すげぇ感動!
用事を済まされて戻って来た新野先生に言われるがまま部屋を移動した。
医務室の隣でこじんまりとした部屋で部屋には机と鏡台、そして布団があるだけだ。
シンプルだけどすぐ出ていく予定だから充分過ぎるくらいだね!
部屋で一息ついていると、土井先生がやって来た。
短い期間であるけど、ここで生活するために簡単に説明をしてくれた。
ここは忍術を学ぶ学園だということ、食事は食堂があるけれど人目に触れないためにここまで運んでくれること、勉強のための資料も運んでくれることを聞いた。
「天女様」については触れなかったのは敢えてだろう。
私から聞くこともないしむしろ
聞きたくもないけどね!「…以上です。何かと不自由な生活になってしまいますが、我慢して下さい」
頭を下げてくれる土井先生。それですらイケメンである。
「あ、いえいえ…全然です。迷惑かけてしまっているのは全面的に私のせいですし…仰ったことはすべて従います」
「…有り難うございます。貴女が聞き分けの良い方でよかった。…私の組の生徒も今より聞き分けがもう少し、
すこっっ…しでも良ければッ…!」
「は、はは…」
だん!とそれはもう悔しそうな顔で土井先生は机を叩く。
苦笑いしか出来ないです。
「ま、まあ生徒さんは小さいですし年相応じゃないですか!私は先生とおんなじくらいだと思いますし、子供じゃないですから…」
「え?」
「…え?な、なんです?」
私の言葉に土井先生が目を丸くさせた。
何に驚いたの?
「い、いえ…私と同じくらいと言われたので。…ご冗談でしょう」
「え?いや、冗談のつもりは…い、いくつに見えるんです?」
…あ、そうか。
生まれてこの方年上にしか見られたことない私だから、土井先生は自分より年上だと思ってたのか。
くそ、悲しい。
けれど土井先生からは予想してなかった返答がくる。
「14 …15くらいだと思っていたんですが」
「
じゅ…っ!?」
まさかの10代!!?
まじですか!ありがとうございます!
「そんなそんな、お世辞でも嬉しいです」
「いや、お世辞という訳では…」
「だってこの顔で10代だって言われたことなんて、」
部屋にあった鏡台の方を見て…動きを止める。
「えっ」
つい驚きで声が漏れた。
鏡台に映った自分の姿は…懐かしいような…そんな若かりし頃の顔をしていた。
そう、ちょうど土井先生が言った14、15歳くらい。
中学生の時くらいの顔だ。
なにこれ?…若返って…
若返ってるぅ!?「え、え…あれ…!?」
鏡台に近付きまじまじと見る。
マジで若返ってる感じですか…!
夢小説でもたまに見るアレ。
こういうこともあるのか…!
というか!
今じゃ保湿剤なしじゃ潤ってない肌が何もなしで潤ってる!
肌の下り坂って言われてたのにキメ細かいよ!?
あ、だから森で走ってる時軽やかだったのか!
あとおっちゃんたちが私を見て「嬢ちゃん」って呼んだのも理解出来た!
うわーうわー
すげぇ感動!「…ど、どうしました?」
「はっ!あ、い、いえ…ちょ、ちょっと記憶が混同してたみたいで…。…やっぱり15(くらい)…です(たぶん)」
「やっぱり」
ごめんなさい、今は謎の反動で若いけど本当は土井先生、あなたとほぼ同級生です。
「…所で、和花さん。一つ聞きたい事があるのですが」
「え、あ、は、はい?なんでしょう?」
やっべ名前で呼ばれた!
「…貴女があの3人を助けた時…一体何を持って、身を呈してまで庇ったんですか」
「え?」
急な土井先生からの質問に戸惑う。
何をって。
ただエンジェル守りたかっただけだけど!
そうきっぱりと答えれるけど、そんなあやふやな答えを望んでるわけじゃなさそうだ。
「そう…だなぁ…」
土井先生が納得できるような答えを考える。
…でもそんなに深く考えて行動したわけじゃないしなぁ…。
うんうんと唸って考える間も、土井先生はじっとこっちを見ている。
やめて照れる。
「う、う〜…ん…」
だめだ浮かばない。
「…な、何でですかねぇ…?」
質問を質問で返してしまう。
土井先生は思っても無い答えだったのか目をぱちくりさせた。
「え?」
「い、いや…なんというか…これといったちゃんとした理由はないと言うか…あっ、小さい子に対して刀は無いだろ!とは思いました!…あ、理由とはなんか違うか…じゃあ、ええーと…?」
というか土井先生の求めてる答えってなんだ!?
