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あられから直ぐにほっぺたは解放されて、流君は何事も無かったかのようにまた携帯を持ち直している。放置だ。
オレはそれを暫く見て、赤くなっていそうなほっぺたを擦りながらまた窓の方へと視線を向けたのだった。
◇◇◇
「りっ!理事長がお待ちですので此方へ!」
その声でびくりと肩を揺らして目を開けた。知らない間に眠っていたらしい。目をふにふに擦って、風の来る方を見る。
ドアを開けてくれたようで運転手さんがこちらをチラチラと見ていた。
目的地到着みたいだ。
逸る気持ちを抑えつつ、視線を横にずらすと大きそうな建物が映る。
パチンと携帯の閉まる音と共に、そのままの状態で車の中から一緒に出た。
「…わぁあ」
そこで初めて建物の全体を見ると、それはもう……
まさに城。
白と深い青を基調とした、縦にも横にも大きい西洋のお城でした。凄すぎる!
こんなのハリーポッターの映画とか本でくらいしか見たことないかも。
多分、流君ん家の本邸位はある。いやそれ以上かも?
…と、
えーと、そんな事より…。
オレは一度頭を振って徐に見上げる。
「流君。もう降ろしてくれていいよ…?」
斜め前を早足で歩く渡辺さんに聞こえないよう、そう小声で伺いながらくぃっと掴んでいた服を少し引いた。
だって渡辺さんにはもう見られちゃったけど、さすがに理事長さんに会いに行くのにこの格好…というのはちょっと…。
「あ、あの流君?
……聞いてr―――ぅむっ」
流君に全く反応がなくて再度問い掛けようとしたら、行きなり携帯を口に押し当てられた。
流君はそのままカチカチと携帯を操っている。
「んー!むぅ!」
ど、どういう事っ!?
驚いて携帯を退けようとしたら、画面にあった視線がずれて目が合った。
「…黙ってらんねぇのか」
抑えもしない抑揚で言われた。スッと流君の目が細められる。
黙ってられないよねっ?黙っちゃだめなとこだよねっ?
そう低い声で言われれば何も言えないんだけど……。
「…ぅー…」
諦めて腕を離すと、興味の無くなったように携帯が離れていった。
…と、とりあえずお城の中を楽しみたいと思います…。
…はい。
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