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  暗い顔すんな!


人と関わらないと誓っていた私の元にはまーた生徒が来ていた。

「お久しぶりです。…あの、お怪我の具合はどうでしょうか?」

私の前にちょこんと座ってそう聞いてきたのは乱太郎だ。

「ありがとうね、大丈夫だよ」

そして乱太郎の横に視線をやると同じ保健委員の二年生、川西左近くんもいた。
さっき自己紹介してくれたけど君の存在も知ってましたよね!
…というか、左近くんはそれはもう「ぼくは貴女を疑ってます」という目で見てくる。
やめて、カワイイ子に疑いの目向けられたくないよ!

「なんでこんな人のお世話なんか…」
「さ、左近先輩!そんな事言ったら駄目ですよっ!」
「でも乱太郎!天女だかなんだか知らないけど、身元も分からない人を匿う必要なんてないだろ!?」

確かに左近くんの言う通りだわなぁ。

「す、すみません!」

そっぽを向いてしまう左近くんと私を交互に見ながら乱太郎が謝った。

「いや、大丈夫だよ。…校医の先生が出張だからって保健委員の二人に私の怪我の世話させちゃって本当申し訳ないよ」

普段私の怪我の手当をしてくれている新野先生が今日は出張のため、代わりでこの二人に頼んでくださったのだ。
もう治りかけだから大丈夫ですよ、と拒もうとするも新野先生に「治り掛けが一番大切なんですから」と若干キレ気味に言われてしまい頷くしか出来なかった。
新野先生、時々こわい。

「そんな、保健委員として当然の事です!包帯取替えますね!」
「あ、はいオナシャス…」
「なんでぼくが…」

乗り気でない左近くんと対象的にやる気満々な乱太郎。
両方ともかわいいんだからまったく、なんて思いながら着ていた着物を下ろす。
すると乱太郎と左近くんが揃って「わっ」と声を出した。

「えっ、ど、どうした?」

驚いて振り返ると二人とも私から顔を背けていた。
よく見ると、二人とも顔が真っ赤になっている。

「え、ご、ごめん!?なんか私した!?」

今度は私がアワアワする番だった。
詰め寄ってしまうと二人は尚更顔を真っ赤にさせた。

「わぁぁ!ち、近いです!」
「と、というか服!服!着てくださいっ!」
「え?あ、ごめん…え、いやでも着てたら包帯変えれないというか…」
「そ、そうですけどぉ!」
「ま、間近で女の人の裸を見る事なんて…無いですし」
「え」

耳まで真っ赤になった乱太郎と、同じ真っ赤になっている左近くんぼそっと言った。

あ、そ、そーいうことか!
なんて純情!
私なんて全然気にしてなかったのに!
慌てて服を羽織る。

「ご、ごめんね、醜いもの見せちゃったね」
「そ、そんな醜いなんて…」
「…でもそれだと包帯取替えれないですよ…」
「あ、大丈夫だよ。やろうと思えば私だけで出来る…と思うから」
「だっ、駄目です!新野先生にはちゃんと取り替えるように言われてるんですからっ!」

だったらどうせいっちゅーねん。

私が途方に暮れていると左近くんが腹を括ったかのようにきっ!と顔を上げた。
え、なにその顔も可愛い。

「ほ、保健委員として仕事を全うするだけですから!ほら乱太郎、やるぞ!」
「え?あ、はいっ!」

どうやら変えてくれる気になってくれたようだ。
でも顔は相変わらず赤い。

「む、無理にやってくれなくてもいいんだよ?」
「なっ、む、無理になわけないじゃないですか!貴女は口を閉じてて下さい!」
「す、すいません…」

あまりの気迫に素直に従わざるをえなかった。
11才の子に怒られちゃったよ……。

再び着物をおろす。
すると今度は二人とも何も言わない。

「…包帯取り替えるんですから、それくらい自分で取ってくださいよ」
「あ、ハーイ…」

結構厳しいぞ左近くん。
まあこれくらいは出来るしな…と、巻かれていた包帯をはずす。
取り終わり、見事に上半身真っ裸になる。
さすがにこのままでは色々と危ないので掛け布団で前を隠した。

