人生波乱万丈! | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


  良くない噂


授業終了の鐘が鳴った。
座りっ放しで固まった背筋を伸ばし一息ついてから教室を出る。

俺が委員長代理を務めている生物委員会に属している伊賀崎孫兵から、ペットのジュンコがまた居なくなったと聞いたのは今朝のことだ。
生物委員で世話してる動物達が居なくなって探すのは日常茶飯事だが今は事態が違っていた。

「八左ヱ門!今から委員会だろ?」
「良かったら僕らも手伝おうか?」
「兵助、雷蔵…」

後ろから声を掛けてきたのは久々知兵助と不破雷蔵だった。

「悪ぃ、助かるよ」

礼を言うと、兵助も雷蔵も笑った。

「いいってこれくらい。早く見つけないとダメなんだろ?」
「そりゃあな…」

兵助の言葉に苦笑する。

この間…つい1週間くらい前にも今日みたいにジュンコが居なくなって生物委員で探していた。
その時偶然六年生の先輩方と天女様と会い、ジュンコが居なくなったと説明した。
はじめは普通に話を聞いていた天女様だったけど、ジュンコが毒蛇だって分かるや否や顔を青くして怖がり出した。
…そしたら見る見るうちに先輩たちの目の色が変わった。
曰く天女様に危害を加えたらどうするんだだの、なんで毎回逃がすんだだの今までに見たことがないくらいの剣幕だった。
そんな勢いで怒られたもんだから三年生の孫兵だけじゃなく一年生の四人はより震え上がっていた。
そういう俺もかなりビビってたんだけど。
特に飼い主の孫兵は顔が真っ青だったのを覚えている。
その時はなんとか必死に探して見つけ出したけど、それから生物委員会の顔触れが天女様どころか六年生にも畏怖を感じるようになった気がする。

それがあって、今日またジュンコが居なくなったと聞いた時頭が痛くなった。
俺よりも孫兵が絶望とでも表現出来る顔になっていたんだが。

「…でも、毒蛇が逃げたって言われたら忍術学園の人じゃない天女様は驚くのは仕方ない事だよね」
「まあ…それはそうかもだけどよー」
「だったら怒られても仕方が無かったんじゃないか?」
「…あぁ…」

雷蔵が眉を下げて言ってきて、うまく返事が出来なかった。
ここのところ雷蔵はやけに天女様のことを庇ってる気がする。
それが悪い事とは思わねぇけど、少し六年生の先輩方と同じような感じがして気が気じゃない。

…まあでも雷蔵の言う通り、忍びでもない女なら蛇を怖がるのは当たり前なことだもんな。

「とにかく、探しに行かないか?」
「…ああ、そうだな」

兵助に言われ、俺達は揃って廊下を歩き出した。


「あれ?」

廊下を歩いていると、ふと雷蔵が声を出した。

「どうした雷蔵?」

そう聞くと雷蔵はほら、と言って前方を指さした。

そこには孫兵がいた。
その首にはしっかりとジュンコがいる。
なんだ見付かったのか!

「孫兵!」

俺が声を掛けると孫兵は振り向いた。

「竹谷先輩!それに久々知兵助先輩…と、不破雷蔵先輩?それとも鉢屋三郎先輩ですか?」

不破雷蔵だよ、と雷蔵が笑って答えるのを待ってから俺は孫兵に向き合う。

「ジュンコ見付かったんだな!」

そう言うと孫兵は心底嬉しそうに「はい!」と返事した。
六年生や天女様に知られる前で本当良かったな…。

「よく見付けたな。どこにいたんだ?」
「床下です。廊下に隙間があってどうやらそこから潜り込んでしまったらしくて」

床下って、そりゃあ簡単には見つからない筈だ。

「床下に居たってのによく見つけたな」
「見つけたのはぼくじゃないんです。天女様が見つけて下さったんです」
「天女様?」

孫兵の言葉に驚いた。
それは兵助も雷蔵も同じようで、3人で顔を見合わせた。

「天女様ってジュンコを怖がってたと思うんだけど…」
「いえ、見つけて下さったのは新しい天女様なんです」
「新しい…って、あれか?よく三郎と兵助が話してる」
「和花さんか!」

