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  新しい天女サマ


「新しい『天女サマ』が来たらしい」

五年生が揃う教室で仕入れた情報を話す。
しかし、また新しい危険分子が来たというのに反応は緩かった。

『またなのか』と言いつつ何処か他人事ような久々知兵助と竹谷八左ヱ門。
『今度はどんな子だろう』と事態を楽しんでるように見える尾浜勘右衛門。
『新しい天女様か…挨拶しに会いに行くべきか、しかしそうすると今の天女様の機嫌を損なわせてしまうかもしれないし…』と悩んでいるのが不破雷蔵。…五年の中で一番天女サマに絆されてるのは雷蔵のようだ。

「で、三郎はまた見に行くのか?」
八左ヱ門にそう聞かれ、ああ、とだけ返す。

『また』、と言うのはこれで3度目になるからだろう。
『へいせい』という時代から『天女サマ』と呼ばれる女達が来てから、その都度視察と銘打って様子を見に行った。
初めはどこかの城の忍びなんじゃないかという懸念もあったが、天女サマは誰も彼も忍びの「し」の字も知らないような女ばかり。
くのたまどころかそこらの町娘より非力だった。

だから忍術学園に害はないだろう…と放置してしまったのが間違いだった。
気が付けば天女サマを取り巻く人たちとそれ以外の人たちの間に溝が出来、人間関係はガタガタで。
残念ながら今の天女サマは六年生できっちりと守られていて手出しできない。

だからこそ新しく来た天女サマがどんな奴か害をなす存在かを見極める為、その様子を伺いに行く。

「じゃ、行ってくる」
「ああ」
「気をつけろよ」
「可愛い子だったら教えてよ」
「無理しないでね三郎」

それぞれの言葉を背に受けながら教室を出た。





「(…さてと)」

今回も軽く新しい天女サマがいる部屋…医務室の天井裏に忍び込めた。
ちらりと隙間からのぞき込むとそこには土井先生、一年は組の乱太郎きり丸しんベヱ、そして新野先生がいた。
そして敷かれた布団には私とそれほど歳も変わらなさそうな1人の女。

あれが新しい『天女サマ』か。

今いる天女サマと比べても平凡な容姿をしている。
あの天女サマの肩を持つ気などないけれど。

息を潜め話を聞いていると、彼女はどうやら乱太郎きり丸しんベヱを庇って怪我をしたらしい。
だからこうして医務室に居るのか。

そうこうしているうちに新野先生は部屋から出て行き、代わりに煙玉を使って学園長先生が入ってきた。
天女サマが驚いているのが傍からでも分かる。

…学園長先生の話から察するに、この天女サマは裏山の池から出てきたようだ。
今までは揃って空から落ちてきた、だから『天女』なんていう安易的な名前がついたというのに。

「(裏山の池と言ったら河童が出るとか言う噂があったところだ…だったらむしろ天女サマというより河童の方が合ってるだろ)」

なんて内心小馬鹿にしながら様子を見てみると、

「…それと河童の類だと3人の前で言ったらしいが、お主は人間で違いないな?」
「うぇっ!?い、いやもちろん」

「(プッ)」

どうやら天女サマ自体も河童と名乗ったらしかった。
学園長先生に問われ焦るところを見ると、口からの出任せで言ったようにも思えるが。
しかし乱太郎たちも河童の噂は知っていたらしくつい信じかけてしまったようだ。
天女サマも慌てて「い、いやあれは勢いで言っただけだからね!?」と首を振っていた。

面白い奴みたいだな、今度の天女サマ…いや、むしろ河童女とでも言うべきか。

笑いを堪えていると、学園長先生が河童女に名前を聞いた。

「…所で、名は何という」
「え?あ、拾石和花です…」

「(へえ、拾石和花か)」

恐る恐るといったように名乗る河童女。
特に理由は無いが頭の中でその名を反芻する。

…その間にも学園長先生は話を進めていた。
河童女もとい拾石和花はこの学園に居たくないのか学園長先生の話を拒む姿勢が伺えた。
けれど怪我をしている上外の事は何も知らないであろうことをネタに、結局学園に居座ることになったようだ。

部屋を出て行く学園長先生たち。
…最後にちらりと上を見上げた学園長先生と目があった気がしたが、何も言わないまま部屋から出て行かれた。
…まったくお人好しなことだ。
いくら怪我をしているからってこんな見ず知らずの奴を置いておくなんて。
只でさえ厄介な天女サマが居座ってると言うのに。

「……う、うう」
本人以外居なくなった部屋で拾石和花は頭を抱えて震えていた。

「(怖いのも当然だな)」

ここに来た天女サマは誰しもが最初この状況に怯えていた。
見知らぬ土地に来て心寂しくなるのは当然だろう。
初めは同情の気もあったが、今ではそれも感じなくなった。
…今落ち込んでいてもそれが後々どう変わるかはそれぞれだからだ。

「(ま、一度くらいからかってみるか)」

なんて考えが浮かんだ。
自分から天女サマの所に向かおうと思ったのは初めてだ。
…いや、拾石和花がどんな奴か間近で見極めるのも必要だ。
学園長先生方も恐らくそれが目的で拾石和花をここに置くことにしたんだろう。
もし危なそうな人物であっても、それはその時だ。
消すなりなんなりしてやればいい。

暇潰しくらいにはなるだろうしな。と誰に言うわけでもなく呟き、その場を去った。





つづく