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  悪い人じゃない


「ふわぁ…」

一年は組の教室で、乱太郎が大きな欠伸をした。

「眠そうだねぇ乱太郎」

隣にいたしんベヱが苦笑した。

「うーん、最近ずっと保健委員会の当番で遅くまで残ってて…」
「そーいや乱太郎、いっつも部屋に戻って来るの遅いよなぁ」

しんベヱとは反対側に居たきり丸が、頭の後で手を組みながら言う。

「そういうきり丸だって、最近図書当番ばっかりじゃない」
「あー…まあなー…。アルバイトも禄に出来なくて商売上がったりだぜ」

口を尖らせながら言うきり丸に乱太郎もしんベヱも苦笑する。

ここの所、どこの委員会も忙しかった。
特別何かイベントがある訳ではない。
ただの人手不足だ。
今は上級生が…各委員会の委員長が挙って委員会に参加しなくなり、上手く回らなくなっていた。
乱太郎の属する保健委員会も、きり丸の図書委員会もしんベヱの用具委員会も、今では四年、三年が中心となり何とか仕事をこなしていた。

「なんかこうして見るとみんな疲れた顔してるよね…」

乱太郎が呟く。
本来ならば授業が終わった教室では、騒いで遊んでいたり駆け出して裏山へ遊びに行ったりするのが日常だった。
それが今では、教室に居る者は疲れ切っているのか机に伏していたり、委員会の当番で教室を慌てて出ていく者ばかりだ。

何かが、前とは異なっていた。

「…なんでこうなっちまったんだろーな」

きり丸の言葉に2人とも答えなかった。
原因かなんて言わずとも分かっている。
あの天女様とか言う女の人が空から降ってきたからだ。
…けれどそれを口にした所で何かが変わる訳では無い。
一年生ながらに、皆それを理解して文句を言うものは居なかった。

と、その時だった。

「みんなぁ〜!助けてー!」

悲痛な声を上げながら、教室の扉を開けたのは喜三太だった。

「どうしたの喜三太?」
「何かあったのか?」
「ぼくの、ぼくのナメクジさん達が居なくなっちゃったんだっ!」
「またぁ?」
「またって何だよしんベヱぇ!」
「ご、ごめんごめん」

半泣きな喜三太に怒られしんベヱは謝る。

「ちゃんと長屋を出る時には壺の中にみんな居たんだ。でもさっき中を確認したら居なくなってて!ほら見て!」
「どれどれ……って、なんだ、ちゃんといるじゃん」
「何言ってるのきり丸!居ないんだよ!ナメ次郎とナメ蔵がぁ!」
「分かんねーよそんなの…」

喜三太曰く、沢山いるナメクジの内2匹だけが居なくなっているという。
乱太郎たちはそれを見ても違いが分からないが喜三太にはきっちり見分けがつくようだ。

「ねえねえ、3人とも探すの手伝ってよぉ…そうでなきゃぼく、天女様に叱られちゃうよ」

泣きそうな声で言われて乱太郎たちは「ああ…」と唸った。

「あの天女様、虫とか動物苦手だったよね…」
「そうなんだよ…それに前に生物委員会の三治郎と虎若から聞いたんだけど、伊賀崎先輩のペットのジュンコが逃げ出した時、天女様と先輩方にすっごく怒られたんだって!」
「そう言えば三治郎も虎若も天女様が怖いって言ってたよね。そんな事があったからなんだ…」
「怒られるなんていやだよぉ。ねえみんな手伝って」

