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  遠慮したい


「兵助ぇ、八左ヱ門〜!」

豆腐小僧とたけざえもん越しに聞こえてきた可愛らしい声につい体が固まった。
聞き覚えのあるこの女の子の声。
これはノアちゃん…天女様の声だ。
いや私も一応は天女の部類だからノアちゃんに対して天女様と言うのはおかしいか。
いや問題はそこじゃない。
もしかしてこのままだと初お顔合わせになっちゃう系?
どうしよう!心の準備がまだですよ!?

「あ、天女様」

そんな私の葛藤なんて露知らず、振り返ったたけざえもんが言った。
恐る恐る、豆腐小僧とたけざえもんの間から顔を覗かせる。

「(…あらら、カワイイ子じゃない)」

なんともまあ可愛らしい子が駆け寄ってきたのが見えた。
髪の毛はふわふわしてるし、顔は化粧っ気もないのに可愛らしい。
こりゃ六年がチヤホヤするのも分かる。
だからって委員会や人間関係を蔑ろにしていいとは言わないけどな!
そうこう思っているとすぐ近くまでノアちゃんが来た。
近くで見たら一層可愛い。
…が。

「(…あら?)」

バチッと私と視線がかち合った、と思ったら一瞬可愛い顔が一転、むっとした顔になった。
しかしそれもほんの僅かなことで直ぐに人懐っこい笑顔でたけざえもんと豆腐小僧の方を向く。
え、なんで?

「(あ、なんで?じゃないわ。私嫌われてるんだった忘れてた)」

勝手にありもしない噂を流しちゃうくらいにはノアちゃんには嫌われてる。らしい。
確か三郎も言ってたっけ、自分のチヤホヤされてる楽しい立場を危うくする存在である私は邪魔だと。
別に上級生とワイワイしてる立場なんて邪魔しないんだけどなぁ!

でも向こうから嫌われたとしても、こっちも同じように敵意を向けてたら治る人間関係も治らなくなるものだ。
せめて私が出てくまでは穏便にして頂きたい。
まずは挨拶くらいはしてみないと!

「は、初めま」
「ねーぇ、今日って授業無いんでしょ?なら一緒に町に行こうよー」

わあ無視っ!
わざとか知らないが私がノアちゃんに向かって話した瞬間言葉を被せてきた!
私の存在なんて恰も無いような素振りだ!
もう!これだから若い子はっ!
嫌いなものには1ミリも関わろうとしないんだからっ!

しかし私の怒りも華麗にスルーしてノアちゃんは話し続ける。

「ねーいいでしょ?わたしまだ兵助とも八左ヱ門とも出かけたことないもん!」

そう言いながらノアちゃんは豆腐小僧の袖を掴んで左右に揺らす。
なにその可愛いおねだり動作!?
おばちゃん使ったことない!
使う相手もいないけど!

「あー…でも…」

ノアちゃんに可愛く言われてるというのに何故か豆腐小僧は渋っていた。
豆腐小僧に視線を送られたたけざえもんも困ったように眉を下げている。
なんで迷う必要がある?
ホイホイ付いていけばいいのに。
委員会とか下級生に支障が出ない程度になら仲良くしたっていいと思うのに。

「ねぇ、行こうよー!」
「…すみません、今日は止めておきます」
「じゃあ俺も」

お?2人とも断った。
そう言われノアちゃんがムッとしたのが傍から見ていただけでも分かった。

「なんでー?時間あるでしょ!」
「えーと…」

ノアちゃんに言われて豆腐小僧は困った顔をした。
すると何故か私の方を見た。
…なんだ?

「すみません、今日は和花さんと話をしたいと思っているので」
「え?」
ハ?

豆腐小僧が素っ頓狂な事を言ったから驚いた。
その言葉には私だけじゃなくノアちゃんもびっくりしている。
そこでようやくノアちゃんがちゃんと私の方を向いた。

「…なんでその子なの?」

ひ、ヒエ〜ッ!
ノアちゃんの声のトーンがあからさまに下がった!
可愛い顔とは裏腹であからさまに機嫌悪いオーラが出ていらっしゃる!
これが所謂ギャップ萌ってやつですねー!?(錯乱)

「何でと言われても…」
「わ、私との話は終わったと思いますし…行って来たらいいと思いますよ?」

事を荒立てたくないがため、そうオススメしておく。
ノアちゃんは見た目に反して根も葉もない噂を立てちゃうようなワイルドな子だからね!
ここで機嫌を損なわせて後々めんどくさいことに巻き込まれるのはゴメンだからな!
しかし豆腐小僧ときたらまたノアちゃんを見て私に視線をやり、首を横に振りやがった。

「すみません、やっぱり今日は止めておきます」

私が優しくアドバイスを(保身の為に)したっていうのに、豆腐小僧は拒んだ。
なんでだ!
やめてよ、ノアちゃん怒らせちゃったらそのとばっちりは誰に来る?
確実に私ですよね!?
ノアちゃんを怒らせたっつって六年生が束になって殺しにかかってきたらどーすんの!

