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  私のターンは来ない


以前私に対し、会ったらぶっ飛ばすと宣言していた暴君が目の前に居る。
さっき食べた美味しいあんみつが緊張のあまり喉あたりまで戻ってきた気がするよー!
さすがに人前でリバースはやばいので必死にこらえますけどね!

…とか何とか思っていたら暴君が首を傾げながら聞いてきた。

「さっきから黙ってどうしたんだ?」
「あ…いや…ナンデモ……」

聞かれて反射的に顔を背ける。
あっ、考えてみたら別に顔を見られてもいいのか。
こいつは私の顔を知らない。
部屋に来た時だって私は布団を被って寝た振りしてたんだから。
あっぱれ、あの時の自分!
よし、なら気付かれる前に帰らないと!

と、思ったのに。

「怪我でもしたのか?」
「い、いや」
「ぶつかっただけなのに柔だな!見せてみろ!」
「え、ちょ!?

がしっと腕を掴まれる!
えっ、ちょっと待って痛い!握力強い!
さすがクソ力だな!
つーか怪我もしてねーし、別にヤワでもねーし!

「い、いやいやいやほんと大丈夫ですから!」
「遠慮するな!」

遠慮じゃねーよ拒絶だよ!

「な、七松先輩!この方…えっと、私達のお友達なんです!」

さすがに見兼ねてかユキちゃんが間に割って入ってくれた。
私が上級生から目の敵にされているのを知っているせいか、うまくフォローしてくれる!グッジョブ!

「お前達居たのか!…という事はこれもくの一教室の奴か?」
「いえ…違うんです」
「そうなのか?まあ確かに見ない顔だしな」

そう言って笑う暴君。
その間にも腕を掴んだままっていうね。
あと人を「これ」扱いすんな。

「怪我はしてないみたいですから!その、手を離して頂けませんか?」
「うん?ああ、すまん!」

トモミちゃんがちゃんと言ってくれたおかげで漸く解放される。
確実に跡が残る強さでしたね。
離されても腕はじんじんしてますよちくしょう!

「(大丈夫ですか?)」
「(あ、ああうん。ごめんね助かったよ)」

気遣ってくれたおシゲちゃんに小声で返しておく。
その間にもトモミちゃんがすっと自然に私と暴君の間に立ってくれた。
長居は禁物というのはみんな分かってくれているようで、取り繕った笑顔で暴君に頭を下げた。

「すみません、私達はこの辺で失礼します」
「おう、引き留めて悪かったな!」

そう言って暴君は笑った。
よ、よかった。
思いのほかあっさりこの場を切り抜けられそうだ。
ユキちゃん達と私は引きつった顔でその場を離れる。
離れ…ようとした。

「もー、小平太早いよー!」

後ろから聞き覚えのある、そして出来る事なら聞きたくない可愛い声が飛んできた。

…その瞬間、止まらなきゃ良かったのについ足を止めて振り向いてしまった。

「(うわぁ最悪だ)」

出来ることなら夢であってくれなんて思いたいけど残念ながら現実らしい。
…むこうから小走りで掛けてきたのは、間違いなくノアちゃんだ。
そしてその両サイドには善法寺伊作と中在家長次の姿もある。
ノアちゃんを見てか、ユキちゃん達から「うわっ」という嫌そうな言葉が聞こえてきた。
うん、私も同じ気持ちだよ!

「まったく、急に居なくなるから吃驚したよ」
「…望愛が心配していたぞ…」
「すまんすまん!じっとしてるのは性に合わないからなー!」
「わたしは一緒に居たいのにー!」

ぷう、とほっぺたを膨らますノアちゃん。
あざといよその仕草!
可愛い子がやるから許されるけど、私がやったらフルボッコ確実な仕草ですよねーあははー!

…とかなんとか現実逃避をしていたら、ノアちゃんと目が合った。合ってしまった。
やべ、見つかったと思うより早くノアちゃんは「あっ」と声を上げてさっと善法寺伊作の後ろに隠れた。

「え?どうしたの?」

ノアちゃんを見て善法寺伊作が聞いた。
ノアちゃんは善法寺伊作の着物をぎゅっと掴み、私の方には目もくれず善法寺伊作…長いな、不運野郎を見上げて訴えた。

「なんであの子がいるの…?」
「え?」
「なんだ?こいつの事知ってるのか?」

あっ、やべえぞこれ。

「だってその子、新しい天女様だよ…?」
「何?」

うわ言っちゃった!
その瞬間、その場にいた六年生たちの目付きが変わった。
分かっていたけど怖っ!

