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  馬鹿なのか!


「ふ…あーぁ、ねっむ」

お昼に食堂のおばちゃんの美味しいランチを食べた後という事に加えぽかぽか陽気だったから、現在進行形で眠気に襲われている。
昼寝してやろうかな。

…望愛ちゃんと遭遇してから今までにも増して部屋の外に出たくなくなっていた。
部屋から出たらどこからともなく苦無が飛んできて眉間にぶっ刺さるかもしれないしねっ!
やだ地獄ー!

「(あーくわばらくわばら。やっぱ寝よう)」

そう思い布団を敷こうと手を伸ばした、時。

「すみません、和花さんいらっしゃいますか?」

障子の外から声が飛んでした。
声を聞く限り、外に居るのはしんベヱのようだ。

「…ねえ、やっぱりぼく…」
「ちょ、ちょっと逃げないで喜三太っ!」
「大丈夫だよ……たぶん」
「(この声は…喜三太と怪士丸…?)」

えっ、なんで来てるの?
しんベヱが私の名前呼んでいるから私に用なんだろうけど!
いやだからって会ったらまた面倒な事に成りかねない…!

私はもう忍術学園から出ていくまで最低限以外とは絡まないと決めたんだから!
いくらエンジェルが外にいるからって、ここは心を鬼にして…!

「うう…やっぱりぼく怒られちゃうのかなあ…?やだよぉ」
「な、泣かないで喜三太っ」

えっ泣いてるの!?
なにがあったか分からんけども、泣いてるなんて相当なことじゃないか。
どうしよう出てくべき?
でもこれ以上忍たまと関わったら…!

「…やっぱり居らっしゃらないみたい…」
「……ぼくたちだけでもう一回探してみよう」
「うう…」
「ほら喜三太、涙拭いて」
「……ごめん」
「(あああああああああもおおおおっ!)」

障子越しに悲しそうな声が聞こえて来て居たたまれなくなる!
何のためか分からないけど、エンジェルが私のところにわざわざ来てくれたんだ。
頼って…かどうかは分からないけどそれを蔑ろに出来るわけがない。

そっと扉を横に滑らせ、廊下に顔を覗かせる。
見ると3人は背を向け歩き出している所だった。

「あ…あのぉ」
「っ!」

そっと声をかけると3人ともビクッと震えてこっちを振り向いた。
怖がらせてしまった。ごめんなさい。

「和花さん!」
「や、やあ」

しんベヱがほっとしたような顔で戻って来た。
あ、というか喜三太と怪士丸!お初にお目にかかります!やっぱり可愛いですね!!

「良かったぁ、いらっしゃったんですね!」
「うん…何か用だった?」
「はい!あの、ぼくたち和花さんにお願いがあって!」
「お願い?」

そう言われ、何気に喜三太と怪士丸の方に視線をやる。
すると喜三太はびくっとして怪士丸の後ろに引っ込んだ。
えっ、喜三太怯えてる?
…あっ、私ですか!
そーか異世界から来た女だもんな!
普通は警戒するよね!
その点怪士丸は初対面だというのに怯えてる様子もない。すごい子だ。

「お願いって何?」
「喜三太のナメクジさんたちを探すのを手伝って欲しいんです!」

おおう、そう来たか。
前の孫兵くんの一件と言い、ほんまよく生物が居なくなるなぁ!
もっと管理をしっかりしなさいな!

「あっ、ちなみにこの喜三太はぼくと同じ一年は組の生徒で、こっちが怪士丸です」
「…一年ろ組、ニノ坪怪士丸です……」
「ご丁寧にどうも…拾石和花です」

余所者の私にも教えてくれるし名乗ってくれる。
頭も下げてくれた怪士丸、いい子だ…!
喜三太は相変わらず怪士丸の後ろにいるけど頭は下げてくれた。

「…それでなんですけど、喜三太はナメクジさんを飼っているんですけどその内の2匹が居なくなっちゃって…だから和花さん、探すのを手伝ってくれませんか!?」
「う、うぅーん…」

しんベヱに言われて唸ってしまった。
手伝う、かあぁ…!
手伝ってあげたいのは山々だけど、探すとなると忍術学園をうろうろしないといけないわけだ。
そしたら確実に誰かしらに見つかるよね。
地獄だよね。

「…でも……うっ

顔を上げるとキラッキラな目で見あげてくるしんベヱと目が合う!
この目は厳禁シリーズでよく見るやつだぞ!
それを私に向けるなんて嬉しいようななんと言うか…いや、だからってここでほいほい手伝ったら後で後悔することに…!

