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  味方ですから


早く忍術学園から脱出しなければと思っていた翌日。
私は早くも忍術学園外に出ていた。
外に出れたからと言って忍術学園から脱出出来たわけじゃない。
一度町の様子を見に行きがてら息抜きをしてらっしゃいというシナ先生の優しいお気遣いで、ユキちゃんトモミちゃんおシゲちゃんとであんみつが美味しいと言われてる甘味屋さんに来ていたのだった。
この時代の雰囲気が分からないまま忍術学園を出して貰えても困るし、こうやって前もって町の様子を見られる時間を下さったのは本当にありがたい。
しかもあんみつ代はシナ先生持ちという、無一文な私にとったら本当に本当にありがたいことだ。
遠慮しようとしたのに「相手を思うなら受け取りなさい。素直に受け取って笑顔でお礼が言えたなら最高の女性よ」とウインクしながら仰った。
そう言われたらお礼言って受け取るしかないよね!
シナ先生のような素敵な女性に、私はなりたい(願望)。

「美味しかったぁー!」
「ねー」

それぞれあんみつのお皿を空にして、ユキちゃんたちは満足そうに笑っていた。
うん、確かに美味しかった。
こんな美味しいものを奢って頂けるなんて本当申し訳ない。

でも、申し訳ないのはそれ以外にもある。

「…みんなごめんね、今日は私なんかに付き添わせちゃって」
「え?」

一緒にあんみつを食べになんて建前で、3人は私が下手な事をしでかさないかのお目付け役だ。
せっかくのお休みなのに私なんかのために時間を割かせちゃって申し訳ない限りだ。

「何仰ってるんですか!私達、好きでこうして来てるんですから和花さんが気にすることなんてないですよ!」
「そ、そう…?」
「それに、和花さんともっとお話してみたかったんです!」

にっこりと笑ってくれるおシゲちゃん。
何この子癒し系?

…前にくの一教室で授業受けた時はそれはもうボロクソ言われたけど、今はみんな私に寛容になってくれていた。
たぶん、私の悲痛な早く出ていきたいという思いが伝わったんだろうなと都合よく解釈してみる。
ノアちゃんと違って忍たまと絡む生活を求めてないからね。
いやもう、本当に早く出ていきたい。
ノアちゃん信者の上級生に四肢をもがれる前に。

「…というか私、この間元の世界に帰る!なんて意気込んでたのに…よく考えたら帰り方も何も分からずじまいで出ていけず……本当に申し訳ない…」
「ええっ!?そ、そんな頭を上げてください!誰にでも間違いや早とちりはありますから!」
「うっう、ありがとう…」

トモミちゃんの優しい言葉に涙が出そうになる。
前に元の世界に帰ります!お世話になりました!
なんて言っておきながら帰れる術は分からず結局まだお世話になる事になってしまった。
それでも怒らず慰めてくれるなんて、この子たち本当に出来た子。

するとユキちゃんが両拳を握りながら私を真っ直ぐ見た。

「和花さん、私達が手伝えることなら何でも仰って下さい!」
「え?」
「和花さんが悪い人じゃないって充分分かりましたし。…それに、前にひどい事を言ってしまったから…」
「あ、そ、そんなの全然!?ほんと気にしてないし!むしろ私が早とちりして言ったことと合わせてプラマイゼロって言うか!本当気にしないでください!」

俯いてしまうトモミちゃんに慌てて言う。
確かに豆腐メンタルな私には厳しめな言葉だったけど、余所者を快く受け入れる方が難しいもんね!
真っ当な態度であったと私は受け止めています!
私のあまりの必死さが伝わったのか、3人とも笑ってくれた。よかった。

「…あ、そうだ!帰ったらくの一教室の皆にも和花さんの話、してみない?」
「いいですねユキちゃん!そしたらきっと皆、和花さんが悪い人じゃないって分かってくれると思います!」
「そうね、くの一教室みんなが味方なら忍たまたちが何しても敵わないわ!」

