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  『警告』だ


「はあ…疲れた……」

布団を敷きながらひとり、深くため息をついた。
本当に、ほんっとーに今日は疲れた。
豆腐小僧に会い、たけざえもんに会い、ノアちゃんに会い敵視され、穴掘り小僧に会い落とし穴に何回も落とされた。
心も体も余すことなくボロボロですね!

「(というかなんなの?私は補正か何か掛かってるってーの?)」

そう思っても可笑しくないくらい平和的に人と関わっている。
夢小説である、努力もせずに逆ハー補正が付いて周りからちやほやされるアレだ。
それが私に付いてるんじゃないかって思うくらい、みんな私に対して緩い対応だ。
ノアちゃんからは嫌われてるけど。
あ、もしかしたら冗談抜きに補正が付いてたりして実際に六年生と会ったら何の苦労もなく味方になるかもしれない。
それでそれで、いつの間にか私中心に回り始めて逆ハーウハウハ生活の始まりかもしれない!

「…ははっ、なんつってね」

逆ハーを求めてなんか居ないし、ちやほやされる生活よりか安穏な元の世界に戻りたい。切実に。
あーあ、目が覚めたら夢オチでしたーなんてならないかなぁ。
無理か。

「(さっさと寝よう、そんでもって明日からは部屋から出ないでおこうそうしよう)」

そう心に決めつつ何度目か分からないため息をつき、部屋の灯りを消した。

消した、とほぼ同時。

「お前が『新しい天女』だな」
「は?…ぐうえッ!?

急に背後から声が掛かりつい反射的に振り返った。
その瞬間に寝巻きの首元をえらい勢いで掴まれ、そのままドン!と言うかバン!という音を立てて壁に押し付けられた!

「な……んっ、誰……!?」

首をほぼ締められた状態でなんとか声を絞り出す。
如何せん、さっき灯りを消しちゃったから部屋は真っ暗だ。
目の前で人の襟首締めてやがるのが誰なのか分っからない!

「ふん、貴様如きに名乗る名前なんざねぇ」
「(あ、こいつ潮江文次郎だわ)」

はっきりと姿は見えないけど声で判断できた。
声だけで判断出来るのは忍たまオタクの特権ですね。
名乗らなくても声だけで誰かわかるんだからな!
お前如き名前学年組委員会身長星座血液型だって把握してんだからな!
オタクなめんなー!

っていやいやそれどころじゃない!

「(えっ、ついに殺しに来た!!?)」

さっき逆ハー補正〜☆とか調子に乗ってたから!?
えええ、謝るんでお引き取りください!

私が内心慌てに慌てていると、潮江文次郎…ギンギン野郎ですね、ギンギン野郎が話を続け出した。

「俺が何故ここに来ているか分かるか」
「え…?」

な、何故だって?
え、えーと、これってあれだよね?
夜に来てこう急に襲ってくるやつ!
何だっけ、なんて言うっけこれ!?
えーとえーと……あっ、あれか!

「よ、夜這い…ってやつですかね…!?」
「ぶっ」

そう答えたらギンギン野郎が吹き出したのが分かった。

「ばっ、バカタレ!誰がそんなもんするか!!」
「えっ!?あっ、そうか奇襲!?あっ、夜襲!夜襲ですねすんません!」

は、はずかしー!
変な事言っちゃったよ!
そりゃ怒りますよね!

でもその私の言葉に勢いを削がれたのか襟元を掴んでいた手を離した。
ギンギン野郎が「調子狂わせやがって…」とかぶつぶつ言ってるのが聞こえた。
うん、それはホント申し訳ないと思います。

「…お前、望愛に会っただろ」
「は?」

話を元の路線に戻してギンギン野郎が言った。
ノアちゃん?
確かに会ったけど…なんだろう、嫌な予感しかしない。

「…はぁ…まあ」
「その時、何を言った?」
「は?いや…特に……」
「嘘つけ!」

嘘じゃねーし!
本当のことを言ったのに何故かギンギン野郎はキレ始めた。

「望愛がお前に出掛けるのを邪魔をされたと言っていたぞ!」
「え、ええー!?いや、私は何も…」
「先に約束していたのは望愛だったのにてめぇが横取りしたらしいじゃねえか!」
「は、はあ?」

よ、横取りって!
私はむしろたけざえもんと豆腐小僧には一緒に行ったら?って提案したのに!
ノアちゃんたらまた好き勝手に言っちゃったのね!
ギンギン野郎とか女の子に対しては(恐らく)単純だからすぐ信じちゃうでしょ!

