それは大変だ
目の前には、画面越しに眺めていたエンジェルな乱太郎きり丸しんベヱ。
画面越しですら可愛いのに、実際目の前にしたらもっと可愛すぎィ!なんて軽々しい感想が出てくるけれど、それは只の現実逃避だ。
さっきの言い方から察すると3人とも「天女様」を既にご存知のよう。
その反応からするとかなり悪い評判らしい。
つまり、すでにトリップした天女様が生活をしっちゃかめっちゃかにした後なんだろう。
そりゃあ天女様のことも嫌うはずだよね!
…そしてそれを踏まえ、大問題がある。
この3人、私を見て天女様?と仰った。
天女様の行く先は「死」だ。
行程はどうにしろ殺してくる相手は誰にしろ、どう足掻いても天女様は殺されることになる。
怯えた顔をしている3人を前に、再びぐるぐると思考が回る。
こ、こういう時、どうしたら死亡フラグが回避できるんだ…!?
…そうだ、絡まなきゃいいんだ!
忍術学園に行かなきゃいいんだ!
どこかの村ハズレで優しいおじいさんおばあさんに拾われてわが子のように育てられればいいんだ!
そうだ!それだっ!
「て、天女様ってなんのことですか?わ、私はそんな大それたもんじゃないですヨ!むしろ水から出たんだから河童とかの類のが近いかもしれないですよーハハハハ☆」
出任せにテキトーなことを言う。
すると3人は「え、そうなの?」みたいな感じに目をまた丸くさせる。
さっきよりかは怯えた感が抑えられた…気がする。
純粋だなぁ!
この際河童だろうが妖怪だろうが構わんわ!
「ということで私は帰りますね!だから君たちも早くお家にお帰りなさいな!」
じゃあね!とばかりにしゅばっと手を挙げ別れを告げる。
よし、このまま立ち去れば変なお姉さんだったなーだけで済むはず。
そんで町に出りゃあなんとかなる!と思う!
この時代に来て、こうして生で3人を見れただけで感無量です!
この経験は家宝にして残りの人生謳歌して散りますね!
「あっ、そ、そっちは危険です!」
「え?」
歩き出そうとすると同時に乱太郎の声が飛んできた。
反射的に足を止め、危険?と思った時にはもう遅かった。
「ここに居やがったのかガキども!」
「なんだ?一人増えてやがるぞ!」
わらわらわらっと、四方から柄の悪いおっちゃん達が出ていらっしゃいました。
待って待って、みんな刀とか持っていらっしゃるよ?
「えっ…ど、どちらさま?…き、君たちのお知り合い?」
つい後戻りして3人に聞くけど「違いますぅ!」と元気よく否定された。
「おい、そこの奇妙なナリの嬢ちゃん。そっちのガキを寄越しな。そうすりゃ痛い目見ずに済むぞ?」
「じょ…!?」
嬢ちゃん!?
ねーちゃんじゃなくて嬢ちゃんっつったこの人!?
生まれてこの方若く見られたことない私なのに、嬢ちゃんってことは
若く見られたのか!?まじかひゃっほう!
私はまだまだ若い!
肌は下り坂だし走るとすぐに息切れするし若者のテンションについてけないけど、まだまだ若いんだよ私もっ!
「…おい、聞いてるのか?」
「お、お姉さんお姉さん…」
「ハッ!」
きり丸に脇で小突かれ我に返る。
ダメだダメだ、嬢ちゃんとか言われて喜んでしまった。
「す、すいません聞いてます聞いてます」
おっちゃん達が呆れるというか若干引き気味な顔になってるとか見てないし知らない知らない。
「というか、なんでしたっけ?…え、この子達になんか用でもあるんですか?」
「ああ、だからさっさと寄越しな!自分の命が惜しきゃあな!」
「おぅふ…」
有りきたりな脅し文句や!
「き、君たちの何かしたの?めっちゃ怒ってますけれども……」
3人にこそこそと聞いてみる。
「じ、実はわたしたちこの森で迷子になってしまって…」
「日も暮れちゃって、だんだん腹減ってきちゃって…」
「そしたらお魚の焼けた美味しそーな匂いがしてきて、匂いにつられて行ったら川岸に美味しそーなお魚が焼けてたんです!」
「しんベヱ…よだれよだれ」
あれだけ私に対して怯えてた筈なのに3人ともちゃんと答えてくれる。
なんちゅーいい子や。
そして乱太郎に指摘されて慌ててよだれを拭うしんベヱ。
かわいい。
「それで、その魚をしんベヱが勝手に食べちゃって。そーれがあのおじさん達のヤツだったみたいで、すっごい剣幕でキレちゃったんスよね〜」
「えっ、それだけ?」
それだけでキレて追いかけてくるってどんだけ心狭いんだ!