喜三太の必死な懇願に乱太郎もきり丸もしんベヱも頷いた。

「分かった。みんなで探そう」
「みんなぁ…!ありがとおぉー!」

安堵した顔で礼を言う喜三太。

「手分けした方が早そうだよな?」
「そうだね。じゃあまずは…」
「…きり丸」
「ん?うわっ!?な、なんだ怪士丸か」

いきなり名を呼ばれきり丸が振り返ると、教室の入口の所に一年ろ組のニノ坪怪士丸が立っていた。

「どうした?」
「…今日、きり丸図書当番でしょ?」
「えっ!?そーだったっけ!?」
「…本当なら五年の不破雷蔵先輩の当番だけど…先輩はたぶん来ないと思うから…」

怪士丸がそう言うときり丸は口を閉ざす。
図書委員会の委員長である六年生の中在家長次と五年生の不破雷蔵は委員会に顔を出す事がめっきり無くなっていた。

「…でもおれ、しないといけない事が…」

きり丸が喜三太の方に目だけで視線を送る。
それに気付いた喜三太は首をふるふると横に振った。

「いいよきり丸、当番に行って?乱太郎もしんベヱも居るし」
「でも…」
「今はぼくたち下級生が、委員会の仕事を頑張らなきゃいけない時だもん」
「……そう、だよな」

喜三太の言葉にきり丸は悲しそうに笑って見せた。

「じゃあ行ってくる。乱太郎、しんベヱ、頼んだぞ」
「うん、分かった」
「任せといて」
「…でも乱太郎も医務室当番じゃないの?」
「ええっ!?あ、そう言えばそうだった…かも」
「さっき伏木蔵が言ってたから…」
「わ、忘れてた…」
「乱太郎も気にしないで行っていいよ。ぼくが後から頼んじゃったんだから」
「……ごめん、喜三太…。当番が終わっても見付かってなかったらその時は手伝うから!」
「うん」

乱太郎もきり丸も、済まなそうに眉を下げて教室を出て行った。

「……何か用事でもあったの?」

その場に残っていた怪士丸が喜三太に聞いた。

「うん…ぼくのナメクジさんが居なくなっちゃって…乱太郎たちに一緒に探して貰おうってお願いしてたんだ」
「そうだったの…だったらぼくも手伝うよ」
「えっ?」
「ぼくは今日、当番じゃないから。それに何か大変そうだし…」

雰囲気を読み取ったのか怪士丸はそう言った。
それを聞いて喜三太は何度も頷いた。

「助かるよぉ、怪士丸ー!」
「それじゃあ行こう!」
「うんっ」

そう言って3人は教室を飛び出して行った。




あれから喜三太、しんベヱ、怪士丸は色々な所を探していたが、なかなかナメクジは見付からなかった。
自分たちが見付けるより先に上級生や天女様に見付かってしまったらどうしようという焦りが、喜三太に湧いて来ていた。

「ううう、どうしよう、どうしようどうしよう〜…!」

ナメクジの入った壺を持ったまま喜三太は頭を抱えていた。
そんな状態の喜三太を見てしんベヱが慌てて宥める。

「お、落ち着いて喜三太っ!」
「でも、でもぉ…!」
「…でも、本当に見付からない…居るのかなぁ」

庭に下りて床下を覗き込みながら怪士丸が言った。

「〜〜っ!」
「き、喜三太っ!泣かないでぇ」
「ご、ごめん喜三太」

ぼろぼろと涙を流し始めた喜三太にしんベヱも怪士丸も慌ててしまった。

「ど、どうしよう、天女様に見付かっちゃったらぁ……」
「天女様…」

喜三太の言葉にふと怪士丸が顔を上げた。

「…ねえ、天女様に探すの手伝って貰わない?」
「え…えええっ!?何言ってるの怪士丸!?」

その提案にしんベヱは驚き、喜三太は驚き涙も引っ込んでしまっていた。

「あの天女様にお願いするなんて、そんなの出来ないよ!」
「あの天女様じゃないよ。…もう1人の…新しい天女様」
「新しい…和花さんのこと?」
「ぼくは名前は知らないけど…しんベヱ知ってるの?」
「うん。…あんまりみんなに言わないようにって土井先生から言われてるけど…前に裏山で助けてもらった事があるんだ」
「…でもその人も天女様…なんでしょ?」

やはり喜三太は天女様に良い印象はないようで乗り気では無かった。

「和花さんは悪い人じゃないよ。少なくとも…あの天女様よりかは」
「…それに孫次郎も言ってたんだ…この間、新しい天女様はジュンコ探しを手伝ってくれたって」
「そう…なの?」

怪士丸の言葉に喜三太は目を丸くした。

「お陰で見つかったって、伊賀崎先輩凄く喜んでたみたいなんだ…だから今回も、お願いしたら手伝ってくれるんじゃないかな…」
「……」

怪士丸にも言われ喜三太は考え込んでいるようだった。
しかし壺を持つ手にぎゅっと力を込め、決心したように顔をあげる。

「…分かった、お願いしてみる。ナメクジさん達が見付からない方が困るもん」
「そっか」
「…それじゃあ行ってみようか」

喜三太は大きく頷き、3人は揃って歩き出した。



つづく