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  授業にまーぜて☆


シナ先生と初めて会ってから4日、ついにくのたまの皆さんと化粧の授業を受ける日が来てしまった。
くのたまの子達はカワイイ子ばっかだけど強いもんなぁ…性格的に。
体力面は忍たまに劣るのは仕方ないけれど、その分くのたまは強かだ。
いつの時代も女は強いもんだ。
私のメンタルは豆腐だけどね!
豆腐メンタルな私がくのたまさん達と仲良く出来るんだろうか。

…豆腐メンタル…。
いや、豆腐っていうと豆腐小僧を思い出すから止めとこう…。



「はっ!」

裏山で実技演習をしていた五年。
そこで急に久々知が振り返った。

「どうした?兵助」

そんな久々知を不思議に思った竹谷が聞く。

「今…豆腐の話の気配がした気がする…!」
「…どんな気配だよ…」

理解し難いことを言う久々知に五年全員が呆れ顔になった。



「という訳で、今日は和花さんも一緒に化粧の授業をしていきます。みんな仲良くしてね」

シナ先生に促されてカッチコチになりながら頭を下げる。

「ふ…不束者ですが…よ、よろしくお願いします」
「「「はーい…」」」

揃って返事をしたくのたまさん達。
くのたまの子達とは今日初めてお会いしたけど、いやーこっちが悲しくなるくらいみんなとても可愛いね!
可愛い…んだけど、いかんせん表情が硬いのが悲しい。
私がシナ先生の隣に立って挨拶したってのに、まあみんな声に張りがない!
みんなの目が、目が!目が冷たい!
くのたまに天女は受け入れられにくいってのはなんとなく理解してたけどこれ程とは!
私が引きつった顔をしているとシナ先生が困ったように手を叩いた。

「みんな、そんな顔しないの!」
「…でも山本先生。その人、天女様なんですよね?何故私達と天女様、一緒に授業を受けるんですか?」

そう手を挙げて言ったのはユキちゃんだった。

「天女様は忍たま達とただ遊んでいれば良いんじゃないですか?」
「(おおう…厳しい…)」

トモミちゃんが発する言葉は刺を帯びてらっしゃった。
しっかりしてるトモミちゃんだからこそ、浮ついてる天女様は攻撃(口撃)対象なんだろう…。
ひええ、やっぱ女の子はこわい!

「トモミちゃん、そんな事は言わないの」
「でも!」

シナ先生が宥めるように仰って下さるも、やっぱりトモミちゃんは天女様否定派のようだ。
私がトモミちゃんの方を見るときっ!と睨まれる。
わ、分かるよ、得体の知れない女がいきなり授業にまーぜて☆って言ってきたら嫌だよね!

「す…すみません、ご、ご迷惑おかけするのは重々承知ひておりまふ……(やべぇ噛んだ)」

私が何言っても墓穴を掘るだけだと思うけど言い訳もさせて頂きたい。
噛み噛みな上しどろもどろだけど、私が忍たまの方々とよろしくしたい訳では無いという事だけは分かってもらいたい。

「そ、その、私は早くここから出て自立したいと思っておりまして、その、そのために一刻も早くこの時代の常識?を教えて頂きたいだけでありまして…周りの方々にも余り関わらないようにと言われていますし、私の方も出来るだけそれを遵守出来たらと思ってます…。あ、あと一週間もすれば後腐れ無くでて行きますので、どうか今回ばかりは大目に見て下さい」

もう背中を馬跳びで飛べるよってくらい頭を深く下げる。
確かに今まで忍たまと絡む機会はあったけど、仲良くしたいと思って近寄った事は無い。…はず。
今の私がしたいのは忍たまと仲良くする事じゃなく、外でひとりで生きていく為に知識をつける事だからね。

「…という事だから。お互いにあまり肩に力は入れないで」

「ね?」とシナ先生が後押ししてくれるように仰って下さるとみんなの表情が少しだけど和らいだ気がした。
す、少しは思いが伝わったんだろうか。
安心してると、それを感じ取ったのかシナ先生は微笑んだ。

