え、ホントに「必要最低限」以外は話しかけちゃいけない系なんですか?
7 素直に謝るのが大事なんです
「…って感じで、なんか機嫌悪いみたいなんだよねあの人」
「ふーん」
その次の授業は移動教室だったから、なぜか甲斐くんと移動中。
平古場くんはさっさと教室出てっちゃったし。
本当はクラスの女の子たちに連れてって貰おうかと思ってたのに、準備してたら甲斐くんに「教室いちゅんぞー(行くぞー)」と引っ張られてしまった。
うちはこいつらから逃げられない運命なのだろうか。
でもまあちょうどいい機会だから聞いてみたのだが、あからさまに他人事な返事。
確かに他人ですけどね。
「ふーん、って呑気な。あの空気すげー重いんだからね!?確かに最低限の会話で良いからって言ったけどさ…あそこまで機嫌悪くしなくても良く無くない?」
「最低限の会話にするってことが理由とはあらんあんに?」
「あらん…違うってこと?」
「おう」
「…なんで?」
「凛のヤツ、最初っから機嫌悪いんだろ?そりゃあやーがバカみたいに話しかけてたらイラついて機嫌悪くなるのは分かるさー」
バカみたいって。
もう少し言い方考えてくれないかな。
「やてぃん話しかけても無いのに機嫌が悪いってことは、イラついてる理由は別なんじゃねぇ?」
「…イラついてる理由が別にあるって…え?女の子の日?」
「あほか」
か、甲斐くんにあほ呼ばわりされた…。
「確実とは言えねーけど、知念と会った時に何かしたんじゃねぇの?」
「知念くんと?」
そこで何で知念くん?
「話聞いてたら、大体その時ぐらいだろ。凛の機嫌が余計に変になったのは」
「変っていうか、まあ。不条理になりましたね」
理由もなしに怒鳴られて殴れて。
ああ腹立たしい。
「あぬひゃーの考えてることは分かんねーけどさ、やーが何か気に障ったことしたんじゃねぇ?」
「気に障ったこと…」
うーん…思い当りがありすぎる。
「甲斐くん…『お前が取り締まられろよな!』とか『平古場くんて性格悪いね!』とかは悪態に入るのでしょうか?」
「入るだろーな」
やっぱり。
「…じゃああの時の言葉が悪かったのかな…。本音だったんだけど」
「だったら尚更やっし。謝った方がゆたさんあんに?(いいんじゃないのか?)」
「謝る…」
うち悪くない!
…って言いたいところだけど、やっぱり調子乗って悪口言ったのはうちなんだろうなぁ…。
「(すげー気が進まないけど)謝ろうか…」
「涼音、本音が聞こえてるんどー」
おっといけね。
移動教室の先でも席順は同じで、平古場くんの隣。
気まずい。
とても気まずい。
「……」
おいおい、頬杖ついてんじゃないよボーイ。
授業してくれてる先生に対する嫌味かこ野郎!
「…ぬー(何)見てるんばぁよ」
「え、ごめん」
また怒られた。
そして反射的に謝ってしまった。くそ。
…じゃなくて。
「…あのさ、平古場くん」
「……ぬーやが」
声を掛けると、ジロリという効果音が相応しいような目つきで見てきた平古場くん。
睨むな睨むな。
「…あの…」
「……」
うわ、こんなに人を睨んでくるヤツに謝りたくない。
確かに悪口言ったのはうちだけど、言わせたのは平古場くんの人間性であって。
こいつも相応にうちに謝るべきだと思うんだけどなぁ!
「えー……」
「………」
「………」
「早く話せ」
「いでっ!!」
うじうじしてたら消しゴムが空を切って飛んできやがった。
消しゴムは文字を消すものであって!
投げつける物ではないだろう!