「こいつが前話していた天女なのか!」

そう言った暴君が右腕をぐるぐる回し出した。
えっ、なにその殴る準備運動みたいなの!?

「怖い…」
「……望愛は下がっていろ…」

怯えたようにノアちゃんが言うと中在家長次…こいつはもそもそ野郎だな、もそもそ野郎が一歩前に出た。
「怖い…」じゃないよ!
こないだ私にガン飛ばしてたのはどこのどいつだぁーい?
ノアちゃんだよっ!(錯乱中)

「そうだぞ!こんな奴何考えてるのか分からないからな!」
「え……ぐぅえっ!?

暴君がそう言ったな、と思ったら急に私の胸倉を掴んだ!
そのままぐっと上に引き上げられあっという間に宙ぶらりん状態になる!

「ちょ…っ!ぐ、苦し……!!」
「なっ、七松先輩!?離してあげてください!」
「小平太!それは少しやり過ぎだよ!」

ユキちゃん達が慌てて止めに入ってくれた。
何故か不運野郎も止めようとしていた。

「なんだ伊作?お前こいつの肩を持つのか?」
「そ、そうじゃないけど…ほら、ここは人目があるから!」

そっちかーい!
止める理由は周りの目があるからかーい!
ならなんだ、人目のない裏路地だったらどれだけフルボッコにしても構わんというのか!

でも確かに人の目がたくさんこちらに向けられている!
何?ケンカか?とか言いながら野次馬が集まりつつある!
やめてやめて、見世物じゃないよ!

「細かい事は気にするな!どっちにしろこいつはぶっ飛ばさないといけない奴だからな!」
「ぜ、全然細かくな……い…」
「ん?なんだまだ口が利けるのか!なかなか根性あるなお前!」
「い、いや…というか…手、離し」
「駄目だ!」

きっぱり答えやがった!
いや離せよ!

「…小平太…無駄話はその辺りにしておけ…」
「それもそうだな。じゃ、そろそろ」
「ひぃっ!」

もそもそ野郎の言葉に暴君が私の胸倉を掴んでいる方とは逆の腕をまたぐるぐる回し始めた。
やべぇバレーボールの如く吹っ飛ばされる!?

「も、もう……ほんと…!何もしないですか、ら…!あと数日で…出て行きますし……っ!」
「えっ?出てくの?」

私の最後の訴えにそう答えたのはノアちゃんだった。

「で、出て行きます…!はじめから…そーいう約束でした…ので……っ」

何度も必死に頷く。
あーやべぇ本格的に息つまる、意識が飛ぶ…!

するとノアちゃんはひょっこり不運野郎の後ろから出てきた。

「なぁんだー!そーなのー?なら早く行ってよー」

さっきとは違い顔は満面の笑みだ。
な、なんだその態度の代わり様は…!?

「もういいよ小平太、離してあげて!」
「え?何でだ?」
「いいからー!」
「だがこいつは下級生を誑かしたって言ってたじゃないか」
「そんなのどーでもいいから!ね、離して!」
「…仕方ない」
「ぐえ!」

ノアちゃんに言われ暴君がパッと手を離した。
べしゃ!と雑に地面に落とされる!
もう!本当に!六年生は!クソだな!!

「むー、つまらん。ぶっ飛ばしてやりたかったのに」
「つまらないって…」
「最近バレーもなにもしてないだろ?このままだと体が鈍る!」

そう言う暴君は大変不満そうな顔をしていやがる。
それを私をぶっ飛ばすことで解消しようとすんな暴君め!

「…なんなんですか、その心変わりは」

私を助け起こしてくれながらトモミちゃんが聞いた。
ノアちゃんに言ってくれたが悪びれもせずに笑った。

「えー?別にいいでしょ?」
「良くないですよ!」

トモミちゃんが畳み掛けて怒るとノアちゃんは瞬時にむすっとした。
返事もせずに、何故か私の前に立った。

「わたし、鹿島望愛っていうの!出てくまでだけど仲良くしよ?」
「え…」

ノアちゃん…望愛ちゃんはにっこりと笑ってそう言った。
態度の変化えげつない。
というか出ていくまでって、はっきり言うなぁ。
それ以前に胸倉掴まれた件については謝らないのにね!

