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「…は?」
眉間に皺を寄せて疑問の声が響いた。
不審な目でじっと見てくるその人に頑張って目を合わせると、やっぱり不審な顔を向けていた。
察するに、彼は行き倒れでもなく、死んでいたのでもなく、ただ寝ていただけだったのだろう。息してなかったけど。
確かに目の下には隈があるが、彼の顔の堀の深さからそれはあまり目立つことはない。が、寝不足オーラは隠しきれない相手を起こしてしまった。こんな所で寝ていたのだ、睡眠は彼にとって貴重だったのでは?
それを奪ってしまったオレは、寝不足な人にとって当たってもいい相手。こんな如何にも
喧嘩なれしていそうな人に凄まれたら、確実に泣く。
状況整理おわり。
ふむ。
この状況は、明らかにオレが話し出さなければならない。きっと。
えーと。えーと。
あ、初めて合った人にはまず、と
はっと思い立ち上がる。
「な!名前は藍川伊呂波ですっ。」
自己紹介必須!
先手必勝なのですっ!
「…あのッ息してませんでしたね!危ないですよっ!で、ではそう言う事で…」
頭の中がこんがらがって自分でもよくわからない。
取りあえず、言わないと行けない事を言ったと思うので慌ててUターン。
そのまま
一直線に駆けだした。
はずだった。
「ほわっ」
はずだったじゃん!
ドテッ。
「…何がしたいんだお前」
オレが地面とあいさつしている間に、ぼそりと呆れたような声が聞こえた。
◇◇◇
「……」
怪我してるの忘れてました。
痛いです…。真っ赤に腫れてます。そしてそして。只今、腫れた足首を見てもらってます。
盛大に目の前で転けたのに。
この人優しい…。
目の前の人をじっと見ていると急に視線を上げられて、徐に口が開かれる。
「骨に異常はねぇと思うけど腫れがひでぇ。よく歩けたな。冷やした方がいい。多分それで数日もすれば痛みが引く。あんま動かすなよ」
淡々とそう言って、徐に黒い布(黒いハンカチ)をポケットから取り出すときゅっと足首を包んで固定してくれた。
それにぽちくり一回まばたきをして、小さく何度か頷く。
「そう言えばお前、藍川伊呂波つったな?あれか転入生の…」
「…あ、はい」
さほど興味なさそうに「へぇ」と呟いた目の前の人は、そのままぼーっと上を見上げていた。
…まだ眠いのかな。
つられて上を向けば、緑と緑が重なって青と白が少しぼやけて見えた。
眩しい…。そう思って即座に地面へと視線を移すと隣から「…ふぁ」っと空気の抜ける音がした。
ちらりと横を伺ってみると眠そうに目を擦る姿が映った。ちょっと申し訳ない気持ちになる。
「…あ、ぁの。」
恐る恐る口を開く。
「ん?」
「…起こしちゃって、ごめんなさい…」
「いや。気にしてない。もう起きる時間だったしな」
申し訳なさそうに謝ると別段気にした風もなくそう言ってくれた。
ちょっと安心して、何となくちらっと横顔を見てそのまま沈黙。
何だろ。
この人話しやすいなぁ、とか思ってみたり。
まだ少しだけあった緊張が溶けていくのがわかる。自分では人見知りって程じゃないと思うんだけど、やっぱり初めて会う人には緊張する。
だけど少しの時間でこんなに慣れたのは珍しいかも、と思ってみる。
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