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  教育テレビなんだから


なんとか3人とも涙が止まったようだ。
生憎私はハンカチも何も持ってかったから涙も鼻水も吹いてあげることが出来なくて申し訳ない限りだった。
まあ服もびしょ濡れだしね、むしろ私がタオル欲しいくらいだったけど。

「…なんかごめんね。怖い思いさせちゃって」

そんなことを言えば3人はぶんぶんと首を横に振ってくれる。

「元はと言えばわたしたちが原因だったのに…!お姉さんを巻き込んでしまって…」

乱太郎がそう言ってくれる。
確かにどっちかと言うと私が巻き込まれた方か…。

「いや、でも私から関わったんだし、逃げようって言ったのも私だし…。それに…なんというか、私のこと怖がってたみたいなのにね。もっと怖がらせちゃって、ごめんね」

謝ると3人とも黙り込んでしまった。

「…違うんです。その…お姉さんが怖かったんじゃなくて…」

そう小さく乱太郎が言うと、きり丸がちらっと私の方を見て続ける。

「…お姉さん、「へいせい」っていう時代から来たんスよね?」
「えっ」

いきなり来た質問にギクッとする。

「そ、そうだ…よ?…え、っと…い、今ここは何時代…平成じゃあないの?」
「はい…あの、室町です」
「お、おお…そ、そうなんだ…」

わざとらしく驚いてみる。
知ってるとか言えない。
この時代を、ましてや忍たまを知っているなんて知られたらそれこそ面倒くさくなるに違いない。
だからバレないように、「ワー初耳ィ!」って感じを醸し出さなきゃ!

「今…わたしたちが学んでる忍じゅ…学園にも「へいせい」って時代から来た女の人が居て…その人のこと、「天女様」って呼んでいるんです」
「て、天女様…かぁ」
「空から急に降って来たからって、いつからか先輩たちがそう呼び始めたんです」
「へ、へえ…」

やっぱ居たんだね天女様。
しかも天女様の話で暗くなるってことは既に学園内を荒らした後らしい。
で、天女様討伐でもしたんだろう。
だから天女様には悪いイメージしか持っていないから自然と私を怖がっちゃったんだろう。

…というかこんなにペラペラと喋っちゃっていいのか?

「…その人が来てから…学園内がどんどんおかしくなってきちゃって…」
「先輩たちが、天女様が来てから人が変わったようになってて…」
「ぼく、あんな先輩たち見たくないよぉ…」
「な、泣くなってしんベヱ…」

そういうきり丸も、そして乱太郎も泣きそうな顔をしてる。

そうか…上級生がカスのパターンか…!
こんなエンジェルを悲しませるとかけしからんな!

私が眉間に皺を寄せていると、乱太郎が慌てて頭を下げた。

「ご、ごめんなさい。こんな話してしまって」
「…いや、いいよ。私こそ…なんかごめんね。私は君たちの学園には関わらないようにするし。…その、今はギクシャクしてても先輩は先輩だから。いつかことが落ち着いたら、今まで通りになるよ」

だから頑張って、なんて他人事に声をかける。
ほんとは上級生をボコし…正して、下級生に笑顔を取り戻して欲しいところだけど。
私が関わったら余計ややこしくなっちゃうだろうし。
それに第一、私も自分の命大事だし!死にたくないし!

「…でも、だったらお姉さんはどうするんです?行く当てなんてないんじゃないですか?」
「あー…うーん…でもまあ、なんとかするよ。君たちは君たちのこと考えてればいいよ?心配してくれてありがとうね」

いい子達だから、例え私が天女様であろうと行く場が無いとなると放っておく事が出来ないんだろう。
基本的に、みんな良い子達だから。

「今は天女様…っていうのは居ないんでしょ?そこに私なんかが君たちと関わっちゃったら、また大変なことになるかもしれないしね」

行ったとしても忍術学園内を荒らすつもりなんかないけれど。
まあでも上級生はボコ…規律を正したい気もするけどな!
だけど部外者が関わったら何の得もない。
忍たまは忍たまで、余所者がいない平和な世界であって欲しいし。

「だから私はどっか寂れた村にでも行って働き口でも見つけて…」
「…天女様、今も居るんです…」

私が楽観的にものを言っていると乱太郎がぽつりと言った。

「って、は?」

な、なんか恐ろしいこと仰らなかった?
天女様、居るの?
現時点で?

「あっ、そっ、そうなんだ…はは、思い込みでてっきりもう居なくなってるもんだと思っちゃってた」

誤魔化すように笑う。

そういうパターンでしたか。
過去に天女様が来て学園を荒らして殺されて、で、居なくなった今も名残りで人間関係可笑しくなってるもんだと思ってた。
でも実際はそうじゃなくて、今現在居座ってる天女様が現在進行形で学園を荒らしているようだ。
あれま、これはなおさら私は関われないじゃないか!
関わったらその天女様に目の敵にされて、天女様お付の上級生どもにサクッと殺されてしまうに違いない。
上級生を正してやるとか思ったけど、プロ忍に近いやつらからしたら私を殺めるなんて赤子の手を捻るくらい簡単なんだろうな。
こっわ。

「(あー…でもそうなると上級生との関係を修復するのは難しいんだろうな)」

でもこればっかりは私にゃどうしようもないし。
…可哀想だけど、私じゃなんの助けにもならないや。
悲しそうな顔をしている3人に、私の中の小さい良心が痛む。



…その時。
がさり、と私たちの周りの草が分けられ視界があけた。

「こんな所にいやがったのか、クソガキども」

目の前には先ほどまいたつもりだったおっちゃん達の中のひとり。

み、見つかったぁぁぁー!!?

