アナタが世界でボクが色。 | ナノ


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―――だって



だって、
聞かずにはいられなかった。
「流君…戻って来ますよね?」って



いつもと環境が違うからかどうしてもマイナスな事ばかりが過ってそんな言葉を溢す。


『…珍しいですねぇ』


少し驚いた風な雑賀さんの声。でもいつも通りの優しい声。


『大丈夫ですよ。片が付いたら直接学園に戻られる予定ですから。心配しないで有意義に過ごしてくれればいんです』


少しおかしそうに笑って、そして『大丈夫ですよ』ともう一度繰り返す。そう一段と柔らかくなった口調でやんわりと返され、オレは「はい」とだけ答えた。

雑賀さんは、仕事にとても真面目だ。組織の為ならば平気で嘘をつくし、ウソは言わないだろう。とても優しい人なのだ。
そうやって言ってくれるのが確実に分かっていた。ずるい。ずるいなぁ。自分は。



「それと一応、他にも対策は考えてはいますが、何かあれば必ず、えぇ必ず連絡下さいねぇ?」


「…あ、はぃ…です」



その後2、3分話したあと言葉短めに電話を終わらせた。

雑賀さんも忙しい筈なのに、わざわざ掛けてくれたんだ。感謝しなくちゃいけない。
そう考えながらソファの上でキュッと丸くなる。



「やっぱり…学校行かなきゃダメ…だよね」



学校は毎日通うものです。にっこり。なんてさっきの雑賀さんの声で再生されて、がくりと項垂れる。
学校に行ってみたいなんて思ったのは紛れもなく自分であるのだ。
いつもより広くて暗くなった部屋でボソリと呟く。


「…だよね。うん」


こうやって離れてみるとオレと流君って本当に接点が無いんだって思い知らされる。
今のオレがどうしたって流君に連絡を取る手段も無ければ逢うことだって絶対出来ないと思うから。

流君が自分から戻って来なければ、もう一生逢う事だって。

実際、雑賀さんからの連絡がないと流君がどういう状況なのかもわからないし、オレにはただ待つ事しか出来ない。


屋敷とかマンションに居た時の“待つ”って行為も慣れてた筈なのに、場所が変わっただけでこんなに不安になる。
心底自分って面倒くさいって思った。
だってそこは、そこには流君に関係のある所で流君が戻ってくるって確実にわかる場所だったから


2ヶ月もずっと居れたから感覚が麻痺しちゃったのかも…人間の順応力って、やっぱりこわい。

あーだめだめです。

オレが今、出来る事は頑張る事。

である。頑張る事。



ああ頑張りたいー。



…流くーん



「怪我してないといいな」

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