「だめ…ですか?」
私で良かったら任せなさい
「ほ、本当ですかっ!?」

はっ!し、しまった!
つい可愛い顔に絆されて頷いてしまった!!

「やった、和花さんが手伝って下さるならきっと見付かるよ!」
「良かったね喜三太」
「う、うん…」

やばい撤回しないと、と口を開きかけるが嬉しそうな顔をしているしんベヱたちを見たら何も言えない。
とことん下級生には甘いんだから私は!

…とか思いながら、促されるままナメクジさん探しに行くのだった。





あれからどのくらい時間が経ったかよく分からないが、私としんベヱ、喜三太、怪士丸で探しているというのにナメクジさんは見付からない。
驕っているわけじゃないけど、前の孫兵くんの1件があったからなんとなく探せば見つかるだろうとタカをくくっていた、のに。

「(あーやべー、ガチで見付からん)」

前みたいに床下潜ったり狭い隙間を入れるだけ入って探しているのに見付からない。
まあね、ジュンコみたくナメクジさんたちは大きくはないからね…。
今は怪士丸と共にナメクジさんがいそうな湿っぽい蔵の中を捜索中だけどここにもいそうもない。

「和花さん、こっちには居ません…そちらはどうですか?」
「こっちも見当たらないなぁ……この箱の下とか、うえっほ!!ゲホッゲホッ!」
「うわぁ、すごい埃…大丈夫ですか?」
「おぅふ、大丈…ぶえっくしょい!!

埃っぽいのは敵わんわ!
鼻がムズムズする。

「あ゛ー…ここも居なさそうだね…出ようか」
「はい…」

何故か名残惜しそうな顔をする怪士丸。
ああ、暗いところ好きだもんね。でも今はそれどころじゃないぞ。

「ここにもいないとなると…あとは……」
「和花さーん!怪士丸ー!こっちにいたよー!」
「えっ、居た!?」

ぱたぱたと、隣の倉を調べていたしんベヱと喜三太が走ってきた。

「…本当なの?」
「うん!ほら、ナメ蔵がいたんだ!」

怪士丸が聞くと、喜三太が嬉しそうにツボを差し出して見せてくれた。
うん、沢山いてナメ蔵がどれなのか皆目検討がつかない。

「おお…そっか、良かったね」
「はいっ!…でもまだナメ次郎が見付からなくて…」
「そうか、2匹だったよね…こっちの倉にはいなかったよ」
「そうなんですか…って、和花さんその格好…!」
「あはは、ホコリっぽくてゴメンね」
「そんな着物を汚してまで…すみません、ぼくのせいで」

探しているうちに喜三太も警戒心が溶けたのか、私とも普通に話せるようになっていた。
嬉しい限りだ。

「いやいやいや、君のせいじゃないよ。気にしないで。それよりあと1匹探さないとだね」

ずっと探してるけど、今まで望愛ちゃんやら六年生と遭遇していないのが奇跡だ。
だからその奇跡が終わる前にナメクジさんを見つけなければならい。

「そうですよね…ナメ次郎が天女様に見つかる前に見付けないと…!」
「…見つかる前?」

喜三太の言葉が頭に引っかかった。

「天女様に先に見つかるとダメなの?」
「ダメなんですっ!…あの天女様、虫も動物も苦手らしくって…前に生物委員会の伊賀崎先輩がペットのジュンコを探していた時も、すごく怒ってて…」
「えっ、そうだったの?」

そう言えば、孫兵くんはジュンコが居なくなった時上級生に叱られたって言ってた落ち込んでいた。
望愛ちゃんを過保護にしている六年生が勝手に怒ってるとかじゃなく、望愛ちゃん自体も虫とか苦手なんだ。
だから六年生たちも挙って怒ったのか。
んんんー、色々と面倒だぞ。

「だから、天女様に見つかる前に見付けないとなんです!」
「……おぉ、分かった。頑張ろう。見つかる前に見つけ出そう」
「!はい!」

喜三太が、私に会って始めて笑顔を向けてくれた。
ああもうこの子もエンジェル。
その隣で一緒に頷いてくれているしんベヱも怪士丸もエンジェル。

「…よし!じゃあ今度は向こうの倉を見てみようか」

そう言って向きを変えた、と、ほぼ同時。

「貴様、そんな所で何をしている」
!!!