「だ、だから私は何も…」
「てめぇの言葉なんざ誰が信じるか!」
ぐぇっふ!

またキレられた!と思ったら再び襟首を掴まれた!
あーもうこいつ人の話聞きゃしねえ!

「い、いや…ほんとに私は……ヒッ!?

首筋にヒヤリと冷たいものがあたり、息を呑む。
えっ、なになになに!?
は、刃物?
あっ!く、苦無ですかね!? よく見えないけど!

「…望愛に近付いてみろ。ただじゃすまねぇからな」
「……」

低い声でそう脅される。
でも下手に動くと刃物が首にめり込みそうだから頷くこともままならない!
返事が出来ないで居ると、それがカンに障ったのか苦無が一層首に押し付けられた。

「分かったな」
「お……う、お、ぉ……」

なんとか絞り出して、返事かどうかもよく分からない声で応える。
そこでようやく納得したのかギンギン野郎は襟首から手を離してくれたものの、横払いにされた為にバランスを崩して床に倒れる羽目になる。
くっそ、もっと丁重に扱えや!

…と、体を起こすと、顔の横を何かが過ぎる。
私が反応するより早く、左後ろの壁からダン!という重い音がした。
え、な、何?

「次はねぇからな。これは『警告』だ」

そう声が聞こえたのを最後に、ぱたりとギンギン野郎の声は聞こえなくなった。
恐らく出て行ったらしい。

「……」

しんと静まった部屋で、倒れた体勢のまま暫く動けなかった。
色々と頭が追いつかない。

「…な、んだったんだ今の…」
「聞いてなかったのか、『警告』だと言っていただろう」
ひいぃっ!?

誰に言ったわけでもない独り言に返事が来て驚く。
でも返事をしたのはギンギン野郎とは別の声だった。
すたっという、誰かが高いところから着地したような音と共に部屋に灯りが点される。
暗闇に目が慣れていたせいで少し視界がホワイトアウトするものの、そこにいたのが三郎だと分かるのに時間はかからなかった。

「ま、またあなたですか…」
「居たら悪いのか」
「(悪いよ)…一体いつから…」
「いつからだっていいだろ。…余所者を見張るのは当たり前だ」

それはもう見るからに機嫌悪そうな顔で言われる。
言い方から察するにずっと前から居たようだ。
じゃあ止めてくれよ!
いや、こいつはそんな優しい奴ではないから無理か。

…というか、なんか言い方に刺がある気がする。
言ってることには間違いは無いから文句は言えないけどさ!

「というか……さっきの…」
「天女サマを囲っている先輩の1人だ。お前が目に余る行動をするからついに直接来たってわけだな」
「目に余っ……い、いや、ほんと私何もしてないですけど…!」
「先輩方にとってあの天女サマの言うことがすべてだからな」
「…」

そう言われ、絶望する。
ほらあぁ!やっぱり面倒なことになった!
今日豆腐小僧とたけざえもんが空気読まないからー!
ノアちゃんの機嫌損なわすからー!もおおおー!

「今は警告で済んでいるがいつかその苦無が脳天に刺さる時が来るかも知れないぞ」
「は…?その苦無って……ヒィ!?

そう言われ三郎の視線の先……私の左横をふと見ると、なにやら黒い物体が壁から生えていた。
く、苦無やんけ!
変な声を上げて飛び退るが、よく考えたら私が乱雑に横倒しにさせられた後聞こえた音はこの苦無が刺さった音だったのか!
えっえっ、こんなもん投げつけてきてたのアイツ!?

「ここここっ、こっわッ…!」
「今気付いたのか。お前は何処まで鈍いんだ」
「(気付かねーよあんな暗闇じゃ…!)」

軽く私に悪態をついて、三郎は刺さっていた苦無を引き抜いた。
う、うあー壁に穴空いてる…!