「…この、傷は」

驚いたような声で左近くんが呟いた。

「うん?…あー、刀持ったおっちゃんに斬られちゃってね」
「え?」

左近くんは私の怪我について知らなかったみたいだ。
目が真ん丸で驚いてるのがわかる。

「ははは。まあ仕方ないよ、私がどんくさかったからね」
「…違います」

暗い雰囲気を壊すために軽く言ったら、乱太郎が声を上げた。
え、どうした?と乱太郎を見ると、正座した膝の上でぎゅっと手を握りしめながら俯いていた。

「お姉さん…和花さんは、裏山でわたし達を助けてくださったんです…。わたしたちを庇って、…だから斬られてしまって…」
「そう…なのか?」
「…はい」

左近くんが目を丸くさせ驚いていた。

「や、やだなーもう!だから君たちのせいなんかじゃないから!ほら、だいぶ良くなったし傷跡もきれいに治るって校医の先生仰ってたし!だから暗い顔しないで」
「…はい」

そう言って入るけど、乱太郎の顔は見るからに落ち込んでいる。

「あー……もおおぉ!暗い顔すんな!
「!」

前を隠してる掛け布団を器用に脇に挟んどきながら、ぶに!と乱太郎のほっぺを引っ張ってみる。

「辛気臭いと治るものも治りませんよ少年!そんな暗い顔見せられてたら私の意気も下がるから!病は気からっ!だからキミは笑ってなさい!」
「い、いひゃいれすぅう!」

ぶにーと引っ張ると乱太郎が私の手をぺしぺしたたいて反抗する。
その可愛さに若干顔を緩ませながらも手を離す。
ううう〜、なんてほっぺたを両手で抑える乱太郎。やっぱりかわいい。

「次に暗い顔したら今の比にならないくらいの力で引っ張るからね!」
「わ、わかりましたぁ…」
「分かればよろしい」

そう言って頭をぽんぽんする。
早く怪我なおしてここからでないとずっと乱太郎たちが気に病んじゃうな。
早く良くならないと。

「…すみません」
「え?」

乱太郎が片付いたと思ったら何故か今度は左近くんが俯いてしまった。
今度は何!?

「…そんな傷の事なんて知らなかったとはいえ…さっき、酷いこと言ってしまって…」

恐らくはじめに反抗的な態度をとってたことだろう。

「え、いや、そんなの全然気にしてないよ」

むしろあのツンツンが左近くんらしさだと思ってましたので。

「……」

それでも後ろめたいのか左近くんは黙ってしまった。

「…暗い顔してたら君もほっぺた引っ張るよ」
「!やめてください!」

両手をわきわきしながら脅すと、ばっと自分の両頬に手を当てて庇う左近くん。
かわいい。

「ならもう暗い顔しないの!」

さっきの乱太郎と同じように頭をぽんぽんしてあげようとしたら逃げられた。
でも顔が赤くなってたから良しとしよう!


…なんて思ってたら鼻がムズムズしてきた。

「ぃえっくしょい!
「ああ!そんな格好してるからですよ!」

くしゃみをしたら乱太郎が慌てて言った。
そう言えば上半身真っ裸だった。寒いはずである。

「ほら乱太郎、薬を!」
「あ、はい!…うわぁ!」

急かされ乱太郎が慌てて立ち上がる…上がろうとした。
上がろうとしたのに慌てたせいか自分の足に引っかかり勢いよくすっ転ぶ。

「何してるんだらんたろ、うわっ!?」

倒れた乱太郎を起こそうと立ち上がった左近くんだが、放られて転がった包帯を踏んで転ける。
この間、約5秒。
まるでピタゴラスイッチだよ…。

「(…ああ、忘れてた。不運委員なんだったね保健委員は…)」

こういうことは日常茶飯事なんだよね…。

「だ、大丈夫…?」
「す、すみません…大丈夫です」
「い、いつものことなんで…」

声を掛けると二人とも力なく笑った。
こんな二人で手当は大丈夫なのか…とか思う私の杞憂とは裏腹に、それからは手際よく包帯を取替えてくれた。
処置が終わり最後にありがとう、とお礼を言ったら乱太郎はとびきりの笑顔で「どういたしまして」と笑ってくれたし左近くんは「これくらい保健委員として当然です」と言いつつ顔が赤かった。
うん、やっぱりエンジェルだ…!
この間の六年生&天女様に遭遇した心の傷さえも癒された気がしたよ。





つづく