「に、逃げてぇぇ!」

私が急かすように3人を立たせ、走り出す。
なんだよもう、撒けたと思ったのにぃぃ!
後ろの方で「こっちだー!」とおっちゃんが仲間を呼ぶ声が聞こえる。
呼ぶな呼ぶな!
てかさっさと諦めろ!

「あ、あぶない!」
「え?ぎぇっ!」

急に乱太郎が声を上げたと思ったら、私の前を走っていた乱太郎、きり丸、しんベヱが急ブレーキをかけて止まった。
止まりきれずにしんベヱにぶつかってしまう。

「ど、どうしたの!?」
「み、道が…」

そう言って青ざめた顔で乱太郎が指さす先は、崖、とまではいかないがかけ降りるのは無理そうな急斜面。
つまり、逃げ場がなくなったのだ。

「う、ウソだろ…!」

きり丸が私の気持ちを代弁してくれるかのように呟く。
それと同じくして、おっちゃんたちが追いついた。
この時代のおっちゃんたちはよう動けますこと!

「へっ、バカめ!当てもなく走るからだ」
「もう逃がさねえぞ、ガキども」

おっちゃんたちは再び刀を構える。
絶体絶命やん…!

「(いや、まだ諦めるわけには…)」

私の後に立つ3人を見てそう思う。
こんなエンジェルたちをこれ以上苦しめるわけにはいかない。
だからって刀を持ってキレ気味なおっちゃんたち相手に敵うかどうか…。
下手したら斬られてあの世行きかもしれないし…。

いや、でも待て。

これは忍たま乱太郎じゃないか!
死ぬーとか、殺されるーとか、NHK教育テレビなんだから起こらないんじゃないか!?
このエンジェルたちもよく高い崖から飛んでも傷なく助かるし!
ましてや主人公がいるんだから、死ぬわけないよ!

そう考えてる間にも、じり、とおっちゃんたちが間合いを詰めてくる。

「…この坂、降りれる?」

小さく3人問う。

「えぇ!?」
「ちょっ…と、坂にしちゃ急すぎません…?」
「…大丈…夫。地面は草っ原だから衝撃はあんまない、はず…それに君たちなら大丈夫だよ」

主人公だからね!とか本人たちに言っても訳が分からないであろう理論はしまっておく。
そう諭すと、決心がついたように3人は頷いた。

「…お…お姉さんがそう言うなら、大丈夫な気がする…!」

しんべヱは小さい両手をぐっと握って言ってくれる。
それを聞いて乱太郎ときり丸も大きく頷いた。

ちょ、嬉しいこと言ってくれるじゃないのしんベヱくん。
やっぱりは組の子は良い子たちだね!

…なんて余所事を考えていたらおっちゃんたちの痺れが切れてしまったようで。

「何こそこそ話してやがる!」
「随分と余裕みたいだな…やっちまえ!」

私が顔をおっちゃんたちの方に顔を向けたと同時。
一人の掛け声と共に、ついにおっちゃんたちが刀を振り上げたまま突っ込んできた。

「っ!」

やっべ!…と思うより先に体が動いた。

乱太郎たちの方を向きさっきと同じようにぎゅっと抱きしめた。
3人が「え」と小さく声を出したと同じくして、背中に一閃。

げっ、斬られた。
…なんて頭の中は割と落ち着いてることに驚く。

うわー、教育テレビでも斬っちゃうんですねー…。
完璧に侮ってました。
私も忍者の三病、「敵を侮る」タイプでしたね…。
あ、私忍者じゃねえか。

でも不思議と痛い、とか感じなかった。

「お…お姉さ…」

3人の顔が強張る。
私は無理に笑顔を作ってみせた。

「大…丈夫だから」

そう言って、3人をどん!と押した。
宙に投げ出された3人は揃って「え?」という顔になる。


「…怪我しないで!」

力を振り絞ってそれだけ伝える。

その直後、身体に力が入らなくなってそのまま崩れ落ちるように倒れ、地面とご対面してしまう。

「(う、うおー…いってぇぇ…)」

ここでようやく背中が痛い、むしろ熱いと感じる。
ドクドクと脈が波打つ音も激しく聞こえる。
次第に暗くなってゆく視界。
遠くでエンジェルたちが「お姉さあぁぁん!」なんて叫ぶ声が聞こえた、気がした。

「ちっ!ガキを逃がしやがったな!」

おっちゃんたちの声も聞こえてきた。

「どうする?追うか?」
「もう止めとけ。…そろそろ戻るぞ」
「…庇うなんて馬鹿な奴だな…こいつはどうする?」
「そのうち死ぬだろ。放っとけ」

どうやら「こいつ」というのは私のことらしい。
それだけ言い残し、おっちゃんたちが遠ざかる足音が聞こえる。

えー、死ぬのかぁ…。
まあどの道死ぬ運命だっただろうし、こうして死ぬのも…格好、いいかなぁ……。

乱太郎、きり丸、しんベヱ…強く生きろよ…!

…なんて思いながら、意識は暗い闇の中へ落ちていった。




つづく