「その鈍さじゃここに穴が開くのも時間の問題だな」

三郎が私の前にしゃがみ、さっきの苦無の切っ先を額のど真ん中に向けた。

「ちょっ、やめ!」

身を捩って苦無から体を逸らす。
何しやがるんだこいつは!
額を抑えながら間合いを取り、三郎を睨むとその顔は無表情だった。
え、何こいつ怖っ。

「…まあお前が頭に風穴を空けようが心の臓を突かれようが私の知ったことじゃないがな」

立ち上がり、苦無を懐にしまいながら言われる。
酷い言われよう。

…しかし、そんな三郎を見上げてふと思う。

「(…やっぱりコイツなんか…)…怒ってる?」
「は?」
「あっやべっ」

つい口に出してしまった!
今のなし!なんでもない!と言おうとするもののキッチリ三郎は聞いていたようだ。

「誰が怒ってるって?」
「えっ、いや、べ、別にー…」
「なんだ、私が怒っているとでも言いたいのかお前は?」
「い、いや…」
「私は、怒ってなんか、い・な・い」
「(めっさ怒っとるやんけ)」

誰がどう見たって怒っとるやん!
なんでコイツまで怒ってるんだ!
私も逆ギレしたくなるけどそれをぐっと抑える、大人だからね!
すると不機嫌そうな顔のまま三郎が言う。

「…お前、兵助に会ったらしいな」
「えっ?へい……あ、ああ。まあ…」
「兵助はお前の名前を知っていた」
「はぁ?そりゃ、まあ…名乗りましたし」
「拾石和花だって名乗ったんだろ?私には田中ハナコだとかふざけた名前を言おうとしたくせに」
「…は?」

そう言った三郎はふいっとそっぽを向いた。
確かに豆腐小僧にはちゃんと名前名乗ったし、三郎には田中ハナコって偽名を言おうとした。
三郎には名前知られてたから偽名の意味なかったけど。
でもそれには理由があるし。
…え、というか…。

「…そんなことで怒ってんの?」
そんなこと!?
「えっ、あ!?す、すみません!?」

ついぽろっと口から出してしまった!
もう学ばない自分、アホ!

「別にお前が誰にどう言おうと私には関係ない!第一私は怒っていない!
「え、えええー…」

怒ってるやんけ!
完全怒っとるやんけ!

それだけの理由で捻くねるとか子どもかい!
とか思うけど、まず理由があるってことを伝えないと!

「い、いえ、あの、名前を言ったのには理由があるんですよ」

そう言ってみると、三郎はジロっと睨みつけるとも変わらない目で見てくる。
こえーよそんな目で見るなよ!

「あなたに会った時は、あまり人と関わらないようにと言われてたので…本名を教えるべきじゃないと判断したので偽名を言おうとしたんです。で、その後はもう名前を知られてるわけですから…逆に嘘の名前を教えたらそれで問題になるかと思ったので…うん」
「……」
「もしもあなたにあとに会っていたら、嘘の名前とか言わなかったですよ…(たぶん)」
「……」
「…な、なんか……すいません…」

つい謝ってしまった。
…いや考えるとおかしいよねー私悪いことしてないのに!

三郎の表情を伺っていると…理由が伝わったのか幾分か和らいだように見えた。

「…お前にしては賢明な判断だな」
「え?あ、そ、そうですかね…」
「ああ、空っぽな頭の割に考えたな」

相変わらずの憎まれ口を叩きやがるけど怖い無表情ではなくなった。

「…怒っては…ないですよね」
「だから言ってるだろ、私は怒っちゃいない」
「オォ…ソッスネ…」

改めて聞いてみたけどさっきの怒りはどこへやら、と言った感じで返された。
なんやこいつ単純だな!
…まあ言っても五年生なんて14歳だしね…子供よね……。

「…まあ何はともあれ、六年生達に敵視されてるに代わりは無いけどな」
「ハッ!」

そ、そうだった忘れてた!
三郎このやろう、お前が変なふうに機嫌を損ねてるから肝心なこと失念してたじゃないか!

「え、えー…!…わ、私はこれからどうしたら!」
「さあな。和花が何をしようが裏目に出るだろうな、あの天女サマを前にしたら」
「……」

全くもってそのとおりだ。


…やっぱり私は早くこの地から脱出をしなければならないと思わせらる、そんな慌ただしい日だった。




つづく