人生波乱万丈! | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


  とてもシュール


「(いやー…手伝っていい?とは言ったものの…)」

ただいま、ジュンコ探しの孫兵くんのお手伝い中。
自分から言ったというのにジュンコさんがどこにいるか検討もつきません!
孫兵くんと一緒に床下覗き込んだり草むらを掻き分けたりして必死になって探してるんだけど見付からない。

「うーん…どこ行っちゃったもんかねぇ…」

蛇がどこを好んで行くのかなんて分からないし、虱潰しで探すことしか出来ない。
とても非効率的だ。

「うう…ジュンコ…」

見つかる気配がないせいか、孫兵くんがまた涙ぐみ始める。

「だ、大丈夫!見付かるから!というか見つけるから!」
「はい…」

必死に宥めてなんとか泣かずに済んだ。
ほっとしたけど重いこの空気は居た堪れない。

「…き、君はいつもこうやって探してるの?」

場を少しでも取り成すように何気なく聞いてみた。

「はい。いつも生物委員会で…ぼくが所属している委員会なんですけど、よく委員会全員総出で探してます」
「へぇ…」
「今日も授業前に竹谷八左ヱ門先輩と一緒に探してたんです」
「へ、へぇ…」

急に出てきた五年の名前に若干たじろぐ。
三郎といい豆腐小僧といい、五年は六年と別の意味で関わりたくないからな。

…というか、あれ?

「え、先輩も手伝ってくれたんだ」
「はい。…それがどうしたんですか?」

私の質問に孫兵くんは首を傾げた。

「あ、いや…前に先輩たちが委員の仕事?ってのをあんまりやらないみたいなこと聞い…た気がしたから」

いや実際は聞いてないか。
でもこの間、部屋に来た六年がしてた話を聞いてたらなんとなく想像つく。
保健委員会委員長の善法寺伊作が最近は委員会の仕事してないって言ってたし、その事に関して誰も追及しない上に「仕方ない」とか言ってやがったからな。

私が聞くと、孫兵くんは困ったように笑った。

「竹谷先輩は五年生ですから…。五年生の先輩方がまとめて下さっている委員会は今の所は普段通りなんです」
「そうか…」

今のところ、って言葉がちょっと引っかかる気もしたけど。
孫兵くんの言葉から察するに、五年より上がまとめてる委員会がダメということだ。
上級生がカスとか思ってのは間違いだったな。
六年生がカスなのね!
そういや三郎も言ってたっけ、みんながみんな絆されてるわけじゃないって。
六年生と一部だけなら人数的にはそう問題なさそうに思えるけど、最上級生であり尊敬できる先輩があんな状況だから下級生はみんな暗くなっちゃうのかな。

…って何冷静に分析してんだ!私は!
関係ないからね、学園の天女様騒動とか!

「…あれ?」
「うん?どうした?」
「いえ…ここに隙間が空いてるんです」


孫兵くんはその場にしゃがんで指さした。
倣ってしゃがむと、確かに壁と床の間に小さい隙間が空いている。
人は通れそうもないけど、蛇のジュンコなら余裕で通れるくらいの穴だ。

「ホントだ。…この穴ってどこに繋がってるか分かる?」
「たぶん…床下に続いてると思います」
「床下…」

床下といったらさっき孫兵くんと覗き込んだ所か。
こっからじゃ無理だけど、さっき見た所からなら潜り込めそうだった。

「じゃ、もう1回床下見てくる。君はまだ見てない所探してきて?」

学園の間取りもよく分からん私が闇雲に探すより、孫兵くんにめぼしいところ見てもらった方がいいからなぁ。

「は、はい」

私の思いを汲み取ってか孫兵くんは頷いてくれた。
それを見てから私はさっきの覗き込んでた床下のところに向かった。




「うーん…暗い」

床下を覗くが、薄暗いせいかジュンコが居るか居ないかなんて見た限り分からない。
でも人ひとりくらいは通れそうなスペースはある。

「しゃーない、潜ってみるか…」

着物の端をたくし上げて床下に潜り込んだ。
床下は薄暗いけど、幸いまだ真っ昼間のおかげでなんとなく辺りは見える。

さて、ジュンコさんは居られるのでしょうか…。
…つーかジュンコはマムシなんだよね。毒蛇なんだよね。
え、見つけたところで私はどう対処すべきなのだろうか。
噛まれたらやっぱ危ないのか?
…いや、新野先生がいらっしゃるからもしもの事があっても…たぶん大丈夫…たぶん!
斬られた傷でさえ治してくれたんだからね!

「(だから蛇の毒くらいどうってことな、)」

どうってことない、と内心で思ったその時。
なにかがシュルリと目の前に滑り込んできた。

「え」

暗いからはっきりとは見えないけど、細長い胴体にちろちろと見える舌…蛇みたいな…蛇?
え?ジュンコさん?

「………おっ…おったぁぁぁ がつん! あいたぁっ!」

ジュンコ見つけた!とつい反射的に体を起こした。

そしたら見事に頭をぶつけました。
ゆ、床下にいるってこと忘れてました!ばか!