一歩足を踏み出したその体勢のままフリーズする。

「た、立花先輩…食満先輩……そ、それに天女様も…!」

しんベヱが驚いた顔で見ていた先には、六年生の立花仙蔵と食満留三郎の姿があった。
そしてその後には望愛ちゃん。
さっき私を貴様呼ばわりしたのは立花仙蔵…サラスト野郎のようだ。
はいこれで六年生コンプリートですねっ死にたい!

「しんベヱ、喜三太、それに怪士丸も居たのか。こいつが新しい天女様とやらだろ?どうして一緒に居るんだ」
「この間、文次郎と小平太が警告をしてやったと言っていた筈だが。…小平太が言っていた通り、しぶとい奴のようだな」

サラスト野郎がそう言う。
その物言いには「まだ忍術学園から出ていってないのか」というニュアンスが含まれている気がする。
こちとら出て来たいのは山々なんですがね!
こんにゃろうめ。

「こんな所で何をしていた?」
「いえ、その…ちょっと探し物をして、て…」
「探し物?」

可哀想に、喜三太の声はどんどん小さくなっていく。
完璧に俯き怯えているようだ。
そんな事に気付かずなのか気にも止めてないのか食満留三郎…こいつは戦う用具委員長だよな…だめだ、その二つ名はカッコよすぎだろ。
ケマトメでいいわ、ケマトメは言葉を続けた。

「探し物って、なんでそんな奴に手伝って貰ってるんだ?」

本人前にしてそんな奴とか言うなこの野郎。

「…他の人達は委員会が忙しくて…それに先輩方は、いつも天女様と一緒ですから…」
「まあ確かにそうだな」

そうだな、じゃねぇよサラスト野郎。
それが当然かの如く頷くサラスト野郎にイラつきます。

「…それに先輩方は最近、委員会にも来て下さらないし…お願いするにも出来なくて」
「委員会か…」

そうケマトメが呟くと、しんベヱと喜三太が前に出た。

「先輩方が委員会に来て下さらないと、仕事も上手く片付けれなくて!」
「だから食満先輩っ、用具委員会に戻って来て下さい!」
「しんベヱ…喜三太…」

おっとこれはいい調子か?
ケマトメがしんベヱと喜三太の前にしゃがんで笑った。
2人の目が輝いた。のに。

「委員会はもう下級生に任せるって言っただろ?」

2人の顔が、希望から絶望に変わった。

「下級生だって忍者のたまごだ。委員会の仕事くらい、俺達上級生が居なくても出来るだろ!」
「…」

いやいやいや!出来てないからこうして言ってんじゃんかよ!
優しい顔で肩に手を置いて、諭すように言うケマトメ。
泣きそうな顔してる2人に気付けよ!馬鹿なのか!

「いつまでも頼るだけでは駄目だぞ」
「そーそー」

サラスト野郎の言葉に続けて望愛ちゃんも頷いた。

「男の子ならそれくらい1人でやんなきゃ!子どもじゃないんだから」

いや子どもだろ。10歳は子どもだろ…!

「で…でも、ぼくたち…」
「それに委員会とか真面目にやるなんておかしくない?中学生くらいの年にもなって学校の仕事やってるってなんかダサいしー」
「……」

きっぱりと否定をされて、しんベヱも喜三太も怪士丸も俯いた。
確かに現代だと中学生くらいの年の子は学校に反抗するのがアタリマエのような所がある。
むしろ真面目に規律を守る方がつまらない、ダサいと思われがちだ。
だからってそれをこの時代に持ってくるのはおかしいのではないか…!?

「…ん?喜三太、それは…」

喜三太がぎゅっとナメクジさんたちが入っている壺を抱き締めているのを、目敏くケマトメが見つけた。
あっ、やばい。
喜三太も慌てて壺を背中に隠すが少し遅かった。

「…お前ら、まさか探し物って…!」
「…ナメクジなのか」
「えぇっ!?な、なめくじぃ!?そんなの探してるのっ!?」

言っちゃった!
喜三太たちが真っ青になると同時に望愛ちゃんが嫌そうな顔になる。

「ああ、喜三太はナメクジを飼っていてな…」
「なんで!?飼ってるとかおかしくない!?…っていうより、探してるってことはどこかに居るって事だよね!?やだぁ!きもちわるい!」

ちょ、それ喜三太を前にして言う!?
確かにナメクジさんをペットは変わってるけどさー!
でもナメクジさんを知らないとなると、やっぱり望愛ちゃんは忍たまを知らないんだな…。

「…き、きもちわるい……?」

まって喜三太泣きそうだよ!?
流石にこれ怒ってやれよ六年生!