途端に目を輝かせた兵助に苦笑うしかない。
新しい天女様が来たと初めに教えてくれたのは三郎だが、兵助もその天女様に会ったらしくそれから良く話を聞かされていた。
やれ豆腐を理解しているとか素晴らしい人だとか、豆腐を理解しているとか豆腐が豆腐が豆腐が…ってやっぱり基本は豆腐らしく聞いてるこっちが頭痛くなりそうで若干参ってる。
少しは自重ってもんを知って欲しい。豆腐に関しては。

「名前は伺わなかったので分からないですけど…でも、全身ホコリと土に塗れてまで床下に入って見付けて下さったんですよ!」
「新しい天女様がそんなことを?」
「へえ、そんな人も居るんだな」

半ば感心してしまう。
なんせ元からいた天女様は着物を汚すのが嫌いみたいで、一度食堂で何年生か忘れたが生徒に汁物を零された時は半狂乱になったと聞いた。
まあ女子だし衣服が汚れるのが嫌なのは共通してんだろうな、と勝手に思ってた。
でも新しい天女様は違うみたいだな。

「やっぱり凄い人なんだな和花さんは!」
「分かったからお前は少し落ち着け」

興奮気味な兵助を宥める。

「でも…新しい天女様って、良くない噂があるあの人の事だよね?」
「え?」

急にそう言った雷蔵を見ると、考え込むように口元に手をやっていた。

「良くない噂?ってどういうことだ?」
「いや…前に中在家先輩からお聞きしたことがあるんだ。新しい天女様は非道な奴だ、下級生に取り入ろうとしたけど先生に見付かって罰を受けて、養生のために医務室で世話になっているって」

その言葉に俺も兵助も孫兵も驚いた。
三郎から聞いた話だと、確かに新しい天女様は医務室の横の部屋で怪我の手当をしているらしかった。
それが何の怪我かは聞いてなかったが、まさかそんな理由があるなんて。

「それ、本当のことなのか?雷蔵。まさか和花さんがそんなことするなんて…」
「さあ…僕も直接見た訳じゃないから。…でも先輩たちが仰ったことなら嘘とも思えないし…」
「で、でもジュンコを見付けてくださったあの人はそんなことするような人には思えなかったです!」

兵助も孫兵も信じられないようだ。

「そう…だよな。実際に会った孫兵がこう言ってんだし」
「俺も昨日会ったけど、そんな雰囲気は無かったぞ?」
「僕だって孫兵と兵助を疑うわけじゃないけど…だからって中在家先輩が仰ったことを疑うのも…」

そう言って雷蔵はまた悩み始めた。

「…竹谷先輩」

不安そうな顔で孫兵とそしてジュンコに視線を送られ、決める。

「…悩んだってしょうがねぇよな。新しい天女様が非道な人なのかいい人なのかなんて会って話せば分かることだもんな!」

そう言うと困った顔をしていた兵助も表情が一転した。

「そうだよな!俺ももう一回和花さんと話してみたいって思ってたし!」
「…言って置くが兵助、豆腐の話をしに行くわけじゃねぇから」

嬉しそうにしている兵助を一蹴しておく。
いいじゃないか別に!とか喚いている兵助を他所にまだ悩んでいる雷蔵の肩に手を置く。

「悩んでもこれは答えは出そうにないぞ、雷蔵。実際に天女様に会ってみた時に考えよう」
「…そうだね…、そうするよ」

雷蔵も決めたみたいで苦笑した。

兵助たちから話を聞いて、俺も新しい天女様…和花さんだったか?に会ってみたいとも思ってたし。
ちょうどいい機会かもしれないな。




つづく