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  不安の種


『夕食用のきのこを採りに裏山へ行ったきり、乱太郎きり丸しんベヱの3人が戻ってこない』ということを食堂のおばちゃんから聞いたのはついさっき。
また面倒ごとに巻き込まれているんじゃないかという疑念を抱えながら裏山へ向かった。

「まったく、どこへ行ったんだ…」

よく行く裏山だからといって迷子になる筈はない、と言いきれないのが悲しい。


…すると。

「「「ぅうわあぁぁあ〜〜っっ!!!」」」

何処からともなく大きな声が聞こえてくる。

「この声は…!」

聞き覚えのある声にばっと顔を上げると探していた乱太郎きり丸しんベヱが上から落っこちて来た。

んなっ!?

声を上げる間もなく落ちてきた3人の下敷きとなる。

「い、いてて…」
「み、みんな大丈夫〜…?」
「な、なんとか〜…」
「〜っ、大丈夫じゃなぁい!
「「「うわぁ!?」」」

私の上で会話をする3人に声を荒らげる。
その声に驚いて3人が飛び退いた。

「きのこ採りに来ていたんじゃないのか!どうして上から降ってくるんだぁ!…って」

そう怒鳴るも私の顔を見た途端3人とも顔をぐしゃぐしゃにさせた。

「どっ…土井先生ぇぇ〜!!!」
「ぐっ!?」

どん!と凄まじい勢いで懐に飛び込んでくるためつい声が漏れる。
しかし3人はお構い無しにわんわんと声を上げ泣き始める。

「ど、どうしたんだ一体?」

その異様さに驚きつつ聞く。

「おっ、おね、お姉さんが、わたしたちをまま守ってくれてぇ…!」
「かた、刀持ったおじさんたちが沢山いてぇ…!」
「ぼ、ぼく達を逃がすためにお姉さんがぁ…!」
「…何?」

それぞれが同時に口を開いて訴えてくる。
ぼろぼろと涙を流しながらで聞き取れる単語は僅かだが、それだけでも事の重大さが伝わってきた。

「…お前たちは怪我はないか?」

坂を転げ落ちてきたためそこら中に草木や葉がついているものの酷い怪我は無さそうだ。
3人も首を縦に振る。

「…私が見て来る。お前たちは此処を動くなよ!」

それだけ言い残し、坂を駆け上がった。





「!あれか…」

少し開けたところに出ると、俯せに倒れている少女を見付けた。
駆け寄ると何故か全身水浸しで背中に刀の切り傷。
見た限りそこまでの深手ではないようだが…その身なりに自然と表情が強ばる。

「まさか…また、」

天女、か。

この時代には無い見慣れない服装。
しかしここ最近、何度か目にしている格好だ。


「(…初めに「へいせい」の世から人が来たのはどれくらい前だったか…)」


この時代には見た事のないような、それでいて南蛮の物でもない服や持ち物を所持していた彼女たち。
初めは誰もが敵軍の刺客か忍びではないかと疑っていた。
しかし一年生にも劣るような体力やこの時代の知識の無さにその線は次第に薄れ、行く当てがないという彼女たちを無下には出来ず学園に置くことになった。
そして誰が呼び始めたのか、「空から降って来た」と言う彼女たちは「天女」と呼ばれ出した。

…それと時を同じくして、次第に学園内が乱れ始めた。
詳しく言うならば2人目の「天女」が来てから。
彼女は何をすることも無く学園内を闊歩し、上級生に取り入って、常日頃周りに人を侍らせていた。
生徒と仲良くすることは決して悪いことではないが度が過ぎていた。
上級生はことある事に天女様天女様と口にし、委員会は愚か日頃の授業や実習まで影響を及ぼすようになった。
最近では上級生と、下級生、我々教師陣の仲が険悪になりつつある。
全てが天女と呼ばれる少女が悪い、とも言いきれないが…やはり進んで関わりたいと思うものは少ない。

なぜ、こうも見知らぬ少女たちがやって来るのか。
答えが出せない疑問が浮かび、無意識にため息が出る。

ただでさえ今いる「天女様」はとんでもない人物であるというのに新しい天女を連れて行ってもいいものだろうか。

「(…だからと言って乱太郎たちを守り怪我を負った彼女を見捨てる訳には…)」

この少女が何を考えてどうした思惑で3人を助けたのかはわからない。
もしかしたら何か裏で考えた上で、善意を働いたのかもしれない。

…いや、今はそんな考えは必要ない。
とにかく助けなければ。

「よっ…」

倒れていた彼女を、背中を圧迫しないように起こす。
そして顔を見て驚いた。
まだ14、15歳くらいじゃないか。
それなのに刀を持った輩から3人を逃がそうとしたのか。

「(…とにかく、忍術学園へ戻ろう)」

彼女を抱え上げ、周りを警戒しつつ素早く坂を下りる。
まだ誰が潜んでいるか分からない。
…意識の無い彼女をちらりと見る。


…ああ、また不安の種が増えてしまった。


自然とまた口から溜息がこぼれ出た。




つづく