あらやだイケメン!
「…へ…
っくしょおいっ!いっでぇ!」
でかいくしゃみが出た。
それと共に体にピキィ!と痛みが走り、飛び起きる。
「あたた…」
痛みで起きるとか初めてだよ…。
どうやら痛みの元は背中らしい。
…あ、そういえばおっちゃんに背中斬られたんだった。
そりゃあ痛いはずだ。
あれ、でも私、生きてる?
ピリピリと痛む背中を庇いながら当たりを見渡す。
…と。
「「「…っ」」」
「…あ」
飛び起きた私の側で、乱太郎きり丸しんベヱが正座をしていた。
その顔は揃って驚いたように目をまん丸くさせている。
あ、あれ、森の中で私がヒーロー張りに守ってあげたと思ったのに。
というかここはどこだ…?
「…ど、どうもー…?」
かける言葉が見付からずとりあえず笑顔を作って挨拶してみる。
すると3人とも目がうるうるし始めた。
「…おっ」
「…『おっ』?」
お、って何?と思った瞬間。
「「「
お姉さんが起きたぁぁー!!!」」」
「ぐえっふぅ!?〜〜ッ!?」
がばあっと2度目のタックルが腹に入る。
それと共にズキィ!という痛みが背中に走り、声にならない呻きが出る。
ひいい、背中が割れる!
けれど3人は気付かないようで私の腹に引っ付いたままわんわん泣き出した。
「ごめんなさいごめんなさい!わ、わたしたちが巻き込んでしまったばっかりにこんな大怪我させてしまって…っ!」
「お姉さんが庇ってくれなかったら今頃どうなってたか…!」
「お姉さんが死んじゃわなくて良かったですぅう〜!!」
3人ともがわぁわぁ言いながら抱きついてくる。
「お、おおう…ちょ、
痛っ!いててて!」
て、てんやわんやだ!
そんな挙って言わないで、聞き取れない!
というか背中が痛い!痛いです!!
「コラお前たち!彼女が怪我人だっていうこと忘れるんじゃない!」
がらりと扉が開く音が聞こえたと思ったら、それと同時に誰かの声がする。
部屋に入って来たその人は引っ付いていた3人をべりっと私から引っぺがしてくれる。
た、助かった…。
「大丈夫でしたか?」
「あ、ああ…はい、すいませ…ん」
気遣いの言葉をかけてくれた人を見上げ…フリーズする。
すまなさそうに眉を下げている黒い忍び装束のその人。
「(はっ…初恋泥棒の土井先生じゃないですか…!!)」
あらやだイケメン!声までイケメン!と思うと同時に嫌な予感がする。
改めてあたりを見渡すと今更ながらここが室内だと気付く。
そして乱太郎きり丸しんベヱが居て、土井先生までもいて……。
「あ…あの、ここは…?」
「忍術学園の医務室です」
再びがらりと音がしたと思ったら、別の人が部屋に入ってきた。
白い頭巾に十字マーク…忍術学園の校医である新野先生だ。
「に、にんじゅつ…」
新野先生の言葉に絶望を感じた。
うわああああ、まじかぁぁ…。
来るつもりなんて毛頭なかったのに!
なんかもう、死亡フラグが
ギンギーン!に立っちゃいましたね!
「ここは忍者を養成する学校でして。私はここで教師をしています、土井半助と申します」
「私は校医の新野洋一です」
「あ、ご丁寧に…」
普通はここで名乗り返すべきなのだろう。
けれど下手に関わるべきではないし、敢えて名乗らないでおく。
私ってカシコイ。
「傷の具合は如何ですか?」
「えっ…あ、だ、大丈夫…です…」
新野先生がそう仰った。
さっきエンジェルたちに抱きつかれてヒリヒリするけど言わない。
…あれ?今更だけど、私斬られたってのに生きてる。
ちら、と自分の姿を見てみるといつの間にかびしょ濡れTシャツから着物?みたいな格好になっていて布団の中にいた。
着物の下はぐるぐると包帯が巻かれている。
「あ、あの…わ、私はなんでここ、に?」
「私が連れて来たんです。この3人が知らせてくれて、行ってみたら貴女が倒れていたんですよ」
私の言葉に土井先生が答えてくれた。
ま、まさか土井先生が連れてきてくれたのですか!
