04



「また後で連絡するから」
「じゃあ、僕から電話する。だから、その時に詳しいこと考えよう」

「…うん、分かった」


あの日以来、なんだか家に入りづらくなってきて、お母さんと目を合わせるのも気まずくなった。なんでだろう、こんなに左右されてしまっている自分が怖かった。



「ただいま」

「あ、お帰りー」


今日は夜勤のはずなのに、お母さんは当たり前のように起きていた。
私のお母さんは、その日が夜勤でも日中寝ているうことが滅多にない、凄く珍しい人だったりする。お母さん曰く、寝ている時間がもったいないらしい。

小さい頃の私は、それが嬉しかったりしてお母さんの迷惑も考えずに家で雨竜と騒ぎ立ててたりしてた。でも、今の私にとってはなんだか全てを監視されているようで、早く寝てほしいということしか考えられなかった。


「お母さん、今日夜勤だよね?」

「そうだけど… どうかした?」



今日が夜勤ならお母さんと話す時間は今しかない。うっすら汗をかいている手のひらを、ぐっと握り込んだ。


「あのさ」

「何?」

「婚姻届って、…もう出しちゃったの?」

言った。

心臓が凄く脈打つのがわかる。うーん、と声をあげたお母さんに、私は緊張することしかできなかった。


「まだだけど、もうすぐ出すと思うなぁ… 」

「そっか、ありがと」


とりあえず、少しでも時間はあるみたいで安心した。だけど、お母さんの 「もしかして、まだ心の準備出来ていないの?まぁそうよねぇ…」 なんていう言葉に過剰に反応してしまった。


でも、良かった。
少しだけ心を落ち着けていることができるようになって、お母さんに見られないようにほっと息をついた。

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