しゅうじの話
あるいは浅香修二のあるいはしゅうじのあるいは加賀屋司のそんな話。
浅香修二の家は、日本で5本の指にはいる総合病院である。
生まれながらの名誉ら賛美、称賛を与えられ産まれて来た。
それなりの教育、環境が押し付けられる、はずだった。
その修二の親は完璧をである事を望んでしまった。
完璧な環境、完璧な教育。
3人の男兄弟にかせられた完璧は、重いものと思われたが1人抜きん出た異才がいた。
それが末子の浅香修二である。
浅香の朝は早く夜は遅く、時間割は分刻みで動く。世間では監禁、拘束という犯罪を普通に教育へと組み込まれる。
食事を例にしてもそうだ、
食べるものは計算し尽くされた完璧な料理。うまい、まずい。残す、残さないは関係ない。そこにあるものを、食べなければならない。
病気をしてはならない。
風邪なんてひくようなら病院の家系の恥だと怒鳴られみるみる課題が増えていく。
修二は難なくこなし、兄達を追いつき、追い抜いた。
両親は称賛した。
が、よく思わないのが兄2人である。
「俺達より良い点を取るな」
とある日そう言われた。
普通なら褒められる両親の言葉を信じ、完璧な点を取り続けるだろう。
しかしでたのは「いいよ」。
馬鹿にした風もなくいってのけた。
その日から一転、修二の生活に動きが見れた。
テストの点数は落ちた。
両親は非難し、絶望と共に元に戻そうと躍起になり、兄達は自分達のたった一言で修二が変わる様にニヤリと笑う。
そんな彼らを修二はテレビの画面を見るようにみた。
どうでもいい。
それが彼の解だった。
兄達は日に日に、修二の扱いが悪くなった。膨大なストレスを修二にむかわせたのだ。両親には見えない所を殴り、蹴った。
そんな。なんて皮肉なものだ。
何もかも与えられた修二は、何も持たないただの子供に生かされる事になるとは。
事の発端は
家に侵入者が、押し入った事件だ。
複数班、計画的にしくまれたその事件で、修二はさらわれた。
家と身代金をどこまで釣り上げられるかという問題で修二は小汚いアパートにギラついた男とともに詰められた。
毎日繰り広げられる罵倒と暴力。
また、いつものようにベランダへと押しやられた時だった。
隔たりの隙間を覗く。
チラリと見えるのは小さな手と小さな足。子供だ。
どう見ても自分より年下なその子供。
隣の子供に
浅香の名を告げて良いものか、疑問に思ったが
「しゅうじ」
名乗ったのは、
ただの、自分、だった。
「只のしゅうじ」
音になると馬鹿馬鹿しくて、訂正しようと口を開く。
浅香修二と、
「しゅうじ」
無意識か少年が繰り返す。
キラキラと声にこもった憧れがじわりと耳に張り付いた。
「ぼくのなまえはゆぎですっ!」
とても美しい。
修二は繰り返す。
ゆぎ。
ゆぎ、ねー。
何故だかとてもよく馴染んで、覚えやすいと何となく思った。
頭に染み込む。
きっと
自分の名前より忘れない。
何故だろう。そう思えたのだ。
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