「…喜三太、ちゃんと自分の飼っているものは自分で管理しないと駄目だろ」
「望愛は虫が苦手だからな。…安心しろ望愛、ナメクジくらい私が始末してやろう」
「ホントに?仙蔵ありがとうっ」
「し、始末っ…!?だ、だめですよ立花先輩ぃ!ぼくのナメクジさんにそんなことしないでください!!」
「何を言ってるんだ、逃がしたお前に非があるんじゃないか」
「そ、うですけど…!でも…!」

非難する目でサラスト野郎に言われ、喜三太は下を向いた。

「あ…あーあー!その、ナメクジさん達はすぐ見付けますんで!ねっ、始末とかそんな言わないで!」
「和花さん…!」

取りなすように間に割って入る。
喜三太を背中に庇い、サラスト野郎とケマトメに対峙する。
うっわ顔こわっ!

「お前に何が出来る?他所から来た部外者が」

それはおめぇの横にいる望愛ちゃんだって同じだろーがよ。

「……さ、さあ?」
「ふん、大した策も無いのに口を挟むとはな」

鼻で!鼻で笑いおったでこのサラスト!!

「と、というか怖がってますし、あんまり酷いことは言わないほうが」
「怖がる?」

何のことだとばかりにサラスト野郎とケマトメが怪訝そうな顔になる。
いや気付けよ!
お前ら望愛ちゃんしか目に入らんのか!

「…ね、ね、そんなことよりもう行こうよ。その子が持ってるツボの中にもなめくじ居るんでしょ?」

サラスト野郎の袖を掴みながら望愛ちゃんが言った。
上目に望愛ちゃんに見詰められ、サラスト野郎はふ、と笑った。
なんだあのキザったらしい顔は!

「そうだな、こんな奴に構っている程暇では無いしな」

こんな奴ってなんだよこのクソサラスト。

「留三郎、行くぞ」
「あ、ああ」

それだけいい残してサラスト野郎とケマトメと望愛ちゃんは食堂の方へと行ってしまった。

「…はあ……」

まあ、なんとか酷く怒られることは避けられた…のだろうか。
でもナメクジさんを始末するなんてひでぇこと言うな…。
なんやかんやで巻き込まれながら手助けをするのが立花仙蔵じゃないのか、厳禁シリーズじゃないのか。

「……和花、さん」
「…えっ、あ、何?」

呼ばれ振り返ると、喜三太が見上げていた。

「…庇ってくださって、ありがとうございました」
「え?いやそんな大した事、じゃ…」

そこまで言って言葉が止まる。
喜三太のふにゃっとした両目からポロポロ涙が出てきたからだ。
な、涙…な、泣いてる!?

「えっ、ど、どうしたっ!?」
「な、ナメクジさんを始末するなんてっ…い、今まで立花先輩、そんな酷いこと仰ったことなかったのに……!」
「……もう、先輩たちはぼくたちのことどうでも良いみたいだよね……天女様のことしか見てないよ…」

ぽつりと寂しそうにしんベヱが呟いた。

「…ぼく、もうイヤだ……」

そう言った喜三太がその場に蹲ってしまった。
壺を地面に置き腕に顔をうずめている。

「なんで……なんで先輩たちあんなふうになっちゃったの…前みたいに、みんなで楽しく委員会やりたいよ…!こんなにビクビクしながら先輩たちと話したくないよぉ…」
「喜三太…」

慰めるしんベヱも怪士丸も、泣くのを堪えているようだった。

なんだこれ、なんですかこれ。
忍術学園はガタガタじゃないっすか。
下級生が哀しんでるというのに、上級生は気付きもしない。
…これも天女様が、望愛ちゃんが居るせいなのか。
望愛ちゃんというより部外者が居るせい、か。
私だって余所者だ。
本来「そこに存在しない人」が加わったらいけないもんなんだろう。

「(…だからって私に何が出来る?)」

喜三太たちを慰める?がんばれ泣くなって?
…なんとも中身のない、他人事丸出しだ。他人だけど。
それともあんな余所者に負けるなって応援すればいい?
…いや、私こそ余所者だ。
それかこの間ユキちゃんたちくのたまの子たちに言われたように、私が望愛ちゃんと共に無理心中でもすればいいのか?
……いやいや、でも…。

答えが出ないまま、泣いている3人に何も声を掛けられないまま、ただ時間が過ぎていった。





つづく