「じゃあ授業始めるわよ!」

そう言ってシナ先生は手を叩いた。

「和花さんは…そうね、そこの席に座ってくれるかしら。ユキちゃん達と同じ所ね」
「よ、よろしくお願いします…」

シナ先生に促されるまま、ユキちゃんトモミちゃんおシゲちゃんの座る長机の端に座る。
図ったようにね、このグループに入れられちゃうのね。
おずおず?むしろオドオドとしながら挨拶すると3人も頭を下げてくれたけど表情が固いままだ。
やだぁー超気まずいー☆

「(こんなんでこの授業、やってけるんだろうか…)」

内心でため息をつきながらもシナ先生の話を聞いた。



「…説明はこのくらいかしら。それじゃあ皆、実践に移っていきましょう」

シナ先生は丁寧な説明のあとそう仰った。
机の上に1人1セット化粧道具が置かれてて、話を一通り聞いてからおのおので化粧をすることになった。
くのたまのみんなはさすが女の子、あれだけギスギスしていたかと思いきや化粧の授業が始まるやいなや目を輝かせて聞き入っていた。
ちょっと安心。
周りのキラキラした顔の子達を見て、私もそんな時期があったなぁ…とか昔を懐かしむ。

大人になった今じゃ通過儀礼みたく、化粧は流れ作業になってるもんね。
あ、今は子どもか。
まあとりあえず、そんなこんなで自分で化粧する事になった。

「(白粉とか口紅とか、平成と大差ない感じで助かったなー)」

入ってるケースだとかハケだとかはもちろん違うけれど、大元はあんま変わらないようだ。
それがホントの室町時代の化粧方法なのかそれとも忍たま乱太郎の世界だからなのかは分からないけど。

「(…にしても若いってすげぇなぁ)」

鏡に写った自分を見てつくづく思う。
ほんとの15歳の時なんてメイクのメの字も知らなかったけど、こんなにも化粧のノリが良いとは!
15歳なんて化粧なんか必要ない年だけど、働く上ではしゃーないもんね。

「(…さてと…こんなもんですかね)」

白粉つけて紅もつけて、言われた通りくらいの化粧は出来た。
ひえー、肌のハリが違うっ!
若いって素晴らしい!

「わあ、お化粧お上手ですね!」
「うぇ!?」

鏡でまじまじと顔を見てると、ユキちゃんに声をかけられた。
見ると目がやけに輝かしい。おシゲちゃんも同じ顔してた。
ま、まさか話しかけられるとは思ってなくてびびる。

「そ、そう、ですかね?」
「そうですよ!そうですよね、山本先生!」
「あら、和花さん上手じゃない」

ユキちゃんがシナ先生を呼んだ。
あ、あろうことかシナ先生からもお褒めの言葉を授かっちゃったよ!
まあ化粧は数年毎日してますからね。ただの慣れですよ!

「あ、ありがとうございます…恐縮です」
「男子を誑かすためなら化粧なさるのは当然ですもんね!」
「と、トモミちゃん!」

トモミちゃんからまた言葉の槍が飛んできた。
ユキちゃんとおシゲちゃんが宥めるも、トモミちゃんのアンチ天女様は止まらない。

「今いる天女様だってそうじゃない!他所から来たってだけで、何かするわけでもなく居座ってちやほやされて!」

それに触発されたように、他のくのたまさんたちも口々に声を出し始めた。

「そうよ、私たちには見向きもしなくて忍たまの上級生とだけつるんで!」
「忍たまも忍たまよ!誰も彼も腑抜けた顔してるんだから!」
「噂じゃ委員会もろくに始動してないって話よ?」
「なにそれ!馬鹿じゃないの!?」

ひ、ひえぇー!悪口合戦やー!
騒がしくなった教室内に慌てていると、あろうことか矛先が私に飛んできおった。

「どうせ貴女も、あの人と考えてることなんて同じなんでしょ!」
「えっ!?い、いや、その」
「別の時代から来たとか言ってますけどそれの何が凄いんですか!?」
「い、いや特に何も凄くはないかと…」
「男と遊びたいんなら遊郭で働いたらどうですか!」
「(うわぁひでぇ)」

ひどい言われようである。
べ、別に私は男と遊びたいわけじゃないのに!
一人でひっそりと生きていきたいだけなのに!
ど、どうするべきなのこんな時は!?
私が滅せればいいのか!?
滅する!?どうやってだ!