「…お前今、俺達の心が狭いだとかなんだとか思っただろ?」
「
ギックゥ!…キノセイデスヨー、ピューピュー」
「うそつけ!わざとらし過ぎる口笛吹くな!」
「す、スミマセン…」
怒られてつい謝ってしまう。
「…でもお魚を食べちゃっただけでここまで怒られるなんて思わなかったよ、ぼく」
「あ、しんベヱもそう思う?」
「確かに高が魚で大の大人があれだけ怒るっておかしいよなぁ…」
「それはお前らが逃げるドサクサに紛れてあそこら一帯にある罠を全部壊したせいだろおぉ!」
3人が首を傾げているとおっちゃんが怒鳴った。
「え、罠?こんなところに?」
何気なくそう言うとおっちゃん達は何故かギクッとした。
「べっ、別にいいだろ!う、ウサギを捕ろうとしてたんだよ!」
「せっかくあらゆる罠を仕掛けたってーのに…このガキどもが全部壊したんだよ!」
「…そうなの?」
「あー…そういえば…」
「逃げてる最中、バキバキーっとか、ガサガサーって音が聞こえた気がする…」
「あれがそうだったのかも…」
てへっ!とばかりに笑う3人。
エンジェルか!なんだその顔は!
でも結局君たちが悪いんじゃないか!
「その捕った獲物売って金にしようとしてたのに、罠が無くなったとなると俺達に入る金が全部パーなんだよ!」
「そりゃ大変だぁ!」
「きりちゃん、そこに反応しないで…」
うわぁ、きり丸の目が銭の形になった!
リアルで見れるとは幸せだ!
「…という訳だ。そのガキどもにそれなりの復讐してやらないと気が済まねーんだよ!」
「そ、そーですか…」
そりゃ確かにお金がかかってた罠をパーにされたら怒るわなぁ。
いやでも、だからって刀持っておっかけるかね!?
「つー訳だ、ガキども!覚悟しやがれ!」
「「「ひいいぃ!」」」
青ざめて3人は私の後に隠れる。
ちょ、さっきまで怯えてたのに!
なんだこいつら!
かわいいなぁ!!!ありがとうございます!
「ちょっ、ま、待ってください待ってください。た、確かにお金に関わることしちゃったのかもですけど…そ、そんなに怒らなくても…」
「怒らずに済むかぁ!こちとら生活が掛かってるんだ!金が入らなかったら野垂れ死ぬしかないんだよ!」
「
それは大変だ」
「お姉さんん…」
ついおっちゃんたちに同情しつつあると、後ろにいた3人が縋るような目で見てくる。
あ、ごめんねと軽く諌める。
や、やっぱ度が過ぎるよね、おっちゃんたち。
こんなエンジェルたちに刀なんて向けちゃダメだよね!
…でも刀持ってる人を説得できるかどうか…!
私がまごまごしていると、おっちゃんたちがキレ始めた。
「ええい!お前はどっちの味方なんだ!」
どっちって!
私はエンジェルの味方です!「もういい、こいつごとやっちまえ!」
「おう!」
「えっ」
しゃきん、と刀を構えられる。
わあ、ピンチですか?ピンチですね!
「ど、ど、どうしよう〜…」
「どどど、どうしようったって…!」
「し、しんベヱもきり丸もおおおおち落ち着いて…!」
3人が目に見えて慌ててる!
私も焦りたいけどここで焦ったら年上として示しつかないし!
こんなカワイイ子を不安にさせたら可哀想だから!
…ってまあ、天女かもしれないってことで充分不安にさせてるんだけど。
「き、君たち…走れる…?逃げれる…?」
こそっと聞くと3人はびっくりした顔になりつつも揃って頷いてくれる。
さすが良い子たち!
「覚悟しやがれ!」
「!」
1人のおっちゃんが刀を振りかぶってきた!
「に、
逃げろぉー!」
「「「うわああぁぁー!」」」
私の言葉で揃って駆け出す!
「なっ、逃げやがった!」
「くそ、追え!追えぇぇ!」
うしろからおっちゃん達の声が飛んでくる!
な、なんかもう天女様とかどうでもいい!
今すでに生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされております!
し、死にたくないよー!!
つづく