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「なんだか おもやがさわがしいなぁ」
「臭い」

畑当番をしていた今剣と小狐丸だったが、母屋の方が騒がしく しかしそれは短刀達が遊んでいると言った可愛らしい笑い声や軽い足音ではなく低い大声だったり、食器がぶつかる音がするのだ。

「どうしました こぎつねまる」
「臭くてならん 母屋の方から臭う」

首にかけていた手ぬぐいの端で鼻を覆う小狐丸 その匂いと母屋の騒ぎは繋がっているのでないかと今剣は考えた。

「もしや ぼくたちを ぬきにしてなにかしているのかも しれないっ
こぎつねまる こんなことしているひまじゃ ない!」

「嫌じゃ嫌じゃっ なにゆえ あのように悪臭漂う場所に行かねばならん 行くならば一人で行け 私はぬしさまの為この畑を丹精込めて当番する」

嫌々と首を左右に振り 畑仕事に戻る小狐丸 その態度に今剣は じゃあぼくひとりでいきます こぎつねまるがきても なかまにいれてあげません!とぷりぷり怒りながら母屋へと向かった。



「私のぬしさまが昼間から酒など飲むわけなかろうが」

うっ と唸りながら鼻をつまむ小狐丸だが、ふるふると首を左右に振り畑仕事を続けた。



その頃雅人はというと、


「だっはははは いやあいいなあ 昼間から酒ってのも 今日は大学もねえし吐くほどのむぞぉ」

母屋で酒を煽っていた。

「おいおい雅人 三日月が遠征でいないからってあまり羽目を外しすぎるなよ 俺が怒られるんだからな」

雅人にお酌をしながらも注意を促す鶴丸 こういった騒ぎには中心になって参加をしよう彼がこうも静かなのは珍しいことだ。

「なんらよ鶴丸〜 きょーくらいいいじゃねえかよお」
「だいぶ目が座ってるな 今日くらいと言うが大事な主人に何かあれば俺がお前の近侍に小言を言われるんだがな」

「なぁに言ってんだよぉ いまはぁ
おまえが近侍だろー つるまるー」

気分がいいのか左右に揺れているかと思えば、わはは と笑いながら鶴丸の膝に頭をのせた。雅人の突然の行動に肩を揺らしたが酒瓶を置き「おい雅人 何をしてるんだ驚いたぞ」と膝にある頭を撫ぜると雅人は気持ちよさそうに目を細め腰に腕をまわしグッと引き寄せた。

「お おい雅人 手を」
「んー 昔からなぁ なにかあったらじいちゃんの膝で泣いてたんだよなぁ」

「そうなのか」
「ああ なつかしいなあ」

「そうだなみやび いや懐かしい」

「あー じいちゃん おかえりぃ」

起き上がる雅人だったがアルコールが回っているのかふらつき鶴丸にもたれかかった。しかし、それだけでは不安定なのか鶴丸の腰に手を回した。

「随分楽しんでおったようだな
俺が 遠征に 行っている 間に な?」

すっと目を細め部屋を見回す三日月 酒瓶が何本も転がっており机の上には肴と思われる料理がいつくか並べてあった。

「おまえ あんま酒飲ませてくんねーじゃんよぉ」
「みやびや それはお前が酒を飲むと節操無しになってしまうからだと何度も言っている 自覚していないのか?」

にっこりと笑いながら言う三日月だがどう見ても目は笑っておらず口調も強いのだが、雅人はそんな事も気づくことなく むっとし不満を言う。

「ふざけんらよー 節操くらい持ってるぞおれ なあつゆまるっ」

自分のすぐ上にある鶴丸を見上げながら言う雅人だが酒の所為で頬は紅潮しており目は潤んでいる。想い人にそんな事をされている事実は実に嬉しいことだが、三日月の視線に気づいている鶴丸からしてみれば全くもっていい迷惑になっている。

「は はは 雅人 節操は持つものじゃあないぜ 」

どっちにも加勢しない様曖昧な回答をする。

「鶴丸 余り甘やかしてもらったら困る
ダメなものはダメと言わぬとこの坊は図に乗ってしまう」
「ああん うっせーよ ていうか坊って言うなよ腹立つ」

小言を言われ続け苛々しているのか 小さく舌打ちをして文句を言う雅人。そんな雅人を見て三日月は一瞬酷く悲しそうな顔をしたがまたにっこりと笑うと言った。

「 、そうかそうか ならば好きにするがいい 俺なんぞを近侍にするのも辞めればいい 悪いが俺は遠征で疲れた 部屋で休ませてもらう」

言い終わると同時に部屋から足早に出て行く三日月。

「おい雅人今のは流石に」
「待ってくれ三日月!」

流石にまずいと思った鶴丸は雅人を宥めようとしたが、それを遮り声を張り上げた雅人。ハッとし横を見るとまるで母親に置いて行かれた子供のような顔をした雅人がいた。雅人は咄嗟に立ち上がり三日月を追いかけようと立ち上がるが、その反動により酒瓶が転がり出した。雅人はそんなことにも気付かずただ三日月を追いかけることに必死になっていた。だがそれが裏目に出てしまった。

「待っ、うわっ!!?」

その酒瓶を踏んづけてしまい滑って転んでしまいそうになった までは良かったのだが急いで追いかけていたので、前傾姿勢に倒れそうになり咄嗟に片腕だけで身体を支えた。しかし手首には耐え難い激痛が走った。

「いっ、ぅ わ っ」

しかしまたもや、最悪なことに酔っている雅人は平均感覚がない状態でふらついており尚且つ激痛が走ったことでその手を引っ込めてしまい床にそのまま顔面を強打した。

「雅人っ」

大きな音と雅人の痛がる声が聞こえ後ろを振り返ると微動だにせずうつ伏せに倒れる雅人が目に入り慌てて近寄る三日月。

「大丈夫か雅人!?」

鶴丸も咄嗟のことに驚き放心状態だったがハッとし雅人に近寄った。

「すごくおおきなおとがしたが なにごとだー」

やっと母屋に着いたのか縁側から身を乗り出し中の様子を伺う今剣。

「今剣ではないか すまぬが燭台切と堀川を呼んできてはくれぬか 雅人が一大事だ」

「あるじさまがっ わかった!」

大きな目を更に開くと慌てて二人を探しに行く今剣。




(気を失っているな)
(というか ぐっすり眠っていないかこれ)




20151128*




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