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  いい人すぎか!


「ここが食堂だ」
「おお…」

山田先生に案内して頂いて到着した食堂。
あの食堂を実際に目の前にして感嘆の声が漏れた。

「じゃあ私はこれで」
「あ、すみません。ありがとうございました、助かりました」
「構わんよ。余り自分の理解力を過信し過ぎないようにな」
「…精進します」

私が頭を下げると山田先生は笑いながら来た廊下を戻って行かれた。
遠回しに「お前バカだから」って言いたかったのだろうか…。
否定はできないけどね!

「…って、ノロノロしてたらだめだ。授業終わっちゃう」

授業終わりの生徒達に会うなんて即死フラグビンビンだ!
エンジェルな一年生達を庇って死ぬなら本望だけど、悪さしてない(つもりな)のに殺されるのはゴメンだしね!
なんて考えながら食堂に入った。

「す、すみませーん」

カウンターにお盆を置いて怖々声をかけた。
すると奥の方から「はーい」と聞き慣れた声。
うわ、おばちゃんの声!なんて当たり前のことを思っていたら手を拭きながら食堂のおばちゃんが現れた。

…あ、今更ながらおばちゃんは天女様とか私をどう思ってるんだろうか。
どうしよう凄絶に嫌ってたら!
なんて思ってたら、おばちゃんは私の顔を見るやいなや「あらあら!」と笑顔になった。
良かった、悪い印象では無さそうだぞ。

「あ、あの、はじ、初めまして、今ここでおせお世話になっております拾石和花と申します」

吃りつつも頭を下げながら自己紹介する。

「いやだねぇそんな堅苦しい!それに貴女の事は土井先生から聞いているわよ」

またかよ!どんだけ話してんだよ土井先生めっ!
にこにこ笑いながら、おばちゃんは私の出したお盆を下げてくれた。

「あ、その、お礼が遅くなってすみません。いつも美味しいご飯ありがとうございます」
「何言ってるんだい。お礼なら手紙で貰ってるから。律儀なんだねぇ」

左近くんに教わって文字が解読できるまでになったから、お盆に毎回お手紙を乗っけていた。
部屋から出れなかったから、お礼言う機会もなかったからね。

「え、いや…さ、最近ようやく文字を書けるようになりまして…汚い文字ですみません」
「確かに一年生の子たちが書くような文字だったけど」
「ははは…」

まだまだ学ばなきゃなんないようだ。

「でも気持ちは伝わってきたわ。ありがとう」

おばちゃんに丁寧にお礼を言われ、嬉しいんだか恥ずかしいんだかで「いえいえいえ」と首を振ることしか出来なかった。

「所で、もう外を歩いて大丈夫なのかい?」
「あっ、え、いや!も、もちろん生徒さんが居ない時間だけですし、人とは関わらないつもりですから!それにもう少し学ばせて頂いたらすぐに出ていきますので!」

いい訳がましくまくし立てる。
けれどおばちゃんは笑って手を振った。

「いやねぇ違うわよ。もう怪我は大丈夫なの?」

あ、そっちか。

「は、はい。怪我はもう大丈夫です。万全です」
「そう。なら良かった」

まるで自分のことのように笑ってくれたおばちゃん。
なんだよもー。いい人すぎか!

「でも貴女が礼儀のある子で良かったわ。また天女様が来たって話があって、どんな子かしらって思ってたのよ」

頬に手を当てて言うおばちゃん。

「え、礼儀なんて私は別になにも…」
「でも天女様からお礼言われたのは初めてだから。というより、今まで私と口をきいた子はいなかったからねぇ」
「そうなんですか!?」

こんな優しいおばちゃんと口すら聞かないとか!
なんだコミュ障なのか?
いやでも天女様って六年とは普通に話してたし…。

「今日だってそうよ。昼食取りに来ていたけど、六年生の子たちと話してるだけで私とはなーんにも」

これはあれか、男にしか興味無いデスヨーってことか?
だとしたら非常にけしからんな!
美味しいご飯が食べれるのはおばちゃんのおかげであって、そのおばちゃんに感謝の言葉すらないとか!
礼儀がなければ社会で生きていけませんよ!
私が心の中でプンスコ怒っていたら、急におばちゃんが「いけない!」と声を出した。

「え、ど、どうされたんですか?」
「今日のお夕食に使うお醤油、切れてたの忘れてたわ!まだお昼の洗い物も残ってるのに」
「あ、す、すみません私が話し込んでしまったせいで」
「あらいいのよ!気にしないで。それじゃあ私はこれで」

そう言っておばちゃんは仕事に戻った。
のぞき込むとそこには大量のお皿やお盆が。
…それ片付けてから町に買い物行くのか。
夕食までに間に合うのかな?

「…あの、お皿洗い手伝わせて頂けませんか?」
「えぇ?そんな、いいわよ!貴女は部屋に戻って!」
「や、あの、私ほんとにここに来てみなさんに迷惑かけてばっかなので…少しくらいお手伝いさせて頂きたくて…」

本当にそうだ。
私はお金も持ってないし働いてもないからお金を稼げない。
だからって学園内の仕事をお手伝いもするわけにもいかない。

「でも…」
「だ、大丈夫です!まだ授業中ですし人が来ない内に片付けますし!あっ、お皿洗いも慣れてますしたぶんご迷惑にはならないかと!」

せめてもの恩返しではないけど、これくらいはしなきゃ本当にただのタダ飯食らいだ。
私が必死に拝み倒すとおばちゃんは観念したように笑った。

「…分かったわ。じゃあお願いしようかしら」
「ほんとですか!?」

やった、これで少しは恩が返せる!

「正直助かったわ。お皿は洗ったら拭いて積んで置いてくれればいいから」
「わっかりました!」

無駄に元気よく答える。
おばちゃんは布巾を渡してくれて「ありがとうね」と言って食堂を出て行った。
それを見送り、ぐっとガッツポーズをする。
さぁて、生徒共が来る前に片付けないとな!



「…よし、終わった!」

なんとか一通りお皿洗いは終わらせられた。
ピカピカー!とはいかないけどそれなりに綺麗に出来た気がする。
幸い鐘の音も聞こえないし、授業が終わる前にお皿洗いは済ませられたようだ。
時間通りに仕事終えられたし私プロやな!
さあとっとと部屋帰ろー、と手を拭いた。…時。

「おばちゃーん!この間お話した豆腐の事です、けど…」

お勝手口?みたいな外へ通じる入口からやって来た一人の少年。
私の姿を見て動作を止めた。
その姿を見て私も動きを止める。

「(とっ…とと……豆腐小僧やないかーい!)」

豆腐小僧こと五年い組の久々知兵助がそこに立っていた。
な、なんでここに!?
えっ、実技の授業じゃないのなんでここにいるの!?
豆腐小僧は私をまじまじと見てまつげの長い目をぱちくりさせていた。

「貴女は…?」
「い、いや…その…」

ああもう、なんでこうも関わりたくないのに会うのかなぁあ!
背中に嫌な汗が流れるのを感じながら、豆腐小僧と対峙していた。




つづく