美し過ぎるよ!
左近くんは時間を見付けては私のところに来てくれていた。
意気揚々と私の先生役を買って出てくれていてそれはもう熱心に教えてくれた。
彼もまだ二年だからそんなに字が上手いって訳でもない。
でも室町時代初心者な私に比べたら上手いし、なにせ一生懸命教えてくれるな姿が可愛すぎるため大人しく生徒役をやっています。
「では今日はここまでにしましょう」
「有り難うございました。…少しは上達してますかねぇ先生?」
使った用紙をまとめながら左近くんに聞いてみる。
「読めるくらいにはなったと思いますよ」
「おおー…じゃ、手紙とか書いても読めれるね。ちょっと書いてみようかな」
新しい用紙を取り出すと左近くんは首を傾げた。
「手紙…ですか?」
「うん。私この部屋から基本出ないから、会う機会もなくてね。でもお礼言いたい人がいて。ま、食堂のおばちゃんなんだけど」
私の三食は新野先生や土井先生が運んで来てくださる。
私みたいな部外者でも食堂のおばちゃんのご飯を食べさせてくれていて、そのご飯の美味いのなんの!
だけど食堂なんて人が集まる場所に行ける訳もなく、お手紙という手段でお礼を言おうと思い立ったんだ。
その旨を左近くんに伝えると「まあ良いんじゃないですか」と返された。
つっけんどんな物言いだけど本当は賛同してくれてるのは分かる。
かわいいなぁ!と思いながら左近くんの頭をぽんぽんする。
「や、やめてください!」
「あ、ごめん」
思いっきり手を振り払われるけど、真っ赤な顔は隠せてないぞ少年!
膨れてる左近くんを見てニヨニヨしながら手紙を書き上げた。
これを夕食のお盆返す時にお盆に乗っけておこう、と机の上を片付けていると部屋の扉が開いた。
新野先生かな?と思って見るとそこに居たのはなんと。
「や、山本シナ先生!」
私の代わりに左近くんが言ってくれた。
そう、そこにはくの一教室のそれはまあ美しく輝かしい山本シナ先生(若)だった。
「お邪魔しても良いかしら?」
「へっ…あ、は、はい!」
吃りながらも頷くとシナ先生はつい見とれちゃうような笑顔を浮かべた。
なんだこの人、美し過ぎるよ!
「で、ではぼくはこれで」
「あら、居てくれても構わないわよ」
部屋を出ようとした左近くんを一言で呈すシナ先生。
「は、はい…」
左近くんもそう言われて大人しく座る。
…有無を言わせない強制力が働いたのが見えましたよ!
「初めまして。くの一教室の担任の山本シナです」
シナ先生は私の前にすっと座る。
そんな姿すら美しいですね!
「おっ、は、はじ、初めまして。拾石和花といいまふ」
やべえ噛んだ。
「ぷっ」
左近くんが噴き出したぞ。おねえさん見逃さなかったからな!
シナ先生もくすっとだけ笑う。
「貴女の事は土井先生や新野先生から聞いているわ」
「そ、そうなんですか…」
な、なんてお話されてるんだろうか、土井先生たちは。
『あいつ何考えてるか分からないから気をつけた方がいいですよ』とか『もう邪魔なんで隙あらばボコってもいいですよ』とか言ってないだろうな!?
「ふふ。心配しなくても悪い話は聞いてないから。真面目で頑張り屋さんだって聞いてるわ」
「えっ、そうなんですか!?」
内心の焦りが伝わったのかシナ先生は優しく言ってくれた。
真面目で頑張り屋だって!?ありがとうございます!
「それで今日は貴女に渡したい物があって来たの」
「渡したい物…?」
ええ、と微笑んでシナ先生は持っていたものを私の前に出した。
「これは…着物…?」
「昔私が使っていたもので悪いのだけど。貴女もいつまでもその服じゃ困るでしょう?」
私の着ているものは病人用か寝間着かは分からないけど白いシンプルな着物だ。
「もう怪我は良くなったと聞いたわ。外に出るにその服は合わないから」
「で、でも部屋から出るわけには…」
「怪我が治ったら外へ働き口を探すんじゃなかった?」
あ、そういう外か。
「取り敢えず幾つか持って来ているから、良かったら貰って?」
見てみるとそれはもう可愛らしい柄から大人っぽい柄までいろいろ。
「こ、こんなに…す、すみません、ありがとうございます、嬉しいです」
「いいえ」
もうほんと、忍術学園の先生方はいい人たちばかりだ。
こりゃあさっさと学園を出て独り立ちして収入得て、学園に僅かばかりながら援助金を送るしかあるまい…!
「それとね」
「え?」
「今度くの一教室で化粧の授業があるから、貴女も参加してみない?」
「くのいっ……
えぇ!?そんな!私なんか行ったら迷惑極まりないですし!それにここの生徒でも何でもないのに授業なんて…!」
というか、くのたまの方々はすばらしく天女様を嫌ってるイメージしかないのだけど!
くの一教室の子たちはまだ幼いけど女子だし!
忍たまみたくがつがつ攻撃して来ないにしろ口撃はしてくる気がする!
女子の陰湿さはえげつねえからな!
くのたまの子たちが陰湿って言いたいわけじゃないんだけどさ!
「いくら若いっていってもある程度外で生活するにはマナーがあるのよ。この時代の化粧や礼儀は何も分からないんじゃないかしら?」
「た、確かにそうです…」
マナーはどの時代でも同じだもんね。
化粧濃くてもダメだしノーメイクもダメだし。
最低限の常識は身に付けないと社会出れないよ。
「…化粧されるんですか?」
今まで黙って話を聞いていた左近くんが口を開いた。
「ああ、そりゃあ…働くつもりだから、やっぱり必要なことだし」
「…必要無いと思うのに…」
「えっ、そう?」
ぼそっと左近くんが言う。
小さい声だったけど聞き逃さなかったよ!
なにか嬉しいことを言ってくれましたねツンデレボーイ!
「っ!な、なんでもありません!」
顔を背ける左近くんを見てシナ先生は「あらあら」と笑顔になった。
私も笑顔になりました!
「…なら決定ね?またその日になったらここまで迎えに来るわ」
「あ、す、すみません…お願いします」
深々と頭を下げる。
「気にしないで。…じゃあ、私はこの辺で」
「は、はい。あ、着物、ありがとうございました」
最後にまたニコッと優しい笑顔を向けられる。
こんな素敵な女性に、私はなりたい(願望)「忠告、という程のものでは無いけれど」
…シナ先生は部屋を出る間際にこちらを振り向いた。
「仲が良いのは悪くないけどあまり深く関わらない方が良いと思うわ」
それが私に対して言ったことなのか、はたまた左近くんに対して言ったのか。
分からないままシナ先生は部屋をあとにした。
「……」
「……」
左近くんの方を見ると何も言わず俯いていた。
シナ先生の言葉はどっちでも取れるから怖い。
でもシナ先生の言う通りだし、やっぱり私は部外者なんだなぁ。
やはり学を早く身につけてここを出なければ。
殺されたくないもんね!
つづく