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何で、
と言われても…
気づいたらここに居たから意味なんてないんだけど。
方向音痴だからね!とか
言ってみたら理由になるかな。
『何でこんなとこにいんの?』そんな事を言われたのでふと昨夜の出来事が頭に蘇る。
こんな森に迷う事になったのも昨日の電話がきっかけだったり…する
◇◇◇
流君が出掛けたあの時
無性に嫌な感じがしたのが当たったのか
その後の5日、何の音沙汰もなく6日目を迎えたある日思い出したかのようにその電話が鳴りだした。
もしかしたら流君かも、淡い期待をしつつ急いで受話器を耳に押し付けた。
「りゅ、流君、です…かっ?」
思いの外大きく出でしまった声に気付きもせず、ただ無機質な受話器からかえってくる自分の心臓がドキドキいってるのを聞いた。電話なんて数えるくらいしか出た事なんてないし、何よりあの声を期待してる心臓の音。
『いや』
─流君じゃない。
声も違うし、何より良く考えなくても流君が近状報告なんてマメな事、するような性格じゃない。
ばか。
『雑賀ですよ。お元気にしてやしたか?』
そう思いながら、緊張して次の相手の言葉を待っていると少ししてからつい最近聞いたような落ち着いた声が聞こえてきた。あれだ、流君の電話からもれた声は確かにこの人のもの。
「あ、えと…っ」
『はい、雑賀です。』
「す、すみませっ…あ、あの元気ですっ」
『それは良かった』
落ち着いたハスキーな声は以前会った時と全く変わらない。
オレが落ち着くまでゆっくり待ってくれる姿勢はとても大人だ。
「…あ、はいっ」
流君じゃなくて、事実落胆したのは本当だけどその独特な空気感で少しホッとさせてくれる。
勿論、雑賀さんも日向組の人であんまり良く知らないけど上の地位の人らしい…たぶん。よく日向さんと一緒に居る人で流君が居ないのは分かっているし、事情も知っている。
「それで…あの。流君は…」
『あぁその事で連絡した次第でね。…実はちょいと今組がゴタついていまして。詳しいこたぁ言えないんですが仁さんも出払っているもんでやむ終えず流生さんに応援を頼んだんですよ』
「そ、そうだったんですか…」
何となくそんな気はしてたけど、やっぱり組絡みだったんだ。わかってた事だけど…─
『それで、今後の事について二、三。学園へは仁さんの意向ですんで通常通りかよって下さって結構です。直ぐ、財布代わりのものを送りますから使って下さい」
ゆっくりと丁寧に、今後の事について話してくれる雑賀さん。
『何か分からない事はありやすか?』
でもそんな事は右から左。
「…あ、はいっありがとうございますっ……えっと……その、」
こんな事雑賀さんに聞いてもしょうがない事は分かってるけど、
『はい?』
雑賀さんの優しい声がオレの次の言葉を急かさず待ってくれていたから。
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