方向音痴です
「…はあ」
昨日シナ先生に頂いた着物(薄い黄色)を着て、ただいま忍術学園の廊下を歩いているなう。
私がこうして部屋を出て廊下を歩いて居るのには理由があった。
…今日の昼時、食事を済まして満足していると新野先生が部屋にいらっしゃった。
「もう傷も良くなりましたね。傷跡もきれいになりました」
私の前に座った新野先生がそう仰った。
「あ、はい。おかげさまで。ありがとうございます」
もはや何度目か分からないお礼を言う。
これだけ治癒が早いのは若さのおかげだって思っていたけど、やっぱり新野先生の的確な処置のおかげだろうしね!
このまま即座に学園の外に出して貰おう!と新野先生に許可を得ようと提案する。
「怪我も治りましたし、もう外へ「少しずつ体を慣らす必要がありますね。今日から学園内を歩いてみてはどうですか?」
提案、してみようと思ったのに言葉を被せられた。
新野先生は全然私を外に出してくれる気はないようだ。
分かってるけどね!
もう何度もお願いしてるから新野先生が若干キレ気味になってきてるのも分かってるけどね!
…というか、何と言った?
学園内を歩け、だと?
「えっ…が、学園内ですか!?ちょ、それは…!あ、あの前に人と接するのは最小限にと言われたので…」
遠回しに歩きたくないと伝える。
実際は歩きたくないというか人に会いたくないというか。
人に会ったら下手したら殺されるかもというか。
六年の某暴君に会ったらぶっ飛ばすと宣言されてるしな!「今は幸い授業中ですので。それに上級生は皆野外実習中で出払っておりますから安心して下さい」
「そ、そうなんですか…」
だったら大丈夫…なのだろうか?
納得しかけたのを理解したのか新野先生は頷く。
「では一度、食堂に行ってみたらどうでしょう?」
「食堂ですか?…あ、確かに食堂のおばちゃんにはお礼がしたかったですけど」
あんなに美味しい食事を提供して下さってるのにお礼の一つ言えないとか不甲斐ないし。
まあ左近くんに文字教わってから毎回お盆に感謝の一筆はつけてるけどさ!
「丁度お昼のお盆もありますので、それを返しに行ってみましょう」
「は、はあ…」
そう言われたら否定も出来ない。
『行ってみませんか?』じゃなく『行ってみましょう』だし。
…最近、新野先生もシナ先生のごとく強制力がある気がするのは心の中にしまっておこう…。
…で、冒頭に至る。
食堂への道は聞いたけど、新野先生は仕事があるからと私ひとりで歩いている。
でも人とすれ違うことも声が聞こえてくることもない。
あっぱれ授業中。
「…それはともかく。困ったことになった…」
空のお皿が乗ったお盆を手に唸る。
「
絶賛迷子だ…!」
王道ですよね!迷子になるとか!
あああああこの時代にGPSなんてないし!
というかスマホすら持ってないし!
私が現在どこに存在してるのかも分からん!
生徒とはち合わせないのは助かるんだけど人がいなけりゃ正しい道も分からない!
部屋に戻りたくとも帰り道もわかりません!
いやぁ困りましたねー!
「どどどどうしようこれで授業も終わって生徒がわらわら帰ってきたら…!六年に会ったら…!!」
あいつら次会ったらぶっ飛ばすとか始末するとか思ってるからなぁ!
『あっこいつ部屋から出てきやがった
コロセー!』とか言われるかもしれない!
忍たまと言えどプロ忍に近い奴らから逃げられるだろうか、
いや逃げられるはずがない(反語)。あ、あわわわわどうしよう…!!
「とっ、とりあえず食堂だ…食堂探さな、
ギャ!」
「おっと!」
慌てて角を曲がろうとすると、同じタイミングで向こうから来た人にぶつかりかけてしまう。
なんとかお盆を持ったまま回避出来たけどやばい、人に会ってしもうた!
「す、すすすみすみません!」
卒業証書授与の時よろしく、お盆を持った状態で深々と頭を下げる。
「いや、こちらこそすまない…って、君は」
「へっ!?…あ」
顔を上げたらそこにいらっしゃったのは山田先生でした。
わああ、初にお目にかかります!
「は、はは初めまして…医務室の横の部屋を間借りしてる拾石和花と申します。すみません大変お世話をかけておりますすみません」
ペコペコと赤ベコ並に頭を下げて下手に出る。
せ、先生に殺されるルートは低いにしろ先生方だって私は邪魔者なはず!
…と思っていたのに思いの外山田先生は笑ってくれた。
「君の話は土井先生から聞いているよ。乱太郎たちを助けてくれたそうじゃないか」
そういった後に、私の名は山田伝蔵だ、と仰ってくれた。
もちろん知ってますけれど!
「助けたなんて…そんな大層なことはしてないです」
つーか色んなところで私の話しないでください土井先生!
「怪我の具合はどうかね?」
「お陰様でもう包帯も取れましたし傷もなくなりました。…あ、直ぐに学園から出るつもりですので身体を慣らすためにこうして生徒さんのいない時間を見計らって学園内を歩いたらどうかと校医の先生に提案して頂いたので歩いている限りです!」
必要ないこともベラベラと話す。
いかに私が外に出たいのか、且つこうして歩いてるのは私の意思ではありませんよー!ということを伝えるために。
無駄にハキハキと話したら山田先生は「そうか」と言って苦笑した。
「…あの、つかぬ事をお聞きしますが…食堂ってどこですかね?」
「食堂?食堂ならこことは反対側だが…」
「反対…」
山田先生の言葉を聞いて愕然とした。
反対って!真逆の方にしまったんですかね私!恥ずかしっ!
「…もしかして食堂に行こうとしていたのかね?」
「…は、はい…この食器を返しに行こうと…その、校医の先生には道順は聞いて、理解したつもりで…つもり、だったんですねぇ」
「つまり迷子ということか」
「
ハハハ」
ずばっと言われてただ笑うしかなかった。
その通りですね!
決断力はないけど私も方向音痴です。
すると山田先生はやれやれと肩を竦めた。
「ならば食堂まで案内しようじゃないか」
「えっ!?い、いやそんな…ば、場所を教えて下されば大丈夫ですから!」
「そうした結果がこれだろう?」
「…ソーデスネー…」
聞いただけで歩いたらこうして迷子になったんだもんなー…。
迷惑をかけないように生活しているつもりが手間ばっかかけてるよ。
「…すみません、お願いします。お世話掛けてすみません…」
「気にする事はない。土井先生も君のことを気に掛けてやってほしいと言っていたし」
「え?」
山田先生の言葉に驚く。
気に掛けて?…って、つまり何かしでかさないように見張ってろってこと?
あーやっぱり、土井先生も普通に対応していただいてるけど内心じゃ疑ってるってわけね!
当然か、私は立派な部外者だもんね!
「…なんか…(邪魔者で)すみません…」
頭を下げると山田先生は再び「気にするな」と笑って仰ってくれた。
優しいお父さんみたいな山田先生。
でも山田先生にとっても私は結局部外者で。
あーつらい。味方はいないのかここには!
早く外に出て生活したいぜちくしょう!
「では、行こうか」
「あ、は、はい……」
そう促され、山田先生のあとをついて歩き出した。
つづく