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  えげつないの?


豆腐小僧に会うという予期せぬハプニングに見舞われたが、あれから何度か食堂のおばちゃんのところへ行くようになった。
もちろん人目のない時に。
誰かに会うなんて望んでないんだから!
人の気配が無いか声がしないか気を配りながら歩くようになったせいか気分は忍者だ。
もっとのびのび歩けるようになりたいもんだよ…。


そして今日も今日とて食堂へ食器を返しに行き、その帰り道。
…何やらまた面倒くさくなりそうな事態に遭遇した。

「ジュンコぉ〜…」
「……」

私の数m先で床に這いつくばっているのは三年い組の伊賀崎孫兵くんですね。
見てそして聞いてわかるとおりペットである毒蛇のジュンコを探しているようだ。

なんで今探してるの。授業はどうしたんだ少年。

「(ああもう、会わないようにしたくても部屋までの道ここしか知らないし!)」

通りたくても廊下を占領するように孫兵くんが伏してジュンコを探している。
通ったら必然的に関わることになってしまう気がする!

「(だからって違う道行ったらなぁ…)」

そんなことしたらまた迷う気がする。
それは断固阻止したい。

どうすべきか…と考えていると孫兵くんが肩を落としながら立ち上がった。
どうやらここには居ないと判断したらしい。
ようやく退いてくれたな…と思ったらはた、と目が合ってしまう。

「(やべ)」

なんて思ってたら孫兵くんはきょとんとした顔をした…のも束の間、みるみると顔色が悪くなってきた。
青ざめてる?
えっ、私を見て?

「てっ…天女様っ…!?」
「あ、ど、どーもー…」

ど、どうやらこの子も天女様に対して悪い印象があるようだ。
私が軽く挨拶している間にも孫兵くん整ってる顔の色は悪くなり、頭取れちゃいますよー!って勢いで頭を下げ始めた。

「す、すみませんすみません!すぐに見付けますから!すみません!」
「お、おおう…?」

孫兵くんは天女様に対して何かトラウマでもあるの?ってくらいの慌てようだ。

「早く見付けないと…!も、もう天女様にはご迷惑かけませんからっ!」
「え?い、いや落ち着いて落ち着いて!?君とは初対面ですよね!?私、君に迷惑とかかけられたことないから!落ち着いて!?」

可哀想なくらい慌てるもんだから宥めてしまう。

「そ…そうでした…すみません…」

ようやく我に返って孫兵くんは頭を下げた。

「あ、いやいいんだよ…落ち着けて何よりです。そ、相当慌てちゃってたね…」

苦笑すると、孫兵くんは俯いてしまった。

「…すみません…その、前に一度、もう1人の天女様に迷惑をおかけしてしまって先輩方に怒られてしまったことがあって…」
「そ、そうだったのか」

聞いてもないのに話してくれた。
というか、先輩らに怒られてあれほど怯えるくらいトラウマってどんだけ叱られたんだ。
何をしちゃったんだ。
綺麗な顔して実はえげつないの?この子は。

「ぼくはただ、ジュンコを探していただけなのに…そんな危ないもの、天女様がいるんだから目を離すな、万が一があったら責任取れるのかって言われて…っ」

孫兵くんはぽつぽつと独り言のように語り出した。
話していく内に語尾が震えてくる。

わ、わぁ泣いちゃう泣いちゃう!

「な、泣かないで!その、なんて言うか…詳しいことは分からないけど、先輩の人たちはちょっと周りのことに盲目になってるだけじゃないかなぁ!?だからちょっとその天女様に対して過剰になってるだけで…ほら、君は悪くないよ!泣かないで!」
「すみません…」

必死にフォローしたおかげかなんとか孫兵くんは涙を引っ込めてくれた。
よ、よかった。

というかまた先輩…。
下級生がこんなになるまで怒るって酷いことしよるな。
えげつないのは孫兵くんじゃなくて上級生じゃないか。

「…今日もジュンコが居なくなって…天女様や先輩方にそれが伝わる前に探し出さないとまた怒られてしまうかもしれなくて…先生方に頼んで、授業を抜けさせてもらって探していたんです」
「え、授業抜けるってそこまでして!?」

授業中にも関わらずここにいるのはそんな理由があったからなのか!

