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  グイグイ来るよ


「貴女は…?」
「い、いや、その…」

私の前には豆腐小僧こと久々知兵助。
はいヤバイですねー久しぶりに上級生と対面しちまいました!
ピンチです!
あああもっと早く皿洗い済ませて部屋に帰りゃよかった!
くそ、なにかこの場を凌げる良い言い訳はないか…!?

「あ、もしかして新しい天女様ですか?」
「げっ」

豆腐小僧に核心突かれてつい変な声を出してしまう。

「『げっ』?」
「あ、い、いや…私ごとき、天女なんて大層な名前で呼ばれる筋合いは無いですし…ただお世話になっているだけで…と、というか何故ここに…?い、今、生徒さん達はまだ授業中だとお伺いしたんですが…?」

やべえいつも以上に吃る。
隙あらば走って部屋まで逃げたいとも思うけど、忍たまに勝てるのだろうか?
しかも上級生、五年生。
ハハッ!無理ぽよよ!(錯乱中)

「ああ、実技の授業だったんですけど思ったより早く終わったんです。そういえばおばちゃんは何処に?」

キョロキョロする豆腐小僧。
どうやらおばちゃんに用があるみたいだ。

「あ、ああ…夕食の買出しに、町へ行かれましたよ」
「そうなんですか!?あー…入れ違いになったのか…仕方無い、次の機会で良いか」

教えると目に見えてガックリしてしまった。
…そう言えばさっき豆腐のことでーとかなんとか言ってたし、十中八九豆腐の話だろう。

「…それじゃあ私はこれで」

話を有耶無耶にしてこの場を去る。…つもりだった。

「そう言えば俺の話が途中でしたよね?否定しなかったから貴女は天女様、ってことですよね?」
「え」

なぜ話を戻すっ!
そのままスルーしやがれよ!

「い、いやー…その天女様っていうのが『他の時代から来た人』という括りなら、私も天女の部類なんでしょうが…」
「やっぱり」

なんで嬉しそうに笑ってんだよ豆腐野郎!
マツゲなげぇな可愛い顔しやがって!

「(…でも、こいつは天女様に対して悪いイメージ持ってないみたいだなぁ…)」

今の天女様を推してるなら私に対して殺意を持ってるだろうし(例:六年生)、今の天女様を苦手としているなら私に対して怯えるだろうし(例:一年生)。
私にも普通に対応してるってことはどちらでもない、天女様に対して興味がある程度なんだろう。緩いな。

「貴女の話は五年ろ組の鉢屋三郎から聞いてたんですよ。…それで!一度貴女にお話を伺ってみたかったんです!」
「お、おおう…」

ぐい!っと身を乗り出してこられ、つい一歩たじろぐ。
嫌な予感しかしねえ。
というか三郎め!お前も土井先生のごとく人に話してんじゃねえよ!
そうしている間にも豆腐小僧は目をキラキラさせている。

「豆腐についてどう思います!?」
「お、おお……うぉう……」

や、やっぱ来たよ豆腐質問!
久々知兵助と絡む出だしは豆腐が好きか否かと相場が決まっている。
豆腐小僧と出会ったのならこの質問が来るのは分かっていた。
分かっちゃいたけど、実際聞かれると答えが見つけられない!
ここで『超好きィ!』とか言えば乙ゲーでいうラブゲージが溜まってしまうんだろうな。
実質、豆腐は食うけど大好き!ってほどでもないし。普通だし!

…そんな私を他所に豆腐小僧は聞いてもないのに豆腐薀蓄を語り始めた。

「豆腐は素晴らしいんですよ!植物性の蛋白質は豊富なのにそれでいてカロリーも低い!消化吸収も抜群で胃にも優しい!栄養素も他に比べ物が無いくらい…」

拳を握りしめなら熱弁される。
止めないとコイツ延々と話し続けるだろうなという雰囲気を醸し出しているから(面倒くさいけど)止める。

「わ、分かった分かったから!落ち着いて下さい!」
「え?あ、ああすみません!豆腐の事となると俺、見境なくなってしまう癖があって…」

頭を掻きながら照れた顔になる豆腐小僧。
くっそなんだよ可愛い顔すんなよもう!

「い、いえ大丈夫ですから…」
「それで話を戻しますけど、どう思ってます!?」

う、うわぁグイグイ来るよ!
しつこいよこいつ!

「いや、その…と、豆腐は…」

こ、困ったぞ、大変困ったぞ。
好きと言えば好感度上がるだけ…いや、下手したら豆腐料理を振舞ってくる気配がする。
これ以上関わりを持ちたくないからそれは通っちゃダメなルートだ。
だからって苦手だと言えば好きにならないのは可笑しい!食べて魅力を感じ取ってくれ!からの豆腐料理。
あ、両方ダメですね。
こ、こうなったらチンプンカンプンなこと言って逃げよう。それしかない。

「と、豆腐…は、わ、私にとって…えー……く、雲……?あ、雲みたいな存在ですねっ」
「雲?」

豆腐小僧が目を丸くさせた。
本当にテキトーなこと言った。
迷子になって歩いてた時、外見たらいい天気だったもので。
真っ白い雲が見えたから、豆腐、白い、雲!…なんて本当にテキトーだ。

「え?あ、うー…そ、そうですね!白くてふわふわで…ふわふわ?…してて…あーもうめんどくs……ははっ!あとはご想像におまかせします☆」
「雲……雲か……」

あ、本当に考え始めちゃったよ。
考えても答えは出ないと思いますよー。
答えなんてないからな!


…そうこうしていると鐘の鳴る音が聞こえてきた。
もしかしなくても授業終了の鐘!?
もたもたしてたら授業終わっちゃった!
やべえ早く帰らなきゃ!

「じゃ、じゃあそういうことで!」

踵を返して帰ろうとする。
のに、豆腐小僧に呼び止められた。

「あ、待って下さい!お名前お聞きしても良いですか!?」

いやです。

…と言いたいけれど言えず。
また田中ハナコとでも言ってやろうかと思うけど、三郎には名前知られてるんだ。
ここで違う名前言ったら後々偽名だってバレた時『なんで偽名なんか言ったんだ嘘つくなよぶっ●してやる!』ってなったら困るし!

「えー…と…拾石和花……です」

渋々答える。

「ありがとうございます。俺、五年い組の久々知兵助で「はーいではさようなら!

豆腐小僧の言葉を遮って食堂を後にした。
なんでこうも五年はアクティブなんだ!慎ましさを知れ慎ましさを!
なんて思いながら部屋への道を急いだ。


「雲…雲か…」

私が逃げ…立ち去った後も、しばらく豆腐小僧が頭を悩ませていたとは気付かなかった。




つづく