静かにしなさい!!
「「!!」」

びりびりと障子が揺れるくらいの声でシナ先生が怒鳴った。
それに驚いて一同シーンとなる。
みんなの視線が一様にシナ先生に注がれると、シナ先生は深くため息をついた。

「…あなた達が不満を持っているのは分かるけれど、それを和花さんに発してどうするの。彼女は今はまだ何もしてないわ」

そう言ってはくれたけど、「今はまだ」なのね。
何かしでかさないとも思ってないってことですよね。

「…すみません」

くのたまの皆が口々に謝った。

「ごめんなさいね、和花さん」
「あ、い、いえ…」

シナ先生も謝って下さるも、逆にこっちが忍びなくなる!

「さっきも言っていたけど和花さんは学園外に出るためにこうして授業に参加してもらっているの。交流も控えてもらっているし、あなた達が杞憂していることとは和花さんは関係ないはずよ」

だからそんな態度は取らない!と仰ってくださった。
な、なんと心強いことか。
先生方はフォローを入れて下さる、本当に素晴らしい人たちばっかだ。
私も大人だ(った)って言うのにこの違いはなんでしょうね!




…それからは大した騒ぎも荒れもなく授業は終わった。
くのたまの子達は化粧そのままに町へ出かけたりするみたいだけど私はすっぱり落として教室を出た。
あーあ、結局くのたまの子たちと仲良くするなんて到底無理でした。
でもシナ先生のおかげでギスギスしたのは途中までだったし、なんとか授業は終えられたから良かった…かな。

「(…いや、そこは前向きに考えないとだ。そうだよ、化粧はなんとなく分かったし外出るための1歩になったぞ!)」

文字の読解もね、当初に比べたら成長してる気がするし!
もうほんと、さっさと出て行きたいです!
メンタルが打ち砕かれそうです!

「和花さん!」
「ひぃっ!?…て、あれ?」

部屋に戻るために廊下を歩いていたら、急に声を掛けられ驚く。
振り返るとそこにはユキちゃんトモミちゃんおシゲちゃんが立っていた。

「ど…どうしました?」

あ、まさか呼び出し?今から裏庭行ってボコすのですか!?
シナ先生が居る手前は静かにしてたけど内心憤怒の炎が燃えてたってことですか!
え、どうしよう!?
…なんて思いながらユキちゃんたちの出方を伺っていると、気まずそうに互いに顔を見合わせた後、ユキちゃんがばっと頭を下げた。

「すみません!」
「お、おえぇ?ど、どうしたの?」

いきなり謝られ変な声が出てしまう。

「…さっきの授業中、和花さんに対して酷いことを言ってしまって…」
「山本先生も仰っていましまけれど、和花さんは何もしていらっしゃらないのに…」
「あ、ああ、そのこと。いやいや気にしてないよ。部外者なのは本当のことだから」

まさかわざわざ謝りに来てくれたとは。
左近くんといい、みんな律儀でいい子なんだなぁ。

「私も…すみませんでした」

トモミちゃんも頭を下げてくれる。
顔はまだちょっと納得いってみたいだけど。

「大丈夫だよ。…でも確かにね、誑かすとかつるむとかって言っても私には無縁と言いますか…その点は安心して。私、上級生からは嫌われてるらしいから」

あははーと笑うと三人が揃って「えっ」という顔になる。

「そ、そうなんですか?」
「ああ、まあ…直接は会ってないけど、『会ったらぶっ飛ばす』って言ってたの聞いたし

本当、物騒なことだ。

「だから出来るだけ早く出て行って仕事見つけたいし、そのために色々学んでる最中なんですね。今日の化粧もしかりだけど」
「ちょ、ちょっと待ってください。上級生からそう思われてるなんて、和花さん、何かされたんですか…?」
「いや、なんにも…。でもなんか変な噂を流されてるみたいでねー。困ったもんだよ」

下級生を守ったつもりなのに誑かした扱いされちゃたまったもんじゃないよね!