「あ、あぁ…そう、なんですか…。す、すみません…ありがとうございます…」
「いえ、私はただ運んだだけです。怪我の手当は新野先生がして下さいましたので」
「出血の割に傷口は浅かったですから。それより、」
「
ぃえっくしょい!」
新野先生の言葉を遮って、それはもう女子力のないくしゃみが出る。
それを苦笑して新野先生は話を続ける。
「…全身びしょ濡れでしたので、風邪を引かないよう気を付けてください」
「ず、ずびばせん…」
ずるずると鼻を啜って返事する。
「では、私は所用がありますのでこれで。無理はしないで下さいね」
ぺこりと頭を下げて新野先生は立ち上がった。
ありがとうございますと頭を下げて礼を言うと、新野先生は優しく微笑んでくれた。
白衣の天使やな…!
ぱたん、と扉が閉じた。
「…あの…その、すみませんでした…」
静寂になった部屋で、姿勢を正して土井先生と乱太郎きり丸しんベヱに頭を下げる。
「いえ、先程も言ったように私は何も…」
「いや、その…。私みたいな人間が、この学園に来てしまって…すみません」
「……」
そう言うと土井先生は口を閉ざす。
「…簡単に…その、私みたいな人がここに居ると聞きました。…あの、聞いた上で、できるだけ関わらないようにしようと思ったんですが…私が間抜けなばっかりに手間を取らせてしまって、しかも助けて頂いてここまで運んでいただいて。…すみません」
本当は先生だろうが平成から来た天女様なんざ学園内に入れたくなかっただろうに。
なのに助けてくれたのは、学園の人たちはみんな優しいから。
また学園を荒らす存在になり得る人物を自ら中に運ぶなんてものすごい葛藤があっただろうなぁ。
そう考えるとほんと申し訳ない。
「…いえ、貴女はこの三人を助けて下さいました。自分の身を呈してまで。そんな方を見捨てる訳にはいきません。…本当に、ありがとうございました」
土井先生が頭を下げると共に乱太郎きり丸しんベヱも揃って頭を下げて「ありがとうございます!」と声を合わせた。
なんだお前ら、かわいすぎかい!
「い、いえいえいえ…そんな、私はなんにも…。あの、すみません…直ぐにでも出て行きますので…」
森の中にいただけならまだしも忍術学園内にいたとなると気が休まる気がしない。
ぶっちゃけ毎日毎時間毎秒が九死に一生スペシャル!になりかねない。
今もこの時点でどうせ天井裏に誰か上級生が居るんだろ!
「新しい天女様だ?ふん、今いる天女様の足元にも及ばないクズだろう!見極めてやる!あわよくば殺してやる!」みたいなテンションで見張ってるに違いない。
特に潮江文次郎とか食満留三郎とかな!
こっわ!六年こっわ!かえれかえれ!
よっこら、と立ち上がろうとすると「ダメです!」と声を上げた乱太郎に制される。
「そんな怪我をされてるのに動いたらダメですよ!傷に響いちゃいます!」
「お、おぉう…で、でもここに居たら迷惑になるし…」
「だからって、そんな体で外に出て何かあったら…!」
「…気遣いありがとうね。でもいいって、私は大丈夫だから。…あの、私こそありがとうございました。得体の知れない私を助けてくださって。…いつか、差支えのない程度に御礼はさせて下さい。…あ、今は早く出ていくことが御礼になりますかね?」
暗い雰囲気にしたくないからわざと能天気に笑ってみる。
やっぱり部外者は置いておきたくないだろうしね。
安心してください、すぐ出ていきますよ!…けれど、土井先生は首を横に振った。
「…いえ。新野先生も仰っていたように無理は禁物です。…確かに、あまり長居は……けれど、せめて怪我が治るまでは此処に」
「はっ!?あ、い、いやそれは困る…困る、のはそちらじゃないですか!」
「生徒を守って下さった方を無下には出来ません」
「う…」
まっすぐに私を見据えてくる土井先生。
初恋キラーな土井先生に見られ声も出せなくなる。
その横を見ると乱太郎きり丸しんべヱの3人もじっと私を見ていた。
な、なんだよもう!
みなさんそんな真っ直ぐな瞳で見んといて!
関わりたくないとあれだけ思っていたのに、気迫に負けそうです。
つづく