「い、いってぇぇ…」

頭を抑えて縮こまっていると、ジュンコがしゅるしゅると近づいて来た。
私の目の前でその鎌首を擡げつつも攻撃してくる気配は…ない。

「…あなたは…ジュンコさん?だったらあの、孫兵くんが探してたから向こう行きましょう?」

果たして蛇に私の言葉が分かるのか定かじゃないが、そう話しかけてみる。
恐る恐る手を出してみると、這い寄ってきたジュンコはゆっくり手から腕にかけて巻きついてきた。
どうやらジュンコで間違いないらしい。
それはそれでほっとするが、手に巻きついたジュンコに圧倒される。
蛇を手に巻き付けるなんて滅多にないしな!

「(…というかこのまま連れてっていいのかな)」

巻き付いたまま微動だにしないってことは、私に身を委ねてらっしゃるってことかしら。

「…じゃ、じゃあ行きましょうか…」

何故かジュンコに対して敬語を使いつつ、来た道を戻った。

「よっこい…せ!」

なんとか床下から這い出る。
明るい所で再確認するも、うん、この子はジュンコだ。

「よっしゃー…見付かったー…!」
「おや、和花くんじゃないか」
「ひいっ!?あ、せ、先生」

声を掛けられてビビりながら振り返る。
すると私が這い出てきたところの上…部屋の所から、山田先生が出てきた。

「どうしたんだね、こんな所で?…って、その格好は」
「え?って、あれま」

山田先生は私を一瞥して目を丸くさせた。
私もつられて見ると…わぁ、酷いもんでした。
床下に潜り込んでたせいで着物は砂まみれホコリまみれ、そして手に蛇を巻き付けているというね!
とてもシュールな格好です。

「あ、あははー。い、いやぁお手伝いでこの子を探してて…今しがた、この床下で見つけたところなんです」

ジュンコを示して言うと、山田先生は納得したように「そうか」と言った。

「というより、先生はどうしてここに?」
「いや、部屋の床下からなにか物音がしたから様子を見に来ただけだ。それもどうやら君だったようだね」
「あ」

ジュンコを見つけた時思いっきり頭をぶつけたけど、その上の部屋に山田先生がいるとは思わなんだ…。

「…すいません…石頭なもんで…」

頭を抑えてながら謝っていると、後ろから孫兵くんに声をかけられた。

「…こっちには居ないみたいです…、あっ!ジュ、ジュンコ!!」

暗い顔から一転、ぱあっと明るい顔になり駆け寄ってきた。
手を伸ばすと私の手を伝ってジュンコは孫兵くんの元へ戻った。
しゅるしゅると孫兵くんの首元に巻き付くジュンコ。
ああ、よく見る光景だなーなんて安心する。

「どこに居たの!心配したんだよ!!」
「床下に居たよ。思った通りさっきの隙間から入ったんだと思うよ」
「ジュンコ、怪我はない?念のために医務室に連れて行って診てもらわないと!」
「(わー聞いてない)」

孫兵くんはジュンコに再会できた喜びと心配で私の言葉が届いてない感じだ。
さっきと違って嬉しそうにしてくれてるから全然構わないんだけどね!

…そんなことを考えていると、山田先生が孫兵くんの前に降り頭をはたいた。

「心配するのは構わないが、先に言うべき礼があるだろう!」
「え!や、山田先生!いらっしゃったんですか!?」

どれだけジュンコに集中してたのか、孫兵くんは今やっと山田先生の存在に気づいたみたいだ。
山田先生が私の方を見てそう仰った。

「彼女はこんな姿になるまで必死に探してくれていたんだ」
「あ、いやいやそんな…」

ただホコリっぽい床下に潜り込んだだけであって何も苦労とかしてないのだけど。

「あっ、す、すみません!」

孫兵くんが血相を変えて頭を下げた。

「貴女のおかげでジュンコが帰ってきました!本当にありがとうございます!!」
「あ、いえいえ…そんな大したことしてな「ジュンコが見付かったんですから充分に大したことですよっ!!」ご、ごめん」

キレ気味に孫兵くんに言われてしまった。
確かに孫兵くんにとっては重大なことでしたよね!
とにかく、見付かって良かった良かった。

…そうしていると、カーンと鐘の音が響いた。

やっべ、授業終わっちゃった!

「で、では私はこれで部屋帰ります。失礼します」

山田先生と孫兵くんに軽く会釈をしてその場を離れる。


…改めて考えると、結構な人たちと話してないか?
い、いや今回は名乗ってもないし! まだギリセーフ…だろう、うん。
これから気を付ければいいことだしね!

なんて自分に都合良く解釈しながら部屋に向かった。



「優しいお方なんですね、あの天女様は」

急ぎ足で去っていく和花の姿を見送ったあと、ジュンコの頭を撫でながら孫兵が言った。
それを聞いた山田は「そうだな」と頷くも、直ぐに表情を曇らせた。

「…だが、飽く迄も他所から来た者だと忘れないようにな」
「……はい」

その言葉に孫兵は目を丸くさせるが、言いたいことを理解したように顔を伏せ頷いたのだった。



つづく