「は…はあ……わ、私は「ねー、そろそろ帰ろうよー。足が疲れちゃった」

こっちも名乗ろうと思ったら、望愛ちゃんはするべきことは終わったとばかりに私から視線を外した。
おい!私のターンは来ないんですか!

そんな私の気持ちなんて1ミリも考えず…というか既に私なんて視界に入れてもないらしく望愛ちゃんは不運野郎の袖を引っ張っていた。

「あ、ああ…そうだね」

歯切れ悪く不運野郎が言った。
しかしその後ちらっと私の方に視線が来る。
…なんだ?
ああ、一応は保健委員会委員長だから私が怪我してないか気になるのか。
誰もお前なんざに手当されたくないがな!

「…こいつは放っておいていいのか?」
「いいよー。だって直ぐ出て行くって言ってるし!」
「じゃあ帰ってバレーやろう!」
「もうっ、小平太そればっか!バレーなんかつまんないし、部屋でお話しよ!」

そう言って今度は望愛ちゃんは暴君の袖を引っ張って歩き出した。
不満感丸出しな暴君をもそもそ野郎が宥めてる。
全員私なんかに目もくれずにさっさと歩き出したが、最後にまた不運野郎がこっちを見た。
なんだ、そんな目をしても手当いらねーぞ。

…でも結局不運野郎も何も言わず望愛ちゃん達と共に去っていった。


「……はぁ…ビビった…」

マジでぶっ飛ばされるかと思った。
もうやだ、望愛ちゃんも嫌だし六年生も嫌だ。
特に望愛ちゃん、私が邪魔って思ってるの隠してないよ…!

「…なんなのあの人」

ボソッとトモミちゃんが呟いた。

「ちょっと露骨過ぎない?和花さんが出ていくって分かったらころっと意見変えちゃって!」
「怖がってるのもフリ、みたいだったわね…」
「和花さんに酷いことしたのに謝りもしないなんて酷いです!」

望愛ちゃんが居なくなった途端、ユキちゃんたちがこぞって言い出した。

「やっぱりあの人、忍術学園から出て行ってもらわないとどんどん酷くなってっちゃう気がするわ…」

そうトモミちゃんが言えば、ユキちゃんもおシゲちゃんも頷く。
わ、わぁついに始まるの天女討伐?
良くある悪い天女様を追い出す一致団結企画ですね!
やだぁ関わりたくなーい!

「だから和花さんっ!」
「え?は、はい?」
頑張って下さいね!
「…えっ!?」

急に話を振られてビビる。
が、頑張るって何を!?

「な、何をですかね…?」
「何って、あの天女様をやっつけることですよ!」
「え、私!?私がっすか!?」
「ええっ、何を驚いてらっしゃるんですか!酷いことされてるのは和花さんじゃないですか!」
「いやまあ、そうだけど…」
「だったら和花さんが何とかしないと!酷い目に遭わされて嫌じゃないんですか!?」
「まー確かに嬉しくはないけど…」

ですよね!と言うユキちゃんトモミちゃんおシゲちゃん。
いやいやいや、なんで私が望愛ちゃんをやっつけにゃならんの!?
これ以上下手なことしたら許さねえって脅された所なのに!!
自ら死地に行けと!?

「い、いやだから、私は目立っちゃいけないって…それにすぐ出てくし!」
「それじゃあ誰があの人を倒すんですか!?」

知らねーよ少なくとも私じゃないよ!?
そんな義務請け負った覚えねーし!

そこでふと、ああ、味方だーって言ってくれてたのもそれは別に友達だからって訳じゃないんだなと理解する。
天女を倒すのは天女の仕事だと。
部外者は部外者を倒して、あわよくば揃って消えろってか?
共食って滅べと言うのか?
わぁ、おっそろしい!


私が乗り気でないことに対し不満そうな顔をしてる3人と共に、忍術学園に帰った。
別れ際にも「応援してますから!頑張って下さいね!」とか念を押された。
そう言われてもね、何もしたくないんですけどね。
曖昧に笑ってその場を流しておいた。

「…はぁー……」

ため息出るよ全く…。
やっぱりね、結局は忍術学園に私の居場所は無いんですね!
求めてもないけど。

六年生に倒される前に、望愛ちゃんと戦わされる前に、皆に嫌われる前にさっさと忍術学園を出たいです。切実に。



つづく