3人がわあわあと私を置いて盛り上がり始める。
確かにくの一教室の子達が味方ならこの上なく心強い!
…だけど。

「き、気持ちだけで充分だよ!ほら私はすぐ出ていくし…それにあんまり名前を広めちゃダメだし!」

そう言うと3人とも「あ、そうでした」と思い出してくれた。

「私はみんなが分かってくれるだけで嬉しいから」
「でも…」
「ほら、沢山の人と関わったらよく思わない人も居るしネー…」

誰とは言わないけどな。
首を掻きながらそう言うと、ふとトモミちゃんが私の首元に目をやった。

「和花さん、その…首の傷って、もしかして」
「え?あー……まあ…ちょっとイザコザがあってね」
「えっ、それって刃物の傷じゃ…!?」
「はは、突きつけられた程度だから大丈夫だよ」
「突き付けられたんですか!?」

そうなんだ、昨日の夜脅しでギンギン野郎が首に苦無を押し付けてきたけどそれがくい込んでいたらしく朝見たらちょっとした傷になっていた。
朝この傷を見つけた時は恐怖を通り越して怒りすら感じたよね。
本当にこの世界の慰謝料制度がどうなっているか調べなきゃいけないかもしれない。

「ひ、ひどい!」
「誰にやられたんですか!?」
「えっ?あ、い、いやー本当大丈夫だから!」
「あの天女とか言う女の人じゃないですか!?」
「それか天女に取り入ってる忍たまよ!」
「勝手に勘違いして和花さんが邪魔だとかなんとか思って攻撃してきたんじゃない!?」
「お、おおう…」

私は何も言ってないのにユキちゃんたちが勝手に解釈して話を盛り上げていく。
しかも間違ってないというかほぼほぼアタリと言う。
女の勘ってあな恐ろしい。

「ほ、本当に大したことないから!…ほら、長居しちゃったしそろそろ出ようか」

半ば無理やり会話を切り上げて立ち上がった。
浮かない顔をしてるけど、ユキちゃんたちも私に倣って立ち上がった。
頂いたお金でお勘定を済ませお店を出る。

「美味しかったねーあんみつ」

道を歩きながら私が言うのに、どことなくみんな暗い顔だ。
ううう、ギンギン野郎が傷なんか付けるからだ。
チャンスがあったら本当に慰謝料貰ってやる。

「…和花さん!」
「えっ、は、はい?」

急に呼び止められて振り返ると、3人揃って私を見ていた。
なんだ?と思っていると3人とも声を合わせた。

「私達に出来ることなら何でもお手伝いします!」
「だからあの天女や忍たま達何かに負けないでください!」
「私達、和花さんの味方ですからっ!」
「お、おぉう…」

町中で大きな声を出すから町の人の視線を集めてしまった!
何でもないですよー気にしないでくださーいと促す。
それからユキちゃん達の方に視線を戻すと、まだ私の方をまっすぐ見てくれていた。
視線が、視線がきらっきらしてる!

「あ…ありがとう。心強いよ」

そう言って笑うと3人も嬉しそうに笑って顔を見合わせていた。

味方だなんて嬉しいことを言ってくれるじゃないか。

…いやでも「負けないで」という台詞。
これは挫けるなということなのだろうか。
それとも天女様に勝てと言うことなのだろうか。
うん、勝てる気はしないけど。
勝つ云々より関わらずして忍術学園からオサラバしたい所だから、ここは前者で受けとろう。うん。

「…じゃあ帰ろ、ぶはっ!

どんっ!

そう言って歩き出そうとしたら、振り向きざまに誰かにぶつかってしまった。
勢いが良すぎて数歩よろめく。
ユキちゃん達が大丈夫ですか!?って言ってくれた。やさしい。

「す、すみません前見てなくて!お怪我、は…」

そう顔をあげて……固まる。
見上げたそこには、ぼさぼさな髪で松模様の着物を身に付けている、

「おう!大丈夫だ!」

…ダミ声の…忍たま六年生…!

「(ぼぼぼぼぼ暴君…!な、ななな七松小平太…!!?)」

さっと一瞬で体中の血の気が引いたのを感じる!
なんで、よりにも寄ってこいつなんだ!
会ったらぶっ飛ばす!みたいなことを言ってたやつだぞ!
えっ、ぶっ飛ばされる?
クソ力だしいけどんアタックの要領で叩かれでもしたら木っ端微塵になる予感する!
やめてせめて骨は残してそして埋葬して!
ていうか殺さないで!!

「(…あ、やべえ吐きそう)」

色々考えてたら緊張のあまりさっき食べたあんみつが喉あたりまで戻ってきた気がする。

そんな私の気も知らず、前に立っている暴君は顔を引き攣らせている私を不思議に思っているのか首をかしげていた。





つづく