怒りたいしやり返したいけど、ここでやり返してたら話が進まないからぐっとこらえる。
「くそー…消しゴムの件は後で謝らせるとして。…とにかく…その。さっきはごめんなさい」
「…は?」
うちの言葉に平古場くんは驚く、というより怪訝そうな顔になる。
「は、じゃなくて。…えーと。平古場くん、なんかイライラしてるでしょ」
「…ああ、まぁそうかもな」
やっぱり。
「…うん、だからさ。そのイライラしてる理由がうちの責任かなーと思って。知念くんと話してるとき、なかなか…その、勢いで平古場くんをバカにしてしまったような気がして」
本心からだったんですけどね。
「……あー」
「………あぁ?」
何、その気の抜けた声。
例えるなら『言われてみればそれもそうか』みたいな感じだ。
「確かに今思えば、やーの言い方もムカつくよなぁ」
「は?じゃあ何。平古場くんって何に対してそんなイライラしてんのさ」
「…知るかよ」
「知らんってあんた。答えじゃないよそれ」
「…良くわかんねーんだよ。でもやーの顔見てるとわじわじぃー(イライラ)する」
「そんなにうちのこと嫌いなのかお前」
面と向かって言われるとは何という事だ。
こいつもうちに負けず劣らず悪口言ってきやがるな。
「嫌い…とかじゃねーらん。……たぶん」
えらい自信無さげげなたぶんだな。
「…やてぃん、何でかわじわじぃーして(イライラして)…」
「…」
「ぬーんち(何で)わじわじぃーしてんのかも分かんねぇし、そんなわんにもムカついて…」
「…ふーん…?なんか良く分からんけど…俗に言う『負のスパイラル』ってやつ?」
「は?ぬーよそれ」
「イライラして、そんな自分に余計イライラして。イライラしてると物事上手く進まないからまたイライラする…みたいな。まさに今の平古場くんじゃん」
「…う」
「んで、結局イライラから抜け出せてない状態。だから負のスパイラル。…ってヤツじゃなかったっけ?」
「…そうかもな」
「理由がわからんならどうにもならんけどさ。…それにうちが少しでも関わってんなら、うちと話さなきゃいいかもね」
嫌いまで行ってなくとも、うちの顔見たらイライラするっつったからなコイツ。
酷いもんだぜ。
「…今は別に、わじわじぃーはしないさー」
「は?なんでやねん。じゃあ別に顔見ても気になんないの?」
「おー」
「なんでだ。」
なんか矛盾してるぞ。
「…わんにも分かんねーらん」
本人にも分からないことが他人に理解できる訳ないし。
ま、うちが理解する必要もないだろうけどね。
「ふーん…まあ、イライラしてないならいいや。じゃあこれからガッツリ話してやんよ!」
「でーじ(すげー)迷惑やっさー」
即答か。
人の善意をなんだと思ってるんだこの金髪。
…まあ、あの時は虫の居所が悪かったってことだな。
そうだよな。
そういうことにしておこう。
「…あ、それはそれとして平古場くん」
「ぬーよ」
「消しゴムは投げる物ではありません!」
べしっ
「いって!?ふ、ふらー!ぬーするんばぁよ!?」
「消しゴムを投げました」
「てめ、投げる物じゃねーってあびたばっかりだろー!」
「先に投げたのはそっちだからね。うちはやられたことはやり返すまでなのです」
キリッとした顔で言い切る。
「微妙に格好いいのがムカツクさー…」
「そしてさあ謝りなさい。投げてごめんなさいと言いなさい」
「だったらやーも投げただろーが!」
「先に投げたのは平古場くんだからね!」
「関係ねーし!」
「いや、あるから!土下座をしたら許してやってもいいぞ!」
「ぬーんちそこまでさんといけねーんだよ!!」
「平古場くんの顔見るとイライラするから」
「ぬーやがその言い方!?」
「お前がさっき言った言葉なんですけどね!!まったくいい気なもんだぜ!」
「よーし神矢―平古場―、廊下に出ろ―」
「……」
「……」
学ばない2人。
「良かったなぁ、許して貰えたみたいやし」
廊下に行く途中、甲斐くんに言われる。
「これをどう見たらそう見えるんだよ。お前の目は節穴か。せんせー、甲斐くんも廊下に立ちたいそうでーす」
「なっ、ちょ、涼音!?」
「よーし甲斐。お前いっつも授業で寝てるからな。廊下で頭冷やして来い」
「さあ行こうか甲斐くん!」
「…ひでー」
つづく
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