「まあとりあえず嫌われてるってわけで、ぶっちゃけ会いたくないし刺激もしたくないんだよね」

ちなみに化粧をさっさと落としたのもちゃんと理由がある。
もし化粧した顔を見られてね、さっきのトモミちゃんじゃないけど『こいつ媚びうるために化粧してやがるぞコロセー!』ってなったらたまったもんじゃないからね!

「「「…」」」
「…えっ、どうしたの?」

ユキちゃんたちの顔が引きつった。

「本当にすみませんでした…思い込みでひどい事を言ってしまって…」
「えっ!?あ、い、いや…大丈夫」

トモミちゃんから心からの謝罪がきた。
な、なんでだ?
…まあ私が上級生どもを誑かすような気がないって分かってくれたならいいんだけどさ。

「とにかく、予定ではあと一週間くらいで出ていくつもりだから。それまではお邪魔になるけど、よろしくお願いします」

話を締める感じでそう頭を下げたら、「お邪魔なんてそんな!」と口々に言ってくれた。

「…でも、凄いですね。ここを出たらお仕事を探されるんですよね?」
「え?ああ、うん。一応ね」

手に職なきゃのたれ死ぬもんな!それはいやだ。

「でもこの年なら働きに出てもおかしくないし…」

平成の世ならともかくここは室町だ。
自分が居た時代の常識じゃなく、ここの常識で考えなきゃだめだ。

「いえ、そうではなくて…元の世界に戻りたいとかは思ったりしないんですね」
「えっ?」

元の世界に、戻る?
ユキちゃんの言葉に体がフリーズした。

「ゆ、ユキちゃん!和花さんにも何か事情があるかも知れないんだから!」
「え?あっ、す、すみません!」

トモミちゃんに制されたユキちゃんに慌てて謝られたけど私の頭の中はそれどころじゃなかった。

帰る?って、どこに?
平成に?…私がいたところに?
帰る…帰…。

「そ、それだああ!
「「「!?」」」
「そうかそれがあった!いやー帰るなんて微塵も考えてなかったなぁ、それだったら働き口見つけなくても良かったじゃないねー!」

帰るっていう考えが今まで頭から逸脱していたことに笑えるけど、帰れるならそれに越したことない!

「いやー気付かなかった!ありがとうね、教えてくれてっ!」
「い、いえ…」

若干ユキちゃんたちが引いてたのは見なかったことにしよう。
しかしそれどころじゃない!
私は今、一筋の希望を見据えられたんだから!

「それじゃあ!短い間でしたがお世話になりましたっ!」

しゅばっ!と手を挙げ別れを告げる。
せっかくいろんな人と知り合えたけど、やっぱ自分が巻き込まれるのはあれだもんな。
放任かもしれないけど画面越しで眺めてるほうがいいよ!
画面越しなら自分の身は安全だからな!

…あれ、でもどうやって帰るんだ?
まあいいや、先生の誰かにでも聞いてみようか。
帰りたいって言うんなら喜んで教えてくれるはずだ。
明日には平成の世に戻りテレビ越しでまた忍たまを見ようじゃないか!

「ヒャッホウイ!帰るぞー!


元気よく駆けていく和花の後ろ姿を見て、くのたまの三人は呆気に取られた顔をしていた。

「…なんか…すごい人ね」
「でも悪い人じゃ無さそうですよね」
「変わってるけどね」

そう言い、互いに顔を見合わせて苦笑した。




つづく