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  不思議ちゃんだな


部屋に向かって中庭を歩きながらもう部屋から出まいと誓いを立てた…その3分後。

ずしゃあ!

「ぅぎゃあ!」

一瞬にして視界が暗転した!
暗転したと共にどすん!と背中に衝撃があって「ぐへぇ!」と声が漏れる。

「な、なんっ…うおっ…!?」

驚きすぎて何が起きたのか思考が働かない。
あと背中痛い!

「おやまぁ、豪快に落ちましたねぇ」
「な…!?」

上から降ってきたやたら間延びした声。
そして「落ちた」ということ、なにより「おやまぁ」という言葉。
あーもう嫌な予感しかしないっ!

「…顔を両手で覆ったりして何してるんです?」
「いや…なんでも…」

無駄だとわかって入るけど、新しい勢力(忍たま)と顔を合わせたくない一心で悪足掻きをしてみる。
もう部屋から出まいと誓ったのに!人と関わらないと誓ったのに!
くっそ、中庭なんか通るんじゃなかった!
余計なこと言いやがって、たけざえもんめ!

「…もうこのまま土に還りたい…」
「分かりましたー」
「は?…って、ぶへぁ!?

私が何気なしに呟いたら、また間延びした声が来てその瞬間上から土が降ってきた!

「ちょ、まっ…やめ…!ぶはっ…やめんかゴラァ!」

口に入ってきた土にむせてついキレた。
この際、関わる関わらない関係ないわ!
軽く生き埋めになりかけたわ!

「なぜ埋める!?殺す気かぁ!」
「何故って、土に還りたいって仰ったのは貴女じゃないですかぁ」

おかしな人ですねーなんて言われる。
少なくともお前には言われたくないと、紫色の忍び装束を着た綾部喜八郎を見上げる。
くっそ、こいつも可愛い顔してやがる!
つーかこいつもなんでここにいるんだ!
授業どうしたんだよっ!

「それはあくまで揶揄であってですね…!」
「そんなことより、あなたが噂の新しい天女様なんですよね?」
「は?」

そんなことよりて。
人を生き埋めにしかけといてそんなことよりって!

「いや…まあそう呼ばれてたりしてますが…」

顔にかかった土を払いながら言うと「おぉー」と穴掘り小僧は謎の声を出した。

「な、なんすか『おぉ』って」
「前から天女様に嵌って頂きたかったんですよー。どうですか、蛸壷のターコちゃん8号は」

ど、どうと言われても。
…ああ、そういやこれは天才的トラパーの掘ったターコちゃんなのか。
そう思うと、蛸壷に落ちたのはなかなか凄いことだ。

「え、えー…とりあえず、貴重な体験させて頂きましてありがとうございますですけども」

びっくりしたっつーのが率直な感想ですがね!
下手したら塞がった傷口が開く勢いでしたけどね!
この時代には慰謝料というものは存在しているのだろうか。

…そう言ったら何故かきょとんとした顔をされた。
なんだその顔は。

「あ、あのー…とりあえず助けてくれませんかねぇ…?」

何も言ってくれなくなったからこっちから声をかける。
自分の背よりか深いこの落とし穴、残念ながら1人じゃ出れそうにもないんだよ。
その声に「ああ」と思い出したように穴掘り小僧が言った。

「じゃあ手、伸ばしてくださーい」
「うい…」

言われるがまま手を伸ばすと、ぐいっと一気に引き上げられた。
思ったより力持ちな穴掘り小僧。
なんとか地上に生還できた。

「はぁ…ありがとうございます…」

落とされた上に生き埋めにされかけて礼を言うのもなんだけど、一応助けられたからお礼を言っておく。
うっへぇ土まみれ。
パンパンと土を払っていると、視線を感じた。
顔を上げると穴掘り小僧とばちっと目が合う。

「な、なんですかね?」
「僕は四年い組の綾部喜八郎です」
「は?はぁ…」

なんでいきなり名乗る。
まあ礼儀があるのは大事だもんね。うん。
でも私と関わりは持とうとしないで!

「…」
「…?」

穴掘り小僧はじーっと私を見たまんま何も言わない。
なんだ。
マイペースというか、不思議ちゃんだなこの子は。

「…」
「…」
「…」
「…あ、あの」
「名前」
「ハ?」

沈黙が続き、痺れを切らして聞いたらタイミング悪く言葉が被った。
というか、名前?名前って?

「僕が名乗ったんですから普通そちらも名乗るものでしょう?」
「えっ、ああ、そうかすいません。拾石和花です」

あ、普通に名乗ってもーた。
まあいいか。

「和花さんですね。…和花さんって変わってますねぇ」
「は…はい?」

2度目だけどお前には言われたくない。
変わってるって何がだ。
私の思いを汲み取ってか穴掘り小僧が話した。

「落とし穴に落ちて貴重な体験をしたとか。普通の人はそんなこと言いませんよ。大半の人は怒ってきますし」
「あ、ああ…まあ、私は落とし穴なんか落ちたことないですから…というか私の居た世界だと落とし穴にハマる機会がある人のが少ないですし」

落とし穴なんかバラエティとかドッキリくらいだもんな。
それにはまるってなかなかない体験だし。
求めてはいないんだけど!

…ってそうじゃねぇ!

「わ、私は部屋に戻らないとですので…!」

そろそろ鐘が鳴る時間な気がする。
そしたらドコドコと生徒たちが帰ってきてしまう!
踵を返して足早にその場を立ち去ろうとする。
後ろから「あ、」と何か言いかけた穴掘り小僧の声が聞こえた気がするが気にしない!

「(私は部屋で籠城するんだか、)らぁっ!?

三歩ほど歩いたところでずぼっ!と再び足場がなくなり落下した!
な、なんやねんいくつ落とし穴あるんだここには!

「そっちにもターコちゃん9号がありますよって言おうとしていたのに」
「ちょ…っと言うの遅いですかねェェ…」

恨めしい顔で見上げたのに当の本人は飄々としてやがる。
ほんと何考えてるかわからん顔しやがって!


…それからまた引っ張り出してもらい、安全な道を教わりながら部屋に帰れたのは20分くらい経ったあとだった。
安全な道を教わったはずなのにあれから2、3回落とし穴に落ちたのは穴掘り小僧の意図的なのか偶然なのか…いやもう深く考えないどこうそうしよう…。
今日は疲れたよ…ゆっくり休もう…。




つづく