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差し伸べられた手を当然のように握り替えして、スタッとその場に立ち上がった綾瀬君は急に苛立ったようにキラキラの人を見上げた。
何か気に障る所があったみたいだ。分厚い眼鏡の奥で睨んでるようにじっと見つめている。
「お前、何でそんな顔してんだよ?」
大きな声で綾瀬君がそうはっきりと言うと、不思議そうにしていたキラキラの人は動作をカチリと止めた。目を大きく見開いて綾瀬君を凝視している。
「はい?」
「笑い方気持ち悪いぞ!ちゃんと笑えよな!」
「…き、君。確か綾瀬光君でしたよね?…どこかでお会いした事ありませんか?」
「はぁ!?…なな、ないぞ!初めてに決まってんだろ!?」
ずぃっと詰め寄るキラキラの人の前で、あたふたと綾瀬君が慌てて声を張った。それで何か隠してるのは丸わかりで、案の定キラキラの人は綾瀬君のぐるぐる眼鏡をじっと見つめて、ハッと気付いたように綾瀬君を包み込むみたいに抱き締め始めた。綾瀬君も驚いたらしく目を白黒させている感じ。
それをついていけず、ぼけーっと眺めているオレである。いいのです。空気です。話しはとても難しいので振られてもとっても困り、黙るのは目に見えていますっ。
「…碧蝶」
「!!」
ぽそりと愛おしげに呟いた言葉がそよそよと凪ぐ風に乗る。
せきちょう?
そんな蝶々いたかな?
聞いたことない。というか、今更だけどオレって忘れられてるよね。別にいいんだけどぉ。二人の百面相、面白いし。でもこういうのって二人っきりにさせてあげた方がいいのかな。
「碧蝶ですよね?!私があなたを見間違うはずがありません!会いたかった…会いたかった」
「ぅ゙…。」
「どうして急に居なくなったりしたんですか?!」
「……………。ちょっと色々あったんだよ!折角お前らが居るって叔父さんに聞いたから、驚かせようと黙ってようとしてたのにーっ!急に来んだもん!ずりーよ!」
考えてるうちに話が進んでたみたい。
まさかの急展開にテレビの中の出来事みたいで、ちょっとドキドキ。
そう思ったら急にテレビが恋しくなって来た。早く帰りたいなぁ。日向さんの家よりは小さいけど寮の部屋のもかなり大きいの。大画面で観れるなんて至福だもん。昨日はちょっと色々あり過ぎて観れなかったけど、帰ったら味わおう。
うん、そうしよ。
そんな事を考えながら
ここに来た日
青の入った綺麗な蝶を見た事をふと思い出した。
あれはあげは蝶じゃなかったのかなぁ。
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