うんうんと唸っても答えは出そうにない。
「…ぷっ」
「ぷっ…って、はっ!?」
笑われた!?
吹き出した土井先生は口元を抑えていた。
こっちは真剣に考えてたのに!なぜ笑う!?
「す、すみません…余りに真剣に悩んでいるので…」
「真剣にしてるのに笑わんといて下さいよ…」
「すみません」
ジト目で言うのに土井先生ときたらまぁだ笑いを堪えている。
ちくしょう。
でもイケメンだとそれでも許したくなる不思議。
「…貴女は裏表のない方の様ですね」
「え?」
「何と言いますか…意図も無くあの子たちを助けて下さったんですね。ありがとうございました」
「は、はあ…?」
何が言いたいのか理解できず曖昧に首を傾げると、土井先生は「気にしないでください」と笑った。
「…では、私は次授業があるのでこの辺で」
「あ、はい」
そう言って立ち上がった土井先生が扉に手をかけ開けた…時。
どたどたどたっ!「「「うわぁ!」」」
「なっ!?」
「うひっ!?」
物凄い音と共に何かがなだれ込んで来た!
「い、いてて…」
「ら、乱太郎きり丸しんベヱ…!?ど、どうしてここに!?」
落ち着いて見てみると、なだれ込んで来たのはエンジェル3人だった。
それを見て土井先生は驚いている。
「え、えへへ…」
揃ってバレちゃった!みたいな顔をする3人はとても可愛かったです(感想文)
そう思って居ると3人はちょこんと私の前に座る。
「お姉さんの事が気になって…」
「お怪我の具合はどうですか…?」
「え、あ、大丈夫だよ。心配ありがとうね」
そう言うとどこかホッとしたような顔になる。
「お前たち…何度も言っただろう」
「でも…おれたち心配で…」
土井先生ははっきりとは言わなかったが、何度も言ったのは恐らくあまりここに来るな、という事だろう。
それでも来てしまうのはこの子たちが根っからいい子だからだね!
下手したら上級生に見つかって叱られちゃうかもしれないってのに。
「…みんながここに来るのって、私の怪我が自分たちのせいだからって思ってるからじゃない?」
「そ、そんなわけじゃ…」
そうは言ってくれるけど上手く返答ができないようで3人とももごもごしている。
「この怪我は私が勝手に負ったやつだし、君たちのせいじゃないんだよ!私の自己責任だからね!それに怪我だって治るって校医の先生が仰ってくださったし。君たちが気に止むことなんてないさ」
ただでさえ今いる天女様絡みでいっぱいいっぱいなのに、私ごときでストレスをためて欲しくなんかないしね!
君たちには元気でいて欲しいのだよ!
「でも…」
「それに私は怪我が治ったら出ていくし。そしたらもう会うこともないだろうから、私のことはすぐ忘れなさいな。君たちは他にやることいっぱいあるでしょ?」
「……」
あらら、だんまりになっちゃった。
「私は大丈夫だから!」
後押しするように元気よく言ってみる。
「………はい」
おおう、消え入りそうなくらいの小さい声。
3人とも下を向いてしまった。
あーあー、なんで私と話すとたいていみんな悲しい顔になるんだろね!
やっぱ部外者は首突っ込んじゃダメなんだなぁ。
「…授業が始まるぞ。ほら」
土井先生が話を片付けるように言ってくれる。
それに従って3人は立ち上がり、部屋を出て行った。
…ちょっと厳しめな事言っちゃった気もするけど、はっきり言えばもう来なくなるだろう。
せめて1回くらいは明るい無邪気な笑顔見たかったなぁ、という思いはしまっとこう。
「…ありがとうございます」
3人が部屋を出たあとに土井先生が小さく言ってくれる。
私がいいえ、と首を振ると、すまなそうに眉を下げて一礼し部屋を出て行った。
部屋がしんとする。
「…おっと、いかんいかん」
なんか神妙な空気になっちゃったよ。
私には学ばなきゃいけないことがたっくさんあるんだから。
「早く学をつけて独り立ちしないとな。あーあ気が遠くなる」
そう自分に言いきかせるように呟き、背伸びをした。
つづく