「はい…」
「そ、そうなのか…」

しゅんとした顔で孫兵くんが言った。

なんでこんな可愛い子を追い詰めるかなー!
確かに年相応に恋とかして盲目になるのも分かるけれども。
プロ忍に近い奴らでも14、15くらいになりゃ女の子に現を抜かすのは仕方がないかもしれないけれど。
だからって周りに迷惑かけていいわけじゃないよな!

「…おかしな話を聞かせてしまってすみませんでした……ぼくはジュンコを探さなければならないのでこれで」
「あ、ああ…」

ぺこっと頭を下げて孫兵くんは立ち去ろうとした。
それを見送ろうとしたけど、その背中が寂し過ぎる…!

「…わ、私も手伝おうか?」
「え?」

そう声をかけたら振り向いた孫兵くんの顔は驚いていた。
関わらないべきなんだろうけど、今は上級生どもは居ないし少しくらい手伝っても大丈夫…だろう。たぶん。

けれど孫兵くんは眉を下げて視線を落とした。

「…いえ…その、ジュンコは毒蛇ですから…」
「あぁ…え?で?
「えっ?」

なんでそこで驚いた顔になるんだ?
ジュンコが毒蛇だって言われてもそれがどうしたんだろう?

「え?って、なに?…結局手伝わない方がいいの?というか何に驚いてるの?」
「あ…いえ…貴女は毒蛇だと聞いても驚かないんですね」
「え?…あっ」

そ、そうか!
普通ジュンコとか聞いたら人とか思うもんな!
私は孫兵くんもジュンコも知ってるし、ジュンコが毒蛇のマムシってことも知ってるから驚かなかった…というか驚けなかったよ!
あまりにも当然のことだからなー!

「あの天女様は驚かれてましたから…」
「あ、ああ…そうなんだ…」

…あれ、そういや今いる天女様…ノアちゃんだっけ?
その子は忍たまのことを知らないのか?
…まあそれはどっちでもいいか、関わらないつもりだし!

「…あの…?」
「はっ!あ、い、いやごめん!」

ぼーっとしてて孫兵くんを忘れていた。

「ま、まあ…その、誰にどう名前付けてもおかしくないしさ!それに毒蛇さんでもなんでもあれだけ探してたんなら君にとって大事な子なんだよね?だったら怖がるとか驚くとか以前に見付けなきゃでしょ!」

だから手伝おうと思って!と、慌ててそう言ってみる。
すると孫兵くんは目を見開いた。

えっ、やべ。なんかやっちゃった?
と内心焦っていたら、孫兵くんはまた泣きそうな顔になった。

うげっ!?ご、ごめん、変な事言ったよね!?」

やべーやべー、泣かしたなんて知れ渡ったら上級生どもが我先にと直接抹殺に繰り出してくる!
いや人のこと言えないだろ!とも言いたいけど!

でも、孫兵くんからきた言葉は想像しているものとは真逆だった。

「い、いえ…そんな事仰って下さるなんて、嬉しくて…!」
「え?あ、そ…そうなの?」
「はい。ジュンコはとても大事でとても大切なんです!」
「…そっか」

泣き顔から一転、いい笑顔で孫兵くんは言った。
よかった、嬉しい意味での泣きそうだったのか。
やっぱり泣きそうな顔とか怯えた顔より、笑顔のがいい。

「…じゃあ、探すの手伝っていい?」
「お願いします!」

改めて聞くと孫兵くんは頷いてくれた。

何この子もかわいいなぁもう!
最初は関わらないようにとか思ってたけど、まあ…探すの手伝うくらいいいよね!
見付からなくてまた怒られても可哀想だしね!
なんて自分に都合よく決めながら、ジュンコ探しに出るのだった。




つづく