「…あ、もしかして天女様もあの噂をお聞きになったんじゃないですか?」

私が内心盛大に焦りまくっていると、不機嫌さをまんま外に出しているノアちゃんを見ていた豆腐小僧が口を開いた。

「え?」
「ほら、和花さんが下級生を誑かして怪我をした…なんていう噂ですよ」

するとその豆腐小僧に納得したのかたけざえもんも話に乗ってきた。

「ああ、確かにその噂を聞いたら和花さんのこと疑うのも仕方ないですけど…あれは出鱈目ですから気にしなくても大丈夫ですよ」
「和花さんは悪い人では無いですから!」

…どうやら豆腐小僧とたけざえもんの話を聞く限り、この2人はノアちゃんが噂を聞いて鵜呑みにしているから私を冷たい目で見てると思ったらしい。
ちがうよー!
この子は私が邪魔な存在だから睨んでるのよー!
むしろこの子がその噂の発祥なのよー!

「…なんで、その噂がデタラメって分かったの」

ノアちゃんがそう言う。
ちょ、待って。その言い方じゃ自分が出鱈目な噂流したって言ってるに変わりなくない!?
だけど豆腐小僧もたけざえもんもそこに気に止めた様子もなかった。

「それは…実際話してみて、和花さんはそんな方では無いと思いましたし」

な?とたけざえもんが豆腐小僧に同意を求めると豆腐小僧も頷いた。

「……ふーん」

如何にも面白くないとばかりな顔でノアちゃんが言った。

「…じゃあ、2人とも町には行かないの?」
「はい」
「すみません」

改めてノアちゃんが聞くも、豆腐小僧もたけざえもんも意見は変えなかった。

「じゃあもういいっ!」

つん!という擬音語が似合うような感じでノアちゃんは踵を返した。
う、うわー、怒ったってわかりやすいよお嬢ちゃん!

その姿を目で追っていた豆腐小僧とたけざえもんはさほど焦った様子もなかった。

「…なんか怒らせちゃったか?」
「あー…みたいだな」

私とノアちゃんの間で発生したピリピリ感などつゆ知らずと言ったように話す2人。
みたいだな、じゃねえよ!
怒らせたんだよ!気付けっ!

「あれ?どうしました?」

豆腐小僧が私の方を振り返って聞いた。
キレてやりたいけどここで怒りをぶつけたところでノアちゃんが怒ったことが変わるわけでもない。
あと私チキンだから切れることも出来ない。
だからあやふやに笑って誤魔化しておく。

「イヤーナンデモナイデスヨ」
「はぁ…?」

不思議そうに首を傾げる豆腐小僧とたけざえもん。
こいつらいい子じゃないか!とか思ったのは撤回したい。
もう少し空気を読めよ、忍たまなら!

「…そう言えば八左ヱ門は何で天女様の誘い断ったんだ?」

思い出したように豆腐小僧が言った。

「俺は和花さんと豆腐の話がしたかったから断ったけど、何か理由でもあったのか?」

豆腐の話って。
なにその盛り上がりそうにない話。

「あー…」

聞かれたたけざえもんは歯切れ悪そうに声を出した。

「…なんというか、あの天女様とはあんまり一緒に居たくは無いんだよなぁ」
「え?そうなのか?」

豆腐小僧が意外だみたいな顔になるが私も少し驚く。
ノアちゃんに対して危機感とか持ってなさそうだったのに。
私と豆腐小僧の表情を見てかたけざえもんは慌てたように首を振った。

「別に嫌いとかではないんです。なんと言うか…示しが付かないと言うか…」
「示し?」
「兵助は知ってるだろ?前に生物委員が天女様に怒られたこと」

そうたけざえもんが言うと豆腐小僧は思い当たる節はあるのか頷いた。

「和花さんがこの間見付けてくれた毒蛇のジュンコが前にも逃げたことがあるんですよ。その時は天女様と六年の先輩方にも話が広まってしまって、天女様に危害が加わったらどうするんだって怒られたことがあるんです」

たけざえもんが私の方を見て言ってくれたが、その話は聞いたことがある。
確かジュンコ探しを手伝う時に孫兵くんから聞いた気がする。

「その時から他の生物委員はみんな天女様が苦手になったみたいで。下手に関わったらまた怒らせて、六年生の先輩達から怒られるんじゃないかって」
「だから天女様の誘い断ったのか?」
「ああ…下級生達が苦手な天女様と俺が楽しく出掛けるって言うのも気が引けるだろ?」

驚いた顔で豆腐小僧が聞くとたけざえもんは苦笑して答えた。
示しが付かないっていうのはそういう事か。
なんだたけざえもん、後輩思いじゃないか。
いいやつじゃないか。

「…優しいんですね」
「え?」

そう言ってみたらたけざえもんは照れたように「そんなこと無いですよ」と頬を掻いた。
いや少なくとも下級生が怖がるほど怒る六年生よりかは数百倍は優しいぞ。

「あ、なら八左ヱ門も和花さんと話さないか?」
「は?」

豆腐小僧が急に提案した。
やべ、反射的に「は?」とか言っちゃった。

「いいのか?」
「俺は構わないよ。和花さん、八左ヱ門も一緒でも構わないですか?」
「え、いや、その」

話を振られて焦る。
構うとか構わないじゃないよ!?
今さっきノアちゃんを怒らせるという面倒ごとに巻き込まれたってーのにこれ以上関われるかい!
慌てる私を他所に、2人はどんどん話を進めやがる。

「ここじゃ何だから移動しないか?」
「えっ」
「そうだな、立ち話も何だし」
「いや、」
「食堂は?この時間なら空いてるだろ」
「だから…」
「じゃあ食堂にするか!」
待てぇい!

勝手に話を進められほぼほぼ決定しかけたのを声を荒らげて止める。
2人ともぽかんとした顔するんじゃないよ!

「どうしたんですか?」
「い、いや、だから…わ、私、予定あって!部屋に戻らなければなんで!」

咄嗟に言い訳が口から出たけど間違いではない。
部屋に帰れば土井先生から押し付けられた大量のドリルがあるんだからな!

「あ、そうですよね!和花さんもご予定があるはずなのに勝手に決めたら駄目ですよね!すみません」

豆腐小僧が謝った。

「い、いやこちらこそすみません…では、私はこれで」

頭を下げてそそくさと逃げる。
そうだ、長話なんてしてたらマズイんだ。
これ以上ヘタに関わっているのを知られたらノアちゃんの周りに蔓延る六年生になにされるか!
ただでさえさっき機嫌を損なわせちゃったのに!

「あっ、和花さん!」

豆腐小僧に呼び止められた。
なんだよまだなんかあんのかよ!

「何時ならお時間ありますか!?さっきも言いましたけど、和花さんとお話したいんです!」
「(遠慮したい)え、えぇー…?」
「もっと豆腐のこと話したいですし……あっ、俺の豆腐料理食べてみてくれませんか!?」
「(激しく遠慮したい)は、はは…機会があったら…」
「俺は何時でも大丈夫ですから!和花さんは何時ならお時間ありますか!?」

なにこいつグイグイくる!
時間なんかねーよ!
時間が無いというか、お前に割く時間はねーよ!

「兵助、あんまり和花さん困らせるなよ」
「でもちゃんと決めて置かないと有耶無耶になるだろ?」
「あー、そりゃ確かに」

合理的だな豆腐小僧め!
「それで、何時なら良いですか!?」とか言ってこっちを見てくる。
こりゃあ何かしら答えないと引き下がらない顔だ。
ど、どうしようか。
…怪我も治ってから結構経つし、たぶん、あと一週間くらいで出られる手筈だったはず。

「…10日……くらいあとなら…」

それ位なら忍術学園からオサラバしてるだろうしな!

「10日ですか…だいぶ先ですね」
「無理してまでご馳走してくださらなくてもいいですy「いえ!大丈夫です!和花さんに食べて頂けるのを楽しみにしてますから!」

ええええ、なんなんこいつ。
ぐっと拳を握ってやる気に満ちた顔している。
何を持ってそんな私に豆腐を勧めてくるの。
ああ、これも全て私が豆腐好きだと勘違いされてるせいか。ちくしょう。
まあどうせ出ていくだろうしその約束はお流れになるだろうけどな!

「その辺にしとけよ兵助。和花さん予定があるって仰っただろ」
「あ、そうだな。すみません和花さん」
「い、いいえ…じゃあ今度こそこれで…」
「部屋に戻られるならここを出て中庭を通っていかれた方が早いですよ」
「えっ?あ、そうなんですか…ありがとうございます」

たけざえもんにそう言われ、礼を言った。
授業中だから廊下でも中庭でも人にはそう会わないと思うけど、出来るだけ早く戻れた方がいいし。
とりあえず、ありがたい情報だ。

頭を下げ今度こそ本当に豆腐小僧とたけざえもんと別れた。

「(あ゛ー……つっ…かれたぁぁ…!)」

部屋に帰ったらもう二度と外に出ない勢いで籠城してやるからな…!
と考えつつ中庭に